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1 新しい家族

11章まで書くつもりです。

 私は、大好きな山に今別れをつげた。

羊歯や、山笹を踏み分けて歩いた。「ここに住んではいけない。山は自然に返す。君は、ここにいてはいけない。出て行きなさい」と 風が、動物たちが私を追い立てた。

 再び返られぬ山を後にして歩いた。夜は星の輝く下で、木の根元に寝た。サルが横で暖めてくれた。鹿も片側に寝ている。

「うーーん」 重くて目が覚めた。

「あれ、うーーちゃんも居たの」  ウサギは、私のお腹の上で見つめている。まわりは動物たちでいっぱい。道理で動きが取れないはず。

「おはよう、みんな一緒に居てくれたんだ。ありがとう」すごくうれしかった。私は、朝の光にやさしく照らされて起きた。

 木々の間から、黄金色の光と白く輝く、波のような光が、静かな山の頂から降りていた。

 今日も一つ山を越さなければならない。いつもいつも、みんなと一緒に居た。その友達と別れなくてはいけないのだ。

 私が生まれた時から、何かの動物がそばに居たと、父が教えてくれたのを想い出しながら、半分元気な声で、みんなに告げた。

「君たちは帰りなさい。遠くまで来すぎたからね。私は一人で大丈夫。さあ、反対向いていきなさい。私はむこうにいくから…。いきなさい、さよなら、元気にね」小さな友達は残り、見送ってくれた。あなた達には、家族がある。両親と、兄弟を悲しませるのはいけない。

「みんな助け合いながら、家に帰るのよ。気をつけてね」

 私は、松につかまりながら山を降りた。蔦につかまり降りた。サルやシカたちは近くに居る。又、みんなと一緒に歩いた。太陽が真上に見えてきた。水が飲みたいけど川に下りれば友達とお別れだ。我慢して歩いたが、もう限界だ。

サルが先を行く。水のにおいがわかったのだ。背の高い草を踏み分けて歩いた。後につずく友達のためにも歩きやすくしないと…。

 岩に出た。今度は シカが先導だ。足を乗せやすい岩を選んで飛び越えていく。みんなは後につずいた。川に下りた。水は冷たくておいしい。一列に並んで飲んだ。水浴びをする子も出てきた。私も顔を洗い、無数にある切り傷や、血の塊をきれいに洗った。少し元気を取り戻した。

「ねー、君たち、今度こそお別れだ。私は街に住む。町は人の住むところだよ。山は君たちの一番の住みかだね。お別れしよう。ありがとう」

 サルは枝から枝えと、キイキイ鳴きながら渡り歩いている。シカは、ひとみを大きくして私を見ている。その見方はやめて、悲しくなるもの。

私は分かれて歩き出した。一人で歩いた。

 山で生まれ、山で育った私が、この後、暮らしていくすべての条件を整えてあると話で聞いた町で暮らすために、自分自身でいく。これから私はどうなるの。山と町は、どう違うの。一人ぼっちなのに…。

 私の目はどうしたのだろう。霞んだら見えなくなるのがわからないの。しっかりしてよ。

 とうとおう広い道路にたどり着いた。白い線で区切られた道が、いくつも並び、あちら向きこちら向きした車が走る。草も無い、土も無い、石ころも無い、ただ道だけがある。その道を照らしている太陽は、手を横に伸ばした方向に傾いている。

 私は、まずい空気にむせながらも我慢して車の通りすぎるのを注意深く見つめては、「塚原高校にゆきたい」と 書いた紙を挙げた、上に上げた紙を吹き飛ばすスピードの車、手を振り走り去る車。何台も何台も行過ぎた。何でこんなに沢山の車が走るの。どこへ行くの。どうしてそんなに早く走るの。危なくないのだろうか?

