武器と武器大好きライガさん
「甘い!」
「うわ!?」
振り向き様に横一閃。瞬光の剣先が俺を掠める。ワンステップで下がるが予想してたように体勢バッチリに俺が進む方向にライガさんが向かってくる。
「まだまだであるなユウ」
「むむむ」
日も昇りお腹も空く頃の真昼間。今は兵練場にてライガさんに剣の手解きを受けている俺は両手を上げ今日14回目の白旗を上げていた。
八英雄では剣の腕と言ったらクライスと互角に渡り合う実力のライガさん。
剛で他を圧倒する怪力ゴリゴリ押しのクライスとは正反対にライガさんは柔で他を圧倒する知力の戦略的戦い方だ。これを聞けば「動いて示す」のクライスより「考えて示す」のライガさんに剣を教わった方が少しは分かりやすい。
もちろんクライスだって脳筋って程でもない。だから兵士の人にも教えを乞われてるしそれを教える技や技術だってある。それになんと言っても英雄、「億戦錬磨」だ。けど俺に教えるとなると暴走して何しでかすかが分からないからちょっと遠慮しがちなのが本音かな。
「さて今日はこの辺にしよう。無理な戦いは体に影響を及ぼしかねんからな」
「はーい」
俺の頭にタオルを置いて笑顔を向け撫でまくるライガさんにくすぐったくもそのままされるがままになる。
晴れた笑顔を見せるライガさんはいつにもなく上機嫌だった。
「そう言えば、ユウは街に用事はあるのか?」
「んー特に無いよ。何で?」
ライガさんは暫く考え込んだ後手をポンと叩きニヤリと笑みを浮かべる。
「それなら少し武器を見ていかないか?行きつけの良い店があってな」
子供のように目を輝かせ俺の首を縦に振るのを待ってる。
武器かぁ。俺は今まで剣術しか習ってこなかっから目移りも特にしなかったけど偶には良いのかな?
前に聞いたアスルガンダのデルバさんは盾術や槍術が凄く強いって有名らしい。
防御力で言えばクライスが認めるくらいだからその戦い方次第で無傷での勝利も有り得そうだ。そもそも盾術何てものがあったって言うのがココ最近で分かってちょっと驚きだな。
だから他にも俺が知らない武器、それに応じた戦い方を知るのも良い勉強になるよね。
「それじゃあ行こっかな」
「そうか!そうか!では早速行こうぞ!!」
「え…?ちょ、ライガさん!?」
ライガさんは俺を抱えあげ見事に背中へと乗せる。そして抵抗する間もなくウキウキ全開でメーターを振り切ったライガさんに俺は捕まり勢いそのまま街へと駆り出した。
最低限の速さで走るライガさん。おんぶされ連れられる俺。大通りで世話話をしていた主婦や店番をする店主は顔を綻ばせて俺たち二人を見ていた。まぁ珍しいけどさ。
あんまり二人で出掛けることなんて無いからきっと物見珍しさでニヤニヤしてるんだ。それと…
「ユウ!!空気が美味しいぞ!あぁ世界が広がって見える!!」
「もう分かったから!恥ずかしいからそんな大声で叫ばないでよ!」
抱えて走りながらライガさんはずっと笑顔で喋ったり偶に通りすがりに声を掛けてくれる冒険者には大きい声で返事を返す。そして「お?子供とお出かけかい?」とか言っちゃうおばさんには立ち止まってもう凄い顔で
「そう見えるか!?あぁ、ユウと出掛けているのだ!!」
って言うんだ。もう恥ずかしくて恥ずかしくて。まだ歩いてる分にはいいけどおんぶされてる状態だと恥ずかしすぎて顔が火照って熱くなる。降りようとしても無理な話だよね。絶妙な力加減で俺が抜け出せないようがっしり掴んでる。
そしてこれは店に着くまでの30分続いたのであった。
ーーーーーーーーーー
「らっしゃい!!お?旦那ぁ!!今日は子連れかい?」
「ユウに武器を見せに来たのだ」
店主の妙に髭の伸びたハゲのおじさんは俺を見るや「苦労してるな~」と少し苦笑しながら話してくれた。
内装は至って普通で壁際には木箱に入った武器や防具がいっぱいあった。店主の人が言うに木箱の大半には様々な鍛冶師が作った捨て武器、要は失敗作の武器が入ってるんだって。素人目には何がいいダメなのかとかはよく分からないなぁ。
「売り物としてなら後ろの扉からだな」
俺は店主に言われるままライガさんと空いた部屋の中へ入るとそこは木棚やガラスのショーケース。中には模倣品として置かれ本物は別の場所にありますと書かれた貴重な武器まである。
「どうだ?知らない武器が沢山あるだろう?」
「うん…こんなに種類あるんだ…」
俺は棚に置かれた物や壁に飾られ、掛けられた武器を見て正直凄い興奮していた。
これは本でしか見た事ない斧槍と言うやつかな?扱いづらいけど熟練者が使う斧槍は間合いが取りづらいって読んだことがある。
「これは…?」
「それに目を付けるとは良い目をしてるな少年!」
おじさんは笑いながら俺の見ていた武器を手に取り自慢げに鼻を伸ばし語り出す。
「これはチャクラムと言う投擲武器でな!円形の外側に刃が付いて敵に投げ切り刻むって代物だ!まぁ投擲武器だから戻っては来ないんだがな」
何それ。だったらナイフとかの方が需要あるじゃん。投擲武器で重さも大きさもあったらちょっと不便じゃないのかな?って思ったりする。おじさんも少し自分の説明に苦笑いの様子。
けれどライガさんは腕を組みおじさんの持ったチャクラムをずっと眺めていた。
「…店主よ。このチャクラムとやらは幾つある?」
「今店にあるのは四つだな」
「買おう」
俺と店主のおじさんは目を見開いてライガさんを見る。別に冗談で言ってる訳じゃない。おじさんも急いで在庫を調べに奥へと入って行く。
「これ買うんだ」
「あ、いやすまないユウ。折角店に来たのに俺が楽しんでしまった…」
「いいよ全然。でもどうしてこれ買う気になったの?」
ライガさんはチャクラムを持ち俺に見せるように魔力を込める。するとビックリ。チャクラムは手から離れ上空に浮いた。
「何の長所も無く作られた訳じゃないという事だ。魔力を流しても壊れない投擲武器。つまりは使い捨てでは無い」
よく言ってることが分からない俺にライガさんは道を縫うようにチャクラムを投げる。そしてやっと言ってる意味がわかった。
チャクラムは回転し鋭い刃を出しながら手元に戻りその一瞬に回転は止まる。
「ふむ。ミズハやカーファにはうってつけかもしれぬな」
「ありましたぜー!」
合計はさほど高くなくて良い買い物をしたと少し邪悪なかおで笑っていた。用途が分からなかったんだから値段もあの使い方での値段だからね。凄い安く買えたと思う。
帰り際。スキップをするライガさんにばったり会ったクライス、ミーニャに気持ち悪い目線を向けられてたけど全く意に返してなかった。
これはまた遠足の予感かな?




