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72.黒
「年末ってのはスペシャル感があっていいもんだねぇ」
年越しのTVを見ている一同にそう言いながら、ツェンがざるに盛られた蕎麦を机に置いた。
「どっかの国じゃ、年が変わる夜にこいつを食べるらしいぜ」
「お母さんも作ってたけど、あなたの国の文化だったの?」
「さてね。昔のことはあんま覚えてねぇんだ」
リネアと言葉をかわしながら赤眼の男がルーチェの作った麵つゆを見つめる。
「さぁて、どんな分量だったか」
「お手伝いさせていただきます!」
器にどぼどぼと水を足す赤毛の女をツェンが止める。
「そりゃあ多過ぎるぜ」
「へ?」
間の抜けた声を上げるルーチェにリネアが言う。
「それじゃ水と同じよぉ?」
「え、へへ。そうですね」
笑いながら器を台所に運ぶ女を見たバーズが口を開く。
「時間だ」
その言葉を聞いたリネアが、部屋を去る青眼の男につれていかれる。
TVの前でソファに座っている金髪の少年を、栗色の髪の少女が抱きしめた。
「前提として話しておく」
眉間に皺を寄せた青眼の男が口を開く。
「今夜、ルーチェは死ぬ」




