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大嫌いな旦那の話し

作者: 甲本ヒヨル


 うちの旦那とはよくある職場結婚だった。



 付き合う前の印象は、物静かで自分の世界を持つ魅力のある人。

 

 付き合って一緒にいる時間が増えてからの印象は、大人びていて私の意見を優先してくれる優しい人。


 そして結婚して同じ家で生活するようになってからの印象は、何を考えているのかもわからず自分の意見を言わない優柔不断な人。


 

 結婚してから大きく変わってしまった旦那。

 お出掛けする時に、私がどの服を着るのか迷ってどっちがいいか旦那に聞くと


 「美由の好きな方を着たらいいと思うよ」


 必ずと言っていいほどにそう言ってくる。

 たまに違う返答が返ってくるとしたら


 「美由は黄色が好きだね」


 という質問の的を得ていないような返答だ。


 私にとって旦那の返答は全部気に入らない。




 たまに大学時代の友達と集まり開かれる旦那の愚痴自慢大会がある。

 

 『旦那が不倫していた』

 『旦那のモラハラが酷い』

 『家事をひとつもしてくれない』

 『黙って借金していた』

 

 よく聞く旦那への不満が各々の妻たちから吐き出される。

 確かにそんな旦那は嫌だ。

 だがうちの旦那には、そんなことをする程アクティブになってほしいとも思う。

 

 「うちの旦那って自主性がないのよ。なんでも美由の好きにすればいいよって。私はあんたの意見を聞きたいの! って思うよね」


 私の愚痴自慢は決まってこれ一本だ。

 決まって友達は言う。


 「いい旦那じゃない? 別に文句言われるわけでもないんでしょ?」


 そう、文句なんて一度も言われたことがない。

 自分の意見ですら。

 私はいつもこの大会ではダントツの最下位が定着している。

 一層のこと、わかりやすく悪い旦那のような行動をしてくれたら順位を上げることができるのに。

 誰にも理解されない不服が、更に旦那へのストレスに変換されていく。


 

 一通りの家事が終わる昼前の時間帯にテレビを付けると、芸能人の不倫問題が取り上げられていた。


 『多目的トイレで不倫。女性軽視』

 『歳の差妻にモラハラ』


 世を騒がすのはいつも不倫やハラスメント。

 それがないうちの旦那だが、果たしていい旦那なのだろうか。




 夜になるといつも決まって19:30頃に旦那が仕事から帰宅する。

 私はその時間に合わせてご飯を用意して待っている。


 「この唐揚げ美味しいね」


 食事を食べ始めると旦那はいつもその日のメニューを変えるだけの決まったセリフを私に言う。

 毎日のように聞いている同じセリフに私は何の感情も湧かず、洗い物を済ませたいから早く食べてほしいとしか思わない。

 毎日同じことを繰り返す旦那が嫌いだ。

 


 

 休みの日でも仕事のある平日と同じ時間に起きて、私と出掛ける予定がない時は朝から昼頃まで唯一の趣味である植物いじりをベランダでしている。

 私がお昼ご飯なにが食べたいかを尋ねるといつも決まって


 「美由の作りやすいものでいいよ」

 

 休み日ぐらい外食をしようとすると決まって


 「美由が食べたいものがいいから決めていいよ」

 

 いつも私に判断を任せてくる旦那が嫌いだ。




 一度旦那のスマホを触っている時に、後ろから覗き見てしまったことがあった。

 相手は女性でハートの絵文字が使われていた。

 

 「それ誰? なんでハートとか使ってるの?」


 私は嫉妬する反面、この人も男らしいことをするものだと少し嬉しかった。

 

 「この子はこの春からうちの課に入ってきた新卒の子だよ。今僕に付いてOJT研修してるんだけど凄く仕事熱心なんだ。ほら、見て」


 旦那はスマホを隠す所かメッセージのやり取り全てを私に見せてくる。

 仕事だとわかってても若い女にハートの絵文字なんて送られていたら、私だって少しは嫉妬していまう。

 それなにの旦那は全て包み隠さない。

 優しい嘘もつけない旦那が嫌いだ。




 ある日、旦那に長期出張が決まった。

 場所は東北らしいのだが単身赴任で行くつもりなのか私になにも聞いてこない。


 「長期なら私もついて行こうか?」


 私は長期出張なら仕方ないと思い、一緒に行くつもりで旦那に聞いた。


 「いや、僕1人で単身赴任するよ」


 旦那と長い間生活してきた中で、私の質問に自分の言葉で答えた初めての言葉だった。

 一緒に行くつもりだった私だが、想定していなかった返答に違和感を覚えながらも納得するしかなかった。



 

 出張から3ヶ月が経とうとしていた。

 旦那は土日と祝日の連休があっても、一度も家に帰ってこない。

 それどころか一緒に暮らしていた時よりも連絡すら少ない。

 

 やっぱり私が旦那に不満や苛立ちをぶつけていたから、旦那は旦那で私に不満もあったのだろう。

 今頃、口うるさい私がいない出張先で羽を伸ばしていることなのだろう。


 

 いつものように家事を済ませて1人でお昼ご飯を食べていると電話が鳴る。

 見た事もない番号だった。


 「はい、もしもし……」


 電話口からは事務的な女性の声が聞こえる。


 『田中美由さんでしょうか? こちら東京都立駒込病院です。実はーー』

 「はい……?」


 私は電話を切るとすぐに病院に向かった。

 受付で聞いた病室まで駆け上がり、ドアをあけるとそこには私の大嫌いな旦那がベッドに寝転がっていた。


 「どうしたの、靴おかしいよ」


 私は急いで家を出たので左右別々の色のサンダルを履いていた。

 あっけらかんとそれを笑う旦那に憤りを感じ、旦那の元に駆け寄り思いっきり頬を平手で叩いた。


 旦那は笑顔で黙っててごめんね、と言ってきた。

 一体この旦那はどれだけ私を苛立たせるのか。



 ステージ3の胃癌の発見からはじまった。

 ただ発見が遅かったのと、若さから全身に転移している。

 私には長期出張と言って、そのまま黙って入院していた。

 余命1年を宣告をされ、私に連絡してきた。


 いつもは私に嘘や隠し事は一切しないのに、なんで初めてされた隠し事がこんな大きな事なのか。

 私を心配させない為に嘘をつく旦那が大嫌いだ。

 



 私が泣きながら怒っていると旦那が私に離婚届を手渡してきた。


 「僕はこれから死に向かって一年過ごすことになる。美由にとっては無駄な一年になる。だから僕のことは忘れて自由にしていいよ」


 目の前に差し出された離婚届をビリビリに破り捨てた。


 いつもは私に判断を委ねたり私の意見を聞くのに、なんで初めて自分の判断で意見を伝えるのがこんな大事な事なのか。

 私の人生のたった一年のことを考えて勝手な判断で意見してくる旦那が大嫌いだ。

 

  

 

 それから一年は仕事も辞めてもらって、退院して家で一緒に過ごすことにした。

 毎日毎日。

 朝、いつもと同じ時間に起きるとベランダで植物のお世話をして、私の食べたいものを一緒に食べた。

 


 そしてある朝旦那はいつもの時間に起きてこなかった。


 



 あれから1年経って旦那のお墓の前にいる。


 

 お墓に手を合わせられなくてごめんね。



 今、赤ちゃん抱いてて手が塞がってるからさ。



 幸せな毎日を同じように繰り返してくれない貴方が大嫌いです。


 





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 台詞中はともかく、地の文中では「旦那」より「夫」の方が適切ではないでしょうか?
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