 やっと一台止まってくれた。「さあ、乗って」 助手席の女の人は、窓から顔を出すと、優しく言った。白い車の後ろドアがあけられたので乗り込んだ。どれほど走ったのだろう、車は止まり、私を学校のそばにおろしてくれた。「ありがとう」 頭を下げ別れを告げ、 入り口をさがしたが見つけられなかった。

 道路には、車が沢山走り、歩道には、大勢の人が歩き、つずいている。ここには立ち尽くしてはいられない。

 私は、歩道に植えられている太い木を上り はみ出している桜の枝を伝っていき、塀の上に飛び移り、辺りを見回した。ボールをけりあっている男の子たちがいた。

「おーい」と呼んだ。誰もきずいてはくれない。もう一度、「おーい、そこの大きいの」前よりも声を上げて呼んだ、彼は、指を自分にさしながら、近くに来てくれた。

「高い塀の上に立っているのなんて危険だろが…はやく降りて、用があるなら入り口から入れ」男の子は文句を言った

「これがおれの入り口さ。これ受け取ってよ」背にしていたリュックを投げ下ろした。

「何だよ。危ないだろうが…」うまいこと受け止めた。

「いいからいいから、つぎのがいくよ」

「おい待て、まだあるのかよ」と 男の子は私を見上げた。塀との間にある砂場に降りられることは出来る。だが、かまうもんか。

「ああ、もう一つすこし重いよ。しっかり受け取れよ。絶対に落とすな」その子がリュックを置いて、こちらを見たときには、私は飛び降りていた。受け止めてはくれた。両手で抱きとめているが、よろめき尻餅をついた。今度はうまくいかない。すこし、大きすぎたようだ。

「お前は…」そのこはビックリした顔で私を見て硬直している。

「誰にも言うなよ」ポカンとしている男の子のほほに、口を押し付けると、立ち上がりリュックを拾い、建物をめがけて早足で歩き出した。

 ボールけりをしている人達と同じ服装をしているから一休みか、校舎近くの階段にいた男の子の前に行き、「校長先生のところに連れて行ってよ」と 声をかけた。

 驚いたように私の姿を見て、迷っているようだが、行く気があるのか歩き出した。遠く

のほうから、「勝彦」と呼んでいる声がした。顔を上げると、あの子だ。手を振り礼の挨拶かわりにして、前を歩いている男の子に、「リュックを持つくらいの親切はあるだろう」と 言いながら押し付けたら、この子はむっとしている。私は、知らん顔して並んで歩いた。

 校長先生は、五分ほどしないとこられないことがわかった。椅子にかけて待つように言われても、返事も出来ない。ここまでこれた安心と、疲れとで、立っていられない。座ると同時に眠ってしまったみたい。起こされたときには、半身床に落とした格好で寝ていた。今は、あたりが薄暗いようだ。、イスの横には、これから必要になる教科書類が置かれていた。

「君は、どこか住む所を決めてあるのかね」と 校長先生は、ほかの事は何も聞かないで、じっと私を見ながら言われた。先生の前には、書類が開かれていた。

 私はピンと来ない。もう一度言われて、「ああ、それ…」しばらくは答えられない。考えたこともない。町の人は決めておくの…。どこでもとはいかないの…。やっと意味をさとり、わからないと言えば、校長先生が決めてくれるのだろうか。

 その時、ここまで連れて来てくれた子の名前を思いついた。「勝彦君の家」 私は心配になってきた。一度聞いた気がしただけだし、どんな家族か、どこに住んでいるのか、何も知らない。「だめだ」と言うに来まっている。これは一人よがりだ。でも、一人しかわからないからしかたない。どこかにいけとは聞いてない。気分は最悪だ。

「一緒に来た子の家か。それはいい。早速、迎えに来てくれるように電話してもらうよ」

 あらためて書類を見た校長先生は、部屋を出て行かれた。そんな事あるのかなー、簡単に納得している。先生は、知り合いだと思うのかな。全然違うのに、変だよ。私には不思議に思えるけど、この町は、これが常識なんだろう。


私の新しい一日、なんて変てこりんな日だろう。誰も何も言わない。人工の光輝く町中を車は走っている。私は車の窓から外を見ている。店の光、家の光、車の流れの光、高いビルの光、光ばかりだ。空は暗いのに、下界は太陽のように明るい。これは不自然だ。明るくて、昼間がつずいているみたい。こんなのおかしい…。

「どうしてなの…、涼やかな匂いはどこへ消えたの?、緑の風は吹かないの…、遠くにしか星は光らないの…、誰も気にしないの…」

 いつの間にか車が止まり、ドアが開けられて女の人は階段を登っていく。男の子は、私のリュックを持ち、玄関に入っていく。車の男の人は、手を伸ばし、手首を振る。私に外に出るように言う合図らしい。

