お見合いなんて、クソくらえ!の巻
初めまして。初瀬 琴音です。
徒然なるままに、小説を書き始めて見ました。
今後とも、よろしくお付き合い下さい。
「そのようなお話は、受け付けられません。」
マホガニーの猫足テーブルを挟み、ハチミツ色の金髪で、王家特有の金色の瞳を持った美丈夫と、深い紫色の髪色で、アメシストの瞳の容姿端麗な女性が、金糸の刺繍が美しいソファーに座って、対峙している。
(まったく、自惚れもいい所だわ)と、彼女は思う。
深い紫色の髪の女性は、アンティア・ラバンディータ侯爵令嬢という。
彼女には、身寄りがいない。本当の両親は事故で亡くなった。
たまたま現場を通りがかった、ラバンディータ辺境伯家族が見付けてくれて、そのまま養子縁組を経て家族になった。
瞳の色や髪色が、ラバンディータ辺境伯爵夫妻と同じ紫系だったので、多くの領民は知らないのか、気にしていないのか、話題にものぼらないようだ。
アンティアは4大魔法、火・水・風・土のうち、風魔法の素質はあるが……あるのだが、不得意だ。
そのかわり、紙を使った『式』を操れる。これも、魔法の一種らしいので、風魔法が扱えない事は、あまり気にしていない。
ただ、珍しい術らしいので、護身の為にも人前では使わないように、気付かれないようにしなさい。と辺境伯にしつこく言われている。
アンティアは、ふと思う。なぜ、こんなことになったのか?
そもそも、数ヶ月前に、王妃様からのお茶会のお誘いがあったのがきっかけだ。
領地が遠いから(嘘)と、何度かお断りをしていた。というのも、ラバンディータ辺境伯は、血筋をたどれば王家につながるので、ある程度のワガママが、通用するのではないか?と考えたのだが、半ば強制的に王城に呼び出された。
「これも、社会勉強だよ」と、義兄のカイに説得され、王領へ来てみれば、王太子妃候補の選考会だった。
向かいに座っているハチミツ色の金髪の男性は、王太子オリバーである。
彼は、11時のお茶にアンティアを誘い「婚約を断るのが面倒になってきたので、仮初めの婚約者になってくれないか? 」と、頼んでいたのだ。
王族は、幼少の頃から婚約者が決まっている事が多かったが、近年、争い事が少なくなり政略結婚の必要性がなくなった。
そのため、婚約者が、決まっていない王族が増えた。また近年、恋愛結婚も増えている。
しかし、適齢期真っ只中の王太子に、いつまでも、婚約者がいないのは、如何なものだろうか?と、議題にあがった為、婚約者のいない年頃の令嬢が、王城に集められたのだ。
「わたくしでなくとも、殿下と婚約したい令嬢は、山のようにいらっしゃるのではなくて?」
アンティアは、上品に立ち上がり、一礼した後、笑顔の下に不満を押し込め、優雅にドアへと、歩みを進める。
アンティアが、ドアを開けようとした瞬間
「君は、王太子妃に興味ないの?」
いきなり、王太子に腕を捕まれる。
(なんなの、この男。バカにするのも、いい加減にして)
「わたくしの興味は、他にございます」
アンティアは、腕を振りほどいた。
彼女には夢がある。いつか、自分の生い立ちを調べるために、旅に出たいと思っている。
それこそ、一生をかけてもいい。
「いいね、その感じ。舞踏会で、また会おう」
柔らかく微笑む王太子に、アンティアは答えず、一礼し退室する。
アンティアは、護衛騎士に案内され、様々な彫刻が置かた、格子柄の廊下を、できるだけ、感情を抑え、優雅に歩き客室に戻る。
「私、帰るわ」
さすが王城のといえる、豪華だが無駄のない、鮮麗された調度品で揃えられた客室に入るや否や、ため息と共に、控えていたピンクの髪色の侍女に伝えた。
侍女のモモは、アクアマリンの瞳を細め、呆れながらも、テーブルに置かれた予定表を確認する。
「お嬢様の割には、だいぶ持ちましたね。もっと早く帰ると言い出すと思ってましたよ。」
「滞在予定は、あと3日位だったかしら?」
「そうですね……」と、予定表を見ながら、考え込み
「少し長めに5日位の術でお願いしてもいいですか?」
と、答える。
アンティアは、おもむろに、ポケットバックから、紙で出来た人形を取り出し、自分の髪の毛を、一本抜いた。
そして、それに髪を巻き付け、ベッドに置き、フーと息を吹き掛ける。
ムクムク~と紙が膨らんで、アンティアそっくりの人形がベッドの上に横たわる。
「婚約話に驚いて体調を崩してる。とでも言って、舞踏会の欠席の連絡をしておいてくれる?」
「はいはい。もう、ばれたらどうするんですか?なんて、言い訳しましょう。」
モモは、まったく困った顔をしないで、文句を言ってくる。
アンティアは、再びポケットバックから、鳥の折紙を取り出し、それに、息を吹き掛けながら
「頼りにしてるわよ、モモ。途中、どこかで観光しようかしら?港町か湖か…」
「港町じゃないですかね?隣国の船が入港したとか言ってたと思いますよ?」
みるみる折紙の鳥が、かわいらしいアメシスト色の小鳥になり、窓から外へ、飛び立った。
アンティアは、目を閉じて、小鳥に意識を集中する。
澄みきった青空を飛ぶ小鳥の目で、場内の警備と逃走経路を捜し出す。
「やっぱり王城ね。まったく穴がないわ。」
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今日も、良い一日でありますように。