「妖精狩りと魔物嫌い・前編」
魔物保護ボランティアに金髪エルフのフィルを加え、ユーリの波乱万丈な旅はますますヒートアップ?
本編「MOLOCH」の前座的な短編小説として投稿しています。
大体全5話を予定してますので、その後本編の執筆活動を始めたいと思います。
ここはセアシェル大陸・・・、広大な大陸に4つの国が存在し、4人の王が治める大陸・・・。
魔物が数多くはびこるこの世界、人なら誰しも魔物を恐れて嫌うのが当然の世界。
しかし近年、魔物に対する扱いが変わってきていた・・・。
魔物を恐れて暮らす世界ではなく、魔物と共存して暮らす世界を目指す組織が出現した。
その名も「モンスターズ・ボランティア」・・・。
魔物の救命・保護を目的として、人間と魔物との仲を取り持つことを第一としている。
勿論、危険な魔物も実際に存在するが、彼らは魔物に関する確かな知識を持ち、その生態を
研究することで、人間に危害をもたらさないように導くことで共存を実現させようとしているのだ。
そしてこの世界で唯一その組織を立ち上げて、実際に活動をしている人間はたったの二人・・・。
創設者は若干12歳にして「水の聖都・フォースフォロス国」での神官職を修得するも、暗黒魔術に
手を出してしまったことにより追放される・・・。
その後、独学で黒魔術・白魔術をマスターし、13歳で魔物保護団体である「モンスターズ・ボランティア」
を開設してしまう。
14歳になった現在、とある事件で仲間となったエルフと共に魔物との共存という夢を実現させるために、
日々過酷な毎日を送るのであった・・・!!
「・・・って、何自慢だ!つか何が夢の実現だ・・・っ!過酷な毎日っ!?・・・地獄の日々だっ!!」
そう言ってサラサラストレートヘアーの金髪を軽やかにたなびかせて、耳が異常に尖った端整な顔立ちの
男が愚痴をはきだした。
その1メートル先をスタスタと歩いて行く華奢な黒髪の少女が、愚痴なんていつものこと・・・とでも
いうように見事にシカトしてそのまま歩き続けていた。
「おいっ!!聞いてるのか!?」
「イヤでも聞こえてるわよー。男のクセに愚痴なんてみっともないことはやめなさいな。」
「愚痴の一つも言いたくなるわっ!!
毎日毎日資金稼ぎだとか抜かしてギルドの依頼を次々引き受けてきやがって・・・!
誰が遂行してると思っている!?
全部俺が働いて、ギャラは全部お前が徴収するとはどういう了見だっ!!」
ずかずかと早歩きで少女の横に並ぶと、愚痴の一つどころか次々愚痴を言いだした。
それだけストレスがたまっていて、もはや我慢の限界がきていたのだろう。
それでもエルフの方をチラリと横目で見るだけで、黒髪の少女は軽くあしらう。
「あのねーフィル、最初に言ったけどあたし達は魔物保護のボランティアが本業なのよ?
魔物の保護と一口でいってもやることはたくさんあるわ。
そのためには食費や宿代、魔物保護の内容によってかかる費用・・・。
こういう組織を運営していくには資金がいくらあっても足りない位なんだから!!」
それは前にも何度も聞いた・・・とでも言いたげに口をへの字に曲げて両腕を組むフィル。
「しかしだな、ユーリ。
俺はお前の組織に入ってからというもの、もうかれこれ一か月は経過するが魔物に関する
ボランティア的なことは何一つとして、活動している所を一度も見ていないんだがなぁ・・・。」
どうだ核心をついてやったぞ・・・とでも言うような得意満面な表情でフィルが攻撃してきた。
それでもユーリの態度は微動だにせず、フィルの言葉を受け流すことしかしなかった。
「魔物ある所に我らの生きる道あり・・・よ。」
「怪我するか、ヘタすりゃ死ぬだろ・・・。」
「それは一般人の場合!!あたし達での意味は、仕事の始まりだって言ってんの!!」
どうにもかみ合わない二人の会話は、森に入ってからずっと続いていた。
ここは妖精の村があるといわれている森、サフィレスの森だ。
うっそうと生い茂った木々には妖精の魔法がかけられていて、一度足を踏み入れれば
侵入者は森に化かされて二度と出られないとさえいわれている。
しかし、南に位置するヘルメス国から北東に向かって、大陸の中央にあるフレイム国へ行く途中にある
「迷いの森」に比べれば子供だましの迷路・・・という程度だ。
この「迷いの森」に入ればそれこそ、森の妖精の加護がなければ生きて出られはしない。
フィルはエルフの勘で、この森は安全ではないと肌で感じていた。
「なぁユーリ、この森を抜けるつもりか?