 家に入ると、「そこにかけて」 黒くてやわらかなイスを指差して、男の子は言いながら、私がいるイスのそばにきた。

あなた、食事はまだでしょ」女の人は、にこっとして私の顔を見た。

「お腹すいてない」と 私は体を硬くした。食べることを聞かれるとは思いもよらない。

「おれ、ペコペコ」と 男の子。

「学校では、何も食べられないはずだよ」 またもや男の子は言い出した。

 学校で食べられるか、食べられないか知るわけないだろ。いゆ食べたのやら忘れているのに…。

「ああ、食べてないよ、ずっとね」 いらいらした。

 山を出てから、幾日食べてないのか、いまはなにも感じない。どうして、私が食べられると思うのか…。どうして、自分たちと同じにしなければいけないと思うのか。かまわないでくれたらいいのに、一人になりたいだけなんだ。

 部屋に入ってきた男の人は、家族を一回り見回すと、次の部屋に歩いて行きながら、

「みんなで食事だ」と 言う。うれしそうな顔、うきうきした態度、男の子に手招きされ、しぶしぶ従う私。 部屋は広く、清潔な食器棚や、大きな冷蔵庫が置かれている。四人は食卓に着いた。色々な料理がおかれていた。きっと、わたしの事で食べるのが出来なかったのだ。

 濡れたナプキンを渡された。横を見ると、手を拭きながら、「ママの作品」と にっこり笑う男の子の顔が、すごく明るい。私も真似して、テーブルの上に広げた。「ああ、きれいだ」真っ白なナプキンの片隅に、小さな花が刺繍されていた。

「だろう…」「うん」 二人は、顔を見合わせてにっこり。

 女の人は、あたたかなスープを渡してくれながら、私を見ている。

「いいから飲みなさい。ゆっくりゆっくりよ。そうそう、もう一口飲んでーー」のろのろしている私を見て、女の人は、自分でスープを飲ませたいように、身を乗り出している。

「いいぞ、その調子」 男の子は、野菜を食べるシャキシャキした音、肉を力強くかむ音、器を持ち変える音などをさせて、気持ちよさそうに食べている。

 私は、三人の顔を恐る恐る見た。もう一度顔を上げたとき、彼と目が合い、ウインクされて戸惑いあわてた。また、私を見ておかしそうに笑う。ママさんの優しい目が頷いていた。

ママさんは、40代位の色がとても白い、少々太めの人、ふっくら丸顔で、目は大きな二重、優しく微笑む口元がすてき。

 私は、ほほが赤いのは暖かいスープのせいにして、一口、また一口とスープを飲みつずけた。

もう一度、顔を上げたとき、男の人と目が合い、「少し話をしてもいいかな」 男の人は低い落ちついた声で話し出した。この人は、背が高く、仕事を一生懸命にやる人に思えた。私は、ビクッとしたが、何とか座っていた。

「君の名前は、塚原祥子 と教えられたけど私たちの名前も知ってもらいたいんでね」私は、男の人を見た。その人は、背を真っ直ぐにすると、「父親の裕造、近藤裕造、母親の由起子、息子の勝彦、よろしく」 口の両端を少しあげて、頭を下げてくれた。

 やさしい顔が現れた。二人ともペコンと頭を下げた。「よろしく」 三人とも、私を安心させようと、気を使いながら笑顔で挨拶してくれた。私もあわてて頭を下げた。よろけてテーブルに当たり、音を立てさせながら、「おねがいします」と…。

 私の名前は祥|?。何かがおかしい…。泥だらけの破れたトレーナーとジーンズ姿で平気な顔して、きれいな部屋に平然としている自分の姿を思い出した。男の子だ。

「あちらの部屋で、君の話をきかせてくれないか」 男の人は立ち上がり歩き出した。二人も一緒に立ち上がると、すばやく勝彦が横により、「パパ、ママと呼んでも、僕かまわないよ」 早口に言うと、さっさと歩いていく。

 勝彦はハンサムで背が高く、日に焼けた顔は申し分なく、目はいきいきと輝き、鼻は高い。口はきちっと結べば、一文字になる。一人っ子の少し甘えん坊に見える。

 私はのろのろ歩いた。さきほどの椅子についた。家族は、長椅子にかけて、私の方を見ている。のどに何かが詰まっているみたい。声が出ない。どうしよう。怖くて震えがした。勝彦がそばに来て、肩に手を置いた。

「落ち着いて、話せる所だけでいいんだ」「うん」 目を閉じてしばらく俯いていた。顔を上げて、パパさんを見た。頭をいくども上下に振るパパさんが見えた。私は、話し始めた。父さんから来たことを……。

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