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The ability  作者: 不破陸
The ability
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20.疑念

「さっきの騒ぎはどういうことだったの?」


 ホテルの一室に集まった六人の内、栗色の髪の少女が青眼の男に問いかける。


「私も聞きたいわねぇ。後処理は管轄の警官に任せてきたけど、さっきの偽警官が着ていた装備はどう見ても本物だったしねぇ」


「それはそうだろう。正規の警官から奪ったものだからな。死体は見つからないだろうが七人の警官の所在が確認できなくなっているはずだ」


 青眼の男の言葉に端末を取り出したリネアがメモを記録しながら言う。


「とんでもないことじゃない。目的は何なのかしら?」


「俺達の、主に俺やツェンの情報を得たかったようだが詳細までは分からない」


 その説明にシルファが何かを言おうとして止めた。


「ただこの件に関してはレーベルクが関わっていることは確かだ。そしてこれは憶測だが極東の連中もな」


「大戦の頃に北にある帝国の元帥だった人よねぇ? 極東に関しては元帝国からの独立を果たして今は北の共和国から支援を受けて文化的に暮らしているって聞いているけどぉ?」


 バーズは懐からビニール袋に入ったコンタクトレンズを取り出すと机に置く。


「極東のことは不明点が多いがレーベルクという男は研究、開発を依頼されればそれがどのような結果を引き出す可能性があろうと喜んで引き受けるような性格だ。ヤツが帝国の元帥の座に着いたのも自由に研究資金を使えることと、兵器の需要が高まることによりそれを研究の発想のヒントにするためさ。戦争を激化させ、更に均衡状態を保とうと敵国にまで研究成果を秘密裏に流すような狂人だ」


「どうして戦争を長引かせるようなことをしたのかしらぁ? 人が苦しむのに快楽を覚えるような変人なの?」


 青眼の男の説明に長い黒髪の女が質問をした。


「あれ程の大規模な戦争が起こると人類の科学レベルは飛躍的に上昇する。レーベルクとしては資金の調達が容易になり、倫理を無視した人体実験を行え、戦略・戦術のために通信技術や兵器の需要が高まる状況は理想的だった。ヤツにとっては世界など平和であろうが荒廃しようが興味がない。あるのは自分の研究結果を見てみたいという欲望だけだ。それが通常状態では考えられない速度で達されるなら、ヤツは永久に戦争を終わらせたくなかった」


 それを聞いて赤眼の男が訊ねる。


「そんな野郎が今も科学者として生きているのが分からねぇな。何か罪に問われなかったのか? お前さんも戦時中はそいつを始末しろって俺に言ったじゃねぇか」


「お前には説明したが他国に対して武力を行使することは国連の条約により禁止されている。だから今は戦時中に保有していた兵器を残してはいても、兵器開発に各国はそれほど頓着していない。レーベルクも破壊兵器のみを作りたい訳ではない。ヤツの思想は狂気じみているが優秀な科学者であることは間違いないのさ。戦争が終わった今、ヤツの研究は世界を豊かにする方向へ使える可能性が高いと考えた。だから俺も今更気にはかけていなかったのだが」


 一息置くとバーズが続ける。


「そしてあの戦争に勝者はいない。いるとすればツェン、お前だ。だから各国には戦犯もいなければ賠償金を払う相手もいない。元々ヤツが行ったことを知っている者もいない。むしろ旧帝国ではヤツは英雄として称えられているくらいさ。お前が消滅させた旧帝国の一部地域も隕石の落下ということになっているしな」


「各国の国民の政府や帝国に対するわだかまりはないの?」


 栗色の髪の少女の質問にバーズが答えた。


「各国で多少の暴動は起こったが、元々が百年前に各国同士が小競り合いを起こしたことの延長だからな。そして旧帝国が連邦国となったのが約七十年前、他国の領土を積極的に奪うようになったのが約五十年前、その旧帝国も今は共和国として再編されている。戦争により家族や友人、愛する者を失った悲しみの数は計り知れないが、戦争の始まりに関しても政府に責任を問えない上、敗戦した訳でもなく突如として戦争が終わり、各国が和平条約を結んだ後に国連が平和を唱え出した。国民達も混乱の中、各国政府がインフラの整備や戦災による被害に対して補償を始める中、自分達の苦しみをぶつけようにもそれをする相手が見つからなかったんだ。何より悲惨を極めた戦争が終わったことによる安堵が大きい。その点に関しては多少は現代史に記されているが、目下学者達が戦争やその後のことについて考察している」


「何言ってるのか分からねぇし、聞いててもつまんねぇから俺自分の部屋に行ってていいか?」


 そう告げた金眼の少年に赤眼の男が言う。


「なら俺も一緒に行くぜ」


「私との話はどうなるのかしらぁ?」


 立ち上がったツェンにそう告げるリネアに赤眼の男が言葉を返した。


「そいつぁバーズに聞いてくれ。そいつが言うならそれが俺の説明だと思ってもらって間違いねぇよ。やっぱ俺の口からは言いたくねェし、聞きたくもねェんだ」


 そう言ってエルと共に別室に移動しようとするツェンがバーズに告げる。


「お前さんが言えることなら何を話してくれても構わねぇ」


「本当に良いのか?」


 肩越しに手を上げるとツェンが黙ったままエルの後ろをついて部屋から出て行った。


 その後姿を見送るとリネアとログに目をやったバーズが口を開く。


「歴史の授業は以上だ。昼に言った通り君達の質問に答えよう」


「私の知っている歴史とは随分違ったものだったけれどねぇ」


 リネアの言葉を受けてバーズが栗色の髪の少女に質問をした。


「シルファ、君も同じような見解かな?」


「大戦の大まかな流れはバーズが話した通りだと思うけど……。戦争がいつまでも終わらなかった原因が一人の男の仕業なのは知らなかった。そう言われても信じられないくらい」


 シルファの答えを聞き、バーズがログの眼を見やる。


「戦時中にそのような与太話を聞いたことはある。もっともそれが本当の話だとするならば、その生き証人はもうこの世にいないが」


 各々の言葉を聞き、バーズが告げる。


「どのような認識を持っていても構わないが、私が話すことに偽りはない。君達の質問も大体は分かっている。その答えは全て事実だと思ってくれ」


 青い眼を光らせる男にシルファとログは何も言わなかった。


「本当はツェンの口から聞きたかったのだけれど、ツェンの生い立ちのことを説明してもらえるかしらぁ?」


「君の出生についての話にも触れることになるが?」


 その言葉にバーズの青い眼を見ながらリネアが言う。


「構わないわぁ。教えて頂けるかしら?」


「ツェンの言葉を借りると、大して面白くもない話だがな」


 そう告げたバーズが語り始めた。

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