表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/33

バカ、もとい八英雄の日常。その2

季節は夏。


落ち着いてきた朝の涼しい風。外は暖かくて心地良い。テラスからは鈴の音が風の安らぎと合わさり癒しをもたらす。とても過ごしやすい天気だった。


「っし、このくらいか」


俺は家の外で魔法の基礎練習をしていた。詠唱、魔法陣、属性別瞑想など、魔法の知識だけに関して言えば八英雄随一「水蓮氷花」のミズハさんに教わった練習法をずっとやってる。


ミズハさんは19才ながら魔法学園の教師をやっている。評判は当たり前に上々。

だけどミズハさんは束縛されるのが嫌いで時間を指定されるのが嫌だった。だから自分の行く時間に合わせて学園が動かないと行けない。暴君すぎるミズハさんだけどそれくらい覚えやすく、知識があり、何よりこの国を守った生きる英雄が教えてくれるのだ。お釣りがきてもおかしくはない。


まぁそれでも


「起きてるなら行ってやればいいのに」

「今はユウの練習が最優先事項だから学校はどうでもいいかな」


ミズハさんは俺が魔法練を始めてからずっとテラスで見ている。ぶっちゃけ凄い嬉しいけど俺だけが独占していいものでもないからなー、とは思う。


「今ユウが思ってる事当ててあげようか?」

「え?」


ミズハさんは悪戯めいた笑みを俺に向けて


「私の事独占してもいいのかなー?って思ってる」


クスクスと笑う。俺は図星を突かれ返し言葉を探しているとテラスから降りてくる。風魔法を使ってふわりと俺の元で着地するミズハさんはグイッと顔を近付けて腕を絡める。


キャミソールに短パンという綺麗な肌を露わにする格好なので流石に心臓の鼓動が早くなる。いくら一緒に住んでいるからってそう慣れるものでもない。


キャミソールから覗く谷間が自然と目に入ってしまう。ミズハさんは笑いながらさらに押し付けてくる。

昔からずっとそうだ。事あるごとに俺に突っかかって暇さえあれば俺をからかう。だけどそろそろ反撃できてもいい時期なのではないだろうか?


俺は腕を強引に引き剥がし両肩を掴む。ミズハさんは目を丸くしてきょとんとしている。


いつまでもやられるだけの俺とは思うなよ。


「そろそろ本気になるよ、ミズハ」


俺は耳元でそう囁き薄く笑う。

いっつもやられたお返しだと言わんばかりに毎日見る俺じゃない感じで言ってみたけど。あと呼び捨て。これは恥ずかしかった


俺は両肩を離しミズハさんの顔を覗く。すると


「〜///」


顔を真っ赤に染めて涙目になっていた。


「えっ!?ごめん!!そんな嫌だった!?」


そんな泣くほど嫌だったとは思わなかった。今も片手で顔を隠してもう片方は俺に、近づくなとブンブン振り回している。


こんなになるとは思わなかったからかける言葉が見つからない。

俺はひたすらごめんと謝ってると


「違うの…」


手で顔を隠したまま、けれど隠せずその間から覗かせる真っ赤な顔でミズハさんは違うと否定する。


「ユウがそんな風に返してくると思わなくって…大丈夫、軽く心臓が潰されただけだよ…」


それヤバくないですか?


まぁ取り敢えず嫌がってないのならいいかな?

俺は一安心の息を漏らすとミズハさんは俺に詰め寄り涙目のまま上目遣いで裾を掴む。


「私がユウのこと嫌いなるなんて天地がひっくり返ってもないからね?」


oh…


何でしょうこの破壊力。めっちくちゃ可愛い生物が今俺の目の前にいる。

俺はほっこりした顔でよしよしとミズハさんの頭を撫でると「普通私がする方なのに…でもこれはこれで…」と自分と葛藤していた。


八英雄最年少の可愛らしい一面を垣間見れたので結構やったが甲斐があったかな。まぁ口には出さないけど。


俺はミズハさんに早く学園に行くよう促し一緒に家に戻る。昼にはまだ遠いけどそろそろ行ってもらいたい。また学園の講師が俺に泣きついてきそうだから。


前なんか1ヶ月の受け持った授業全てを遊びに使い、その時学園の講師が家にやってきて「頼むからバカ英雄を何とかしてくれ」って全員で泣きついてきた。


勿論、講師陣は普通の授業をして欲しいと頼んだらしいけどミズハさんは「こんなクソ教科書で学ぶ身もない知識と無駄なカリキュラムよりこっちの方が余っ程伸びるよ」と言って変えなかったらしい。


