家族の形
「さーて帰んべ帰んべ!皆が心配してるだろうし!」
曇りきっていた空は今のユウの心のように晴れ渡り澄み切っていた。
全て吐き出し空っぽにした過去への思い。ユウとの踏み込めなかった昔の話。
この話をして他の八英雄はどんな顔をするだろうか。きっと嘆き、悲しみ、己を過去を、過ちを悔いるだろう。
その光景が頭に浮かび、目に見えてしまう八英雄の反応に苦笑するユウは晴