わざわざサフィレスの森を通らなくても、ザピスの町を経由していけば目的地にはたどり着けるだろう。」
森に入ってからフィルはピッタリとユーリのそばを離れないように、くっついて歩いていた。
「ザピスをいちいち経由してたら、10日はかかるわ。
それよりこの森を抜けた方が5日で目的地のラルヴァへたどり着けるんだから・・・。
多少視界が悪くてもこの森を通った方がかえってラクなのよ。」
「・・・迷うぞ。」
「あんたじゃあるまいし。」
・・・沈黙が走った。
そう、つい1週間前のことだった。
配達の依頼で隣町まで届けに行く仕事をしていた時、フィルは隣町とは全く正反対の方角へ向かっていて、
結局その簡単な依頼を達成するのに3日はオーバーしてしまったのだ。
おかげでギャラをもらうどころか、期日内に届けられなかったということで罰金を支払うハメになっていた。
ユーリはそれ以来、フィルに方位磁石も地図も道案内も頼まなくなったのである。
「オ・・・、オレの事はともかくだな!!本当にこっちの方角で合ってるんだろうな!?
森っていうのはな、・・・怖いんだぞ!?」
「だーいじょーぶだって言ってんでしょ!?
ほら、磁石だってちゃんとこうやって東をさして・・・。」
ぐ〜るぐ〜る・・・。
「・・・・・・・・・・・・え。」
「・・・・・・・・・・・をい。」
ぐ〜るぐると360度、延々と回り続ける磁石を黙って眺めるバカ二人。
「ちょっとフィル!!どうしてくれんのよっっ!!」
むんずと、フィルの襟を掴んでねじあげる・・・(が、身長差がありすぎてユーリの腕がまっすぐに伸びた
だけだった)
「なんでオレのせいになってるんだ!オレは何もしていないだろ!先頭切って歩いてたのはお前だろうが!!」
「なに?エルフって剣術バカ?魔法バカ?帰巣本能のカケラもないわけ?
普通エルフっていったら森とダベって色々コキ使ったり出来んじゃないの!?」
「エルフを侮辱するつもりか!?
大体エルフに関する知識が偏り過ぎてるぞお前!!」
「あたしに反論するなんて上司侮辱罪よ!!罰としてここ1週間は晩飯抜きだからねっ!!」
ドゴォォォオオオオォンッッ!!!
突然の爆音と爆風にユーリ達はとっさの判断で、側にあった大木の陰に身を潜めてマトモに衝撃を受けるのを
避けた。
「な・・・っ、何・・・っっ!!?」
陰に隠れながら、反対側の大木の陰に隠れていたフィルに向かってユーリが叫ぶ。
叫ばなければ爆風でかき消されてしまうからだ。
「わからない・・・っ、だがこの森の一部分が吹き飛んでいるのは確かだっ!!」
しばらくすると爆風がやみ、辺りからは何やら焦げ臭い匂いがしてきた。
爆心地らしき方角へ目をやると、そこからもくもくとどす黒い煙が上がっているのが見えた。
「さっきの爆発で森に引火した・・・、大変っ・・・山火事になるわっ!!」
「お・・・おいユーリっ!!」
フィルが止める間もなく、ユーリは煙が上がる方角へ向かって無謀にも走り去ってしまった。
「山火事なんてお前一人でどうにかなるものじゃない・・・、やめろっ!!・・・死ぬぞぉっっ!!!」
これも前作(第1話)と同じく、私が高校生の時に書き下ろした小説に少し手を加えて投稿しました。
あなたのお時間が許すならば、ぜひ感想などお待ちしておりますので、よろしくお願いいたします。