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八英雄とユウ。

「……」


これは一体どういう事だろう?あのバ…八英雄が率先して部屋の掃除と洗濯をしてる。

何かの間違いだと目を擦るが映るのはいつもよりも少し、いや結構奇怪な風景。


俺が買い物から帰ったらこうなってた。出来ない掃除をして部屋が汚くなってるけど。まぁそこはいいとしてもおかしすぎる。


確かに俺は掃除とか洗濯、家事を覚えてほしいとは思ってるけど何か違和感があるんだよね。こう、必死っていうか、楽しいとかそういうのが感じられない。

皆切羽詰まった様子でやってる。


「ねぇミーニ…」

「おかえりにゃユウ!今日は皆で掃除もするしご飯も作るにゃ!だからゆっくりしてるにゃ!」


俺が名前を呼び終わる前にミーニャは肩を掴んで汗を垂らしながら必死に頷く。

やっぱりおかしい。何か見てて良い感じが湧いてこない。まぁ取り敢えず全員が満足するまでやってもらうかな…


俺はそれから自分の部屋に入り物音が無くなるまで出るのをやめた。


ーーーーーー


「ふぅ、これでユウは手伝わなくなったにゃ…」


少年が部屋に入ったのを皮切りに一斉にまた動き始める八英雄。

全員汗を流し、思考し、頭を悩ませる。そして改めて感じていた。少年の負担を。

朝は自分達のご飯を作る為早起きし、終わったら家の掃除。この広い家の掃除をたった一人で、だ。


昼は洗濯物を干したり畳んだり。それを全員の部屋に持って行っている。それに買い出しに城下町まで行くこともそう少なくはない。

そして夜はまた自分達のご飯作り。

これだけの仕事量をたった1人でやっていた。


英雄達は痛感していた。少年が本当に頑張っていた事に。

あの王城でアドバイスをくれた兵の言葉が突き刺さる。全員、あまり綺麗になってない部屋を見渡し消沈。


これが今の自分達の現状だったのだ。


「ユウ、いなく、なるの?」


ノアは言った。言ってしまった。その言葉を受け、全員が声を上げて泣いた。子供のように。その時どこからか扉の開く音が聞こえた。


「…何してんのお前ら」


ーーーーー


何か物音とか止んだから終わったのかなーって思って部屋出たら綺麗にはなってないわ全員泣いてるわでなんかカオスだった。


んで俺を見るなりバカ英雄共は申し訳ない顔して顔俯かせるし。はぁ、ほんとやれやれだな。


「何か王城であったのは分かっけど直ぐに出来ないことが出来る訳じゃないから」


多分俺の為に掃除とかをやってくれてたのは察しがついてた。まぁ汚くなったけど誠意とかは伝わった。


でも。


「全員さ、やってて楽しいかった?」


俺の言葉に顔を見回しやがて全員首を横に振る。まぁそうだろうなって思った。だっていつも見てる顔じゃないんだもん。ちょっと怖いくらいだった…ってのは言わないでおこう。


俺は全員をリビングに呼んで全員を座らせる。なんか完璧に気持ちが沈んでる感じの英雄達。少しは楽にすればいいのに。


「別に俺は怒ってないからね?」

「何でなのかしら?」


ヤミナさんが口を開く。いつもの飄々とした感じじゃなく泣き腫らした子供のような雰囲気だった。


「俺は別に直ぐに掃除とかをできて欲しいとは思ってないから。それにさっきの皆が切羽詰まった感じで頑張ってるのを見て何か嫌な感じがしたんだ」


全員俺に顔を向ける。正直この話をするのは照れくさいが取り敢えず今日は本音で語るとしましょう。


「俺はね、自分が全員を支えられてるって掃除とかご飯作ってる時感じてたんだよ」


恥ずかしくて言い出せなかった、今日の全員を見て改めてわかったこと。


「俺多分、自分の居場所が取られることに少しヤキモチを妬いてたんだと思う。」


もし掃除も洗濯も家事全般全てこなせる様になったら俺はいらなくなるんじゃないか、捨てられてしまうのではないかって少しながら思ってた。

それに楽しかった。このバカ英雄のお世話をするのが。すげぇ楽しかったんだ。


昔なんかは嫌々やってた。何で俺がこんなことしなきゃならないんだろうって。でも今は全然違う。

今はこんなすげぇバカ英雄達の世話ができて誇らしいんだ。


龍を手懐けたカーファ。魔物の万軍を殲滅したノアさんとミズハさん。200メートルの隕石を無砕させたライガさん。伝説級の魔物を瞬殺したミルネ。攻め入ってきた万軍を返り討ちにしたクライス。未踏破だった伝説のダンジョンを30分で攻略したミーニャ。伝説級冒険者が集う裏ギルドを蹂躙したヤミナ。


こんなアホみたいな事をやってのけたのは俺の家族でそのお世話を俺はしてるんだって思うと凄く嬉しかった。


「何を思ったのか知らないけど段飛ばしじゃなくて一段ずつ登ろうぜ?」


するとカーファは立ち上がり俺の目の前に立つ。


「い、いなくならないわよね?」

「いなくならないよ」

「ほんとのほんとに?」

「ほんとのほんと」

「ぜったいのぜったい?」

「ぜったいのぜったい」

「嘘じゃないわよね?」

「もちろん」


俺の答えに安心したのか、溜め込んだ鬱憤を晴らすように全員泣き喚いた。


「よかったぞー!ユウが居なくならずに済むのだなー!!!うおおぉぉ!!!今なら神でも殺せそうだー!!!」


物騒だなおい。


「本当に、よかった。ユウが、居なくなったら、暴走して、この辺、さら地になってた。かも。」


だから物騒なんだって。


「それだけじゃ足りないよ〜。もうこの世界を壊す勢いで〜バーンって〜」


いやいや怖いから本当に。


皆各々の溜め込んだ鬱憤を発散してスッキリしたのか清々しい笑顔で笑ってた。

うん。これがいつもだ。毎日の風景だ。馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいに他愛もない話をして、馬鹿みたいに楽しい俺達の家だ。


それから風呂に入るとエネルギーチャージとか言ってクライスとライガさん以外、要は女性陣が飛び込んできた。んで、仕方なく一緒に入った。


そして寝る時はツンデレのカーファと甘えん坊のノアさんが一緒に寝たいって俺の部屋にやってきた。いつもなら嫌々だったけど今日は俺も一緒に寝たいって思った。誰かの温もりを感じて眠りにつきたかった。


「おやすみ、ユウ」

「おやすみなさいユウ」


俺は2人に挟まれ頭を撫でられながら眠りに入った。それは凄く心地よくて暖かった。

ノアさんの、カーファの優しさが染み渡るような、そんな感じ。今日は、よく、眠れそうだ…


そうして俺の思考はシャットダウンした。


「寝たわね。」

「寝た、ね。」


今ぐっすりと、気持ちよさそうに寝るユウの顔は年相応のすっごく可愛い顔だった。

そんなユウを私とノアは2人で抱き締める。


「少しは楽にしなさい。」


ユウの顔を胸に押し付ける。前、おっさんに(この国の王様)聞いたことがある。自分の心臓の鼓動を聴かせると人は落ち着くって。


普段頑張ってるユウに、私はこれくらいのことしか出来ないけど、いつかちゃんと御礼はするつもり。それと…いや、まだいいわね。


「今は、この小さい温もりを感じていたいだけだから…」


それから私とノアは眠りについた。




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