実際本当に成績、運動能力共に上がり講師達を黙らせた。

まぁ俺も泣きついてきた時は何とかしようって説得しかけたけど生徒の話聞いて止めたんだよね。

「すごく楽しくて分かりやすいんです!」って笑顔で言われれば止める気も失せるよ。

ってか俺まだ12だし。あんま学園の事言われてもどうにもできないっつうの。


俺はそんな事を考えながら汗を流すためシャワールームへと足を運ぶ。


このバカ英雄と俺が住む家は大抵なんでも揃ってる、のはもう大体分かるよね。

シャワールームは浴場とは別で手短に済ませたい時用、つまり汗を洗い流すためだけに作られた場所。何とも勿体ない。

しかも使う奴が殆どいない。折角あるのに可哀想だから俺は毎日練習終わりに使ってる。


部屋からバスタオルと着替えを持ってシャワールームに行くと


「おっユウではないか、いつもの練習は終わったのか?」

「あっ、ライガさん。うん、もう終わったよ」


俺の先にシャワーを浴びていた筋骨隆々とした体のこの男の人は「豪神」ダガルライガ。

いつもはこんな時間に起きてないのに珍しい。


俺はライガさんの隣のシャワーで汗べっとりの体を洗い流す。


「ライガさん今日何かあるの?」

「あぁ、実はクライスに頼まれて騎士団の稽古をつけにいくでな。それで汗臭い体は流しておけとキツく言われてここに居る次第だ」


何で稽古つけに行くのに先に体洗うんだよ。意味無いじゃん。やっぱバカクライスだな。まぁそれに合わせるライガさんもライガさんだけど。


一通り体を洗い終わりタオルで体を拭く。太陽の温かい、いい匂いがする。よく干された証拠だ。


俺は軽めの服に着替え終わると城下町に出かける準備をする為部屋に戻る。途中ライガさんに「ユウも来るか?」って聞かれたけど断った。

行きたくないわけじゃないけどもうすぐでアイツの餌の時間だから肉足しに買いに行かないといけないんだよ。

ライガさんはまた次の機会って言ってたからその時にはちゃんと行けるようにしよう。


「あっ、そう言えば」


俺はリュックと手提げ袋を玄関に持っていきある事を思い出して3階の階段を駆け上がる。


そして「ノアの部屋」と綺麗に書かれた部屋で立ち止まる。

俺はコンコンとノックをすると「入っていいよ」と声が聞こえる。


「おはようノアさん」

「おはようユウ君。」


扉を開け中に入ると椅子に座り本を読む「絶対殲滅」のノアさんが目に入る。


「ノアさんって城下町で買いたい物があるって行ってけどもし良かったら俺と一緒に行く?」

「一緒に行きたい」


一言。俺に告げるとタンスを漁り始める。多分服を選んでるん、だと思うけど。何かすっごい下着やらパンツやらが飛んでるけど。


「俺は下で待ってるから準備が終わったら来てねー」


俺は親指を立てるノアさんに苦笑しながら扉を閉める。ノアさんは天然なのか偶に凄い行動をとる時がある。


移動がめんどくさいからって転移魔法編み出そうとしたりクエストやりたくないからって国王脅したり。

ぶっちゃけ一番の問題英雄かもな。先週なんかミーニャと「温泉掘り当てたよー」って俺に自慢してきたし。だけどそこ隣の国で国境超えてたから色々まずかったんだよね。

それで王様に頭下げに行った。気苦労の絶えない俺と王様には何かと通ずるものがあるのか罰則は無かった。温泉はというとクライスとミズハの働きで各国共有の大大大浴場になった。


「お待たせ」


俺が昔のに記憶に浸っている間に階段からノアさんが降りてくる。

ワンピースに麦わら帽子というノアさんにすげぇ似合う格好だ。


靴を履き外に出る


「すげぇ可愛いよノアさん」

「うん、ありがと。」


俺は改めてノアさんの格好を思ったまま口にする。ノアさんは笑みを浮かべて少し顔を俯かせる。多分照れてる。

そんなノアさんは少しだけ俺に手を伸ばしてアピールしてくる。


「(…あぁ)」


俺はその手を掴み一緒に歩く。身長は割と高くてスタイルがいいからどうしても目立っちゃうから普段は城下町とか、外出したがらない。


言い忘れたが俺達が住んでる家は城下町からは少し遠い広々とした丘の上に建ってる。周りは川や木で自然を身近に感じられる。


街の声をも届かないから、落ち着きたい時に川の流れる音に耳を済ましながらハンモックで寝るのが一番の贅沢。


まぁそんな話はさておき実はノアさんの少しワクワクした顔を見て俺まで顔がニヤけてる。城下町に着くまでにはこのニヤケ止まるかな。


そんな事を思いながらノアさんと川に沿って城下町に向かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