21.余談
「狩りに行ってくるよ。いつもの果実の搾り汁を用意しておいてもらえると嬉しいな」
黒髪黒眼の青年が石槍を手にすると二人の女に告げた。
「作っておくから無事に帰ってきてね」
「行ってらっしゃい、兄さん」
母親と妹の言葉に笑みで応えると、黒髪黒眼の青年は仲間達と合流し狩りに出かけていった。
「ちょっと待って」
ツェンの過去を語り始めたバーズをそう言ってリネアが止める。
「アイツ元々は黒眼だったの? っていうか狩りって何? 石槍? 何千年前の話?」
「質問は一つに絞ってもらえると助かるのだが。聞いていればそのうち分かる」
その返答を聞き、思案した黒髪の女が言った。
「何年前の話なのかしら……?」
「おおよそ二万年前だ」
その答えに硬直した三人にバーズが言葉を続ける。
「それ以上質問がないのなら話を再開しよう」
「今日は良い獲物が取れた。暗くなる前に戻るぞ!」
そう声を上げた頭領に
「アイツが死なない理由だけ教えてくれない?」
再びリネアが青眼の男の言葉を止めた。
「今度は何だ?」
「話が長そう」
そう言われたバーズが青い眼を光らせて質問をする。
「かいつまんで話すことになるが?」
「気になったことは聞くことにするわぁ。ね、シルファちゃん」
突然話を振られた栗色の髪の少女が、戸惑いながらも答える。
「私も聞きたいけど……」
その答えにリネアは豊満な胸にシルファを抱き、彼女に告げた。
「聞きたいことがあったら、アイツの頭をこうやって抱いてあげるといいわよぉ?」
「ふざけないで!! 貴方のそういうところが嫌いです!」
ソファに押し倒されながらもリネアを跳ね除けたシルファが叫ぶと、バーズの座っている椅子に駆け寄った。
「私だってふざけてる訳じゃないのよぉ」
「そうやって女性を売り物にしているところが大嫌い!!」
怒りを露わにした少女にバーズが告げる。
「彼女にも果たすべき仕事がある。君を挑発してでも引き出したい情報があるのだろう」
「だったら帰ってもらってよ! 私はこんな女の傍にいるのは嫌!」
バーズがシルファを諭すように言った。
「前にも言ったが彼女はツェンの客だ。アイツが俺に『話していい』と言うならば、借りを作った俺には話す義理がある」
「じゃあ私も部屋に戻ります!」
そう叫んで歩き出すシルファの肩を掴んで引き留めると、バーズが二枚のカードキーを手に握らせた。
「1404が私達のカードキーだ。そこにツェンとエルもいるだろう。1405が君の部屋だ」
顔を顰めたシルファが無言でそれを握り締めると部屋から出て行った。
「いいのぉ? お姫様は怒っちゃったみたいだけどぉ?」
「ツェンとエルがいる部屋に行くだろうから何も心配はしていない」
「経歴だけを見ればあの二人は犯罪者みたいなものじゃない。どうしてそんなに信用できるのかしらねぇ?」
「ツェンはともかくエルを犯罪者などとは言うな」
バーズはリネアの瞳を睨めつけ答える。
「怒らせちゃったみたいねぇ」
「エルを犯罪者だという認識ならば君に話すことはない」
低い声色で告げるバーズにリネアは答えた。
「それは私も悪かったわよぉ。資料通りのことを言ったけど、二人ともそんな感じじゃなさそうだしねぇ」
「その資料の通りならばエルは殺人を犯しているということになるな。言っておくが、あの子は人をその手にかけたことはない」
リネアが端末にメモを取りながらそれを聞いている。
「だがツェンは億単位で人を殺した。何の罪もない無辜の民をな」
「億……?」
端末を操作する手を止め、リネアが聞き返した。
「説明には時間がかかる。俺の話を止めずに最後まで聞くと約束するのならば先を語ろう。メモを取ろうがボイスレコーダーを起動させ続けていても構わない」
「こっちのことはバレバレってことかしらぁ?」
そう言ったリネアにログがその耳元で大口径のリボルバーを空包で撃った。
その轟音に意識を失ったリネアの体をまさぐると、記録媒体と通信装置の全てを取り出し音もなく部屋を去っていく。
リネアが目を覚ますまでの間に駆けつけてきた従業員に青い眼を光らせると、バーズは彼女が起きるのを待った。




