花は何も咲かなかった
愛聴している、お昼のラジオ番組があるんですけどね、この前、不思議な事があったんですよ。
番組の中にリスナーからの疑問や探し物に皆で答えるコーナーがあるんですが、ある日の依頼が知ってる内容だったんです。あ、いえいえ、答えを知っていたのではなくて、メールの内容そのものを知っていたんです。
それは、『30年ほど前のある漫画を探しているが手掛かりが少なすぎて探せない』って依頼だったんですが、実はその漫画は私も探していたんです。
本当にマニアックな漫画なので、凄い偶然だと驚きワクワクしました。印象に残っている好きなシーンも私と一緒で、やはりあの場面なんだと、その奇遇さに嬉しく思いました。
あぁ、どんな漫画かっていうとですね、日本昔ばなしみたいな漫画なんですけど、なぜか滑落事故が多い峠道があって、心根のいい人が滑落すると綺麗な花、悪い人だと汚い花に死体が変わるんです。綺麗な花は麓の人が大事に育ててくれるんですけど、汚い花は鎌で刈られる。心温まる話でしょう。中でもその鎌の鋭さが印象的でね。もう気持ち良くスパンと。かっこ良かったんですよ。
で、翌週にはリスナーさん達のお陰で漫画のタイトルが判明しましてね。ほんと、あの人達凄いですよ。驚きました。依頼者さんとも電話が繋がっていて、ラジオはとても盛り上がりました。だけど…そこから私の違和感が始まったんです。
依頼者さんが話すその漫画とのエピソード、雑談の流れで明かした職業、三年前に毒親から逃げてきたという状況も私と一緒で。え?職業ですか?フリーターでアドバルーン監視員をしています。毎日アドバルーンが飛ばされないか、ラジオを聴きながらひたすら監視しています。珍しい仕事でしょう?あとね、思い返すと話し方も私に似ていたんです。こんなに一致する事ってあるんでしょうか。不思議です。
ずっと考えているんです。あのラジオで喋っていた人は誰なんだろう。
私の偽物でしょうか。
…いっそ私が偽物ならいい。
私が偽物なら、逃げる時に親を崖から突き落としたのは、なかった事になるでしょう?
ねぇ?
ラジオのモデルはた○むすび。