王様は苦労人~儚い夢
「少しは子供離れしなさいなバカ英雄」
響くのは王城、王の間。王様の笑顔の怒りがクライス達八英雄を襲った。そして萎れたように正座させられた八英雄。何故こんなことになってるのか。
それは俺を学校に行かせるか否かの話をたまたまクライスが騎士団の兵に聞かせるとみるみるうちに伝聞していき王様の耳にも届いたらしい。そしてその話を聞いた王様は八英雄を呼び出してお説教、今の形という訳だ。
「ユウはまだ12なんじゃぞ?考えてみるんじゃ。レギムンドが誇る八英雄の世話。料理に洗濯に掃除。きっと食べる量も洗濯する服も多いんじゃろーなー」
図星を連続で突かれる八英雄からはグサグサと槍が刺さる音が聞こえる。
「それを楽しいと言うんじゃ!何と出来た少年じゃろうな」
「そうなのにゃ!!将来が楽しみにゃ!」
「青春という代償を払うじゃろうがな」
「「「「………」」」」
「ぷ…くくっ…」
押し黙る八英雄。俺は見てて笑いを堪えるので必死だった。レギムンド王国で最強の八人が今や叱られて萎んでるのだ。
一部のものしか信じていない八英雄の常識の無さ。凱旋時に公言してるけどほとんどの人は信じてないと思う。まぁそれだけ輝いてるところが大きいって事なんだけどね。
「でも…ユウはお世話楽しいって…」
「楽しいのは本当じゃろうが行きたいとも言っていたのじゃろ?」
「あ、あぁ…」
「だったら行かせるのが親の義務じゃろうに。何甘えとるんじゃ」
剣呑…ではないにしても明らかにいつもの王様からはかけ離れた雰囲気に臣下たちも少し驚いている様子。確かに俺もこんな王様は見たことないな。
いつもは穏和で苦労人って感じだけど今は子を叱る親のような感じに見える。
「王はあぁ見えて君の事を凄く大事に見てるからね」
「俺の事を?」
コソりと隣に来た兵士の人は耳元で小さく囁く。
「ユウ君は大丈夫じゃろうか、心配じゃー心配じゃーってしょっちゅう言ってるよ」
兵士の人は重装を鳴らし苦笑を漏らしながら俺の頭に手を置く。気が付けば周りには他の兵士達も寄ってきていた。
「俺らも良くあの英雄達の世話できるなって感心してるよ」
「そうそう!戦士長なんかユウのご飯、ユウが洗濯してくれたタオルとかめっちゃ微笑んでるし」
なにそれちょっと怖い。
嬉しいのは嬉しいんだけど…嬉しい寄りのキモイがちょっとな…。
そう言えば俺が起こしてしまった一件以来特に態度も変えず接してくれてるのは嬉しかったけどあの後王城に呼ばれてたなぁ。あの時に何か王様が言ってくれたのかな?
普段から良く気を遣ってくれる王様だけど恐らくそれは八英雄に育てられる心配とかじゃない。王様だってそこまでバカ英雄を信じてないわけないし。
「王様は君の事を孫みたいに思ってるんだよな。多分」
「まぁ王様に気軽に話せる子供なんか俺たちの知る限りじゃユウしかいないからね…」
「あの王様に子供なんていたらひけらかしてるに決まってるもんな」
あぁ…そっか。前に王様から聞いたことがあった。それは少し遡ること1年前。その日はたまたまクライスが弁当を忘れたから届けに行こうと王城へ行った時のこと。俺が兵練場でクライスに弁当を渡して丁度帰る時、王様が手をこまねいて一緒にお茶をした。
八英雄との生活は、何か不自由はないか、気軽に相談に来なさいとか。王様の口から出るのは俺の心配ばかり。その時どうしてそんなに心配してくれるのかと聞いたんだ。
王様は頬を掻きながら少し困った顔で俺の頭に手を置いて聞かせてくれた。
「…儂の妻は子供を産めない体での…子の顔を見る事は叶わなかったんじゃ。その妻も今じゃ儂を置いて天高く上へ昇って行ったんじゃがな」
頭を撫でながら優しい声音で言葉を紡ぐ。
「子供がいたら、もし結婚して儂へと笑顔で見せに来たら…その儂にとっての孫はきっと…とな。少し夢に浸からせてもらっていたのかもしれないのお」
それから俺は王様の話、奥さんの話を聞きたいと目を輝かせ快くドヤ顔で王様は王様の奥さんの自慢話、そして若い時の武勇伝を夕暮れ時までいっぱい聞かせてくれた。
「孫、か…」
さしずめ王様の子供が八英雄でその子供が俺って感じだな。これは王様も怒るよな。よくよく考えてみなくても子供に世話される親って世間的にヤバいもんね。
「うぅ…お爺…足が、足が…」
「正座くらいで音を上げるでない!」
「だってここ大理石にゃ!固いにゃ!疲れるのにゃー!」
「俺は鍛えている。この程度、苦ではないな」
「じゃあ膝に1トンの重でも乗せてみればいいんじゃない?」
ノアさんの呟きに王様が怒りミーニャが駄々をこねライガさんがチラッと俺を見て格好をつけるやカーファが呆れ顔で首を振る。うん。少し怒られちゃえ。
「王様ー!俺少し買い出し行ってくるねー!バカ英雄よろしく!」
「おーう!いってきなさい!ほれお前達!儂の警護よりユウに着いていきなさい!」
王の命令とて側を離れる訳には行かない兵士はどうすると顔を見合わせ慌てふためく。
「いや儂今世界で最も安全な場所にいる自負あるんじゃが」
「「「「…あぁ」」」」
「おい今俺達見て「確かに八英雄いたわ」みたいな顔した奴正直に出てこい」
全員顔を逸らして口笛やらスキップやらを始める兵士の人達。なんて分かりやすいんだろう。
俺は苦笑いを浮かべながら兵士を拝借して王の間を出る…前に。
「王様ー!今日ここの庭で夕ご飯でもどう?」
「…ッッ!!!お、おぉ!!いい考えじゃな!!よし!今日はパーテーじゃ!」
一瞬にして顔をほころばせる王様に俺は歯をみせ笑い買い出しへと出掛けた。…今日はいっぱい買わないとだな。
そうして今日は王城の庭で盛大にパーティーをしましたとさ。




