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おかえりとただいま

あの八英雄(バカ)達が住む家までおよそ200メートルくらいだろうか。

俺とクライスは手を繋ぎながら家までの帰り道を歩いていた。

そんな時


「ユウ〜」


ノロマな声を出しながら尋常じゃない速さで迫るミルネが見えた。もう軽くホラーだった。


「こわいこわいこわい!!」


ミルネは俺にぶつかる寸前のところで急ブレーキをかけて止まる。周りは砂埃が舞い少し煙たくなるも、2人の姿はきっちりと俺の目に見えていた。


何か言いたげなミルネだけど何かモゴモゴして言うに言い出せないような感じに見えた。


「何だよ。何かあるなら言えよな」

「えっと…その〜」


ミルネは一旦言葉を止め、深呼吸し落ち着きを取り戻した途端


「ユウのバカ〜!」


俺の頭を叩いた。痛くはない。本当コツンって言うくらいの力で叩かれたから。それでも俺の心には凄く痛みを与えた。

みるみるうちにクシャクシャになっていくミルネの顔。何粒も何粒も流れ出る涙にどれだけ俺のことを心配したのかが伝わってきた。


「(初めてミルネの泣き顔見たかもしれない)」


大粒の涙を流し「心配したんだぞ〜」としゃくり声で吐露する。

本当にどれだけ心配したんだよ。


「ごめんなミルネ。」

「これは今度一緒に出掛けてくれないと許さないから〜!」


裾を掴み鼻をすするミルネを見ていると不謹慎かな、帰ってきたんだって感じがした。

1人で勝手に落ち込んで、1人で暴走してクライスを傷つけて。それでも心配して俺を迎えてくれる大切な人の場所に帰ってきたんだって。


俺は苦笑しながらミルネの頭を撫でた。


「なぁユウ。御出迎えは何もミルネだけってわけじゃ無いらしいぞ」

「え?」


クライスは丘の上を指差し歯を見せ笑う。その先にいたのは泣きながら、笑顔を作りながら待っていてくれる八英雄達がいた。


「「「「「……!!!」」」」」


手を振りながら、涙を拭きながら、鼻水を垂らしながら。声はバラバラだけどしっかりと聞こえた。


ーおかえり!


「あぁクソ。本当にこの英雄達は…」


瞳から流れ落ちそうな雫。我慢、まだ我慢だ。


「ほら。行ってやれ。」


不意にそっと押される背中。

後ろを振り向けばクライスが優しい笑顔で俺の背を押していた。


「…うん」


俺は飛ぶように、一直線に八英雄達の元へ走る。


帰ったら謝ろう。しっかりと謝ろう。それから全部話して今度はちゃんと、しっかりと伝えて…


「今は余計なことはいいや」


恥も外聞も無い。子供みたく泣いて俺は大好きな八英雄達に突っ込んだ。


「ごめん…!本当に、、ごめんなさい…!」


俺は泣きじゃくった。どこか久しぶりに感じた優しい温もりに触れたからか、もうただひたすら泣いた。そりゃもう引くぐらい泣いた。


「バカね。何を謝ってるのかサッパリ分からないわよ」


カーファは優しく微笑んで俺の頬に手を添える。


「何か抱えてるのは知ってた。けれど踏み出さなかったのは私達がそれに触れるのが怖かったから。私達が不甲斐ないせいなのよ」


「ゆっくりでいいからちゃんと皆がいる時に話してね。多分1人で

聞いたらヤミナみたいになるから」


ミズハさんは家の前で座っているヤミナを指す。

髪はボサボサで心做しか痩せたようにも見える。こんな短期間でこんなになるのかってぐらい。その姿はいつもの綺麗なヤミナの面影がどこにもなかった。


「凄いショック受けていた。ユウ、ここまで来ただけでも相当の勇気がアイツには必要だったんだ。言いたいこと、分かるな?」


ライガさんの言わんとしていることはわかる。ヤミナをあんな風にしたのは俺だから。だからちゃんと言わなきゃな。


俺はゆっくりと家の前で足を踏みしめる。

ヤミナは怯えたように少しだけ体を強ばらせていた。


「ヤミナ…ごめん。何も言わずに家を出て、ヤミナの事何も考えないで傷つく行動取って…」

「…嫌われたんじゃないかって思ったのよ。そしたら体が思うように動かなくて…」


ヤミナは途端、俺の体を抱きしめる。


「ごめんなさい…元はと言えば私があんなこと言わなけれ…いだっ!」


俺はヤミナの言葉を遮るようにデコピンを浴びせる。


「あれは俺が悪いんであって全面的にヤミナは悪くないんだよ。それに元はと言えば俺が皆に話さなかったのがいけないんだし」

「いいえ!私が悪いのよ!ユウ君は悪くないのよ!」


俺が悪いって言ってるのに。


「俺が悪いんだ!!ヤミナは悪くない!!」

「わ・た・し・が悪いのよ!!!」

「お・れ・だ・よ!!!」


俺とヤミナ睨み合いながら取っ組み合いになっていき丘を転がっていく。


「何やってるにゃ…」

「もうこれだからお子様は…」

「洗濯1つ出来ねぇやつが言うなし!」

「な、なによ!川行けば洗えるわよ!」


喧嘩の火種は飛び交い全員に散っていった。

今まで吐き出せなかった全てを吐き出すように、あーだーこーだ言い合って喚き散らした。


もしかしたらこれが初めてなのかもしれない。いや初めてだろう。喧嘩をしたのは。


「ハァハァ…ったくもう」

「何か、もう、色々…馬鹿、らしく、なって、きた」


暫くして収まったのは数十分後くらい。

吐き出し疲れて全員寝そべった。


「その言葉で括るのはセコいぞ。全部正論でぐうの音も出ないから諦めたんだろ」


「「「「うっ…」」」」


本当に言い疲れるぐらいあり過ぎるバカ英雄の欠点だけどそれでもやっぱり良いところがいっぱいあるから霞むんだ。


「その、今日は本当にごめん」


自然と漏れた言葉。まだ罪悪感が残っていたせいだろうか。その言葉に全員笑って答えた。


ーお安い御用


「子供の我儘1つくらいどうってことないにゃ!」

「とか言って世界の終わりみたいな顔してたくせによく言うわよ」

「カーファもしてたよな」

「してないわよクライス!!」


またまた言い合いになる八英雄達。


…あぁ、でもやっぱり感じずにはいられない。



”ここが俺の居場所なんだって”


どんなにバカで常識がないアホ英雄でも俺の大好きな、大切な家族なんだって。


「…温かいな」

「そりゃ夏だしね〜」


いつの間にいたのか。俺の隣に座っていたミルネはぼーっと空を眺める。


「ユウの居場所なんてみんな温かいよ〜なんせ私達がいるんだからね〜」

「ははっ、なんだそりゃ」


ミルネは俺の肩に頭を乗っけると小さい声で呟く。


「ちゃんと家族だもん」


その言葉は俺の心を揺らし、浸透していく。

どこかで受け入れていなかったのかもしれない家族の形。知っていたのか見透かしていたのか。ミルネはまたのんびりした声に戻って薄く笑う。


「今日の夕飯はなんだろーなー」

「喧嘩やめないと作らない」

「「「「「………」」」」」


一瞬にして静まり返る喧嘩。どれだけ飯食べたいんだよ。


「んじゃあバーベキューでもするか」


静かだったのも束の間今度は弾けるように飛び跳ね喜ぶ八英雄。


「まずは帰って準備からな!!」


「「「「「はーい!!」」」」」


ただいま。みんな。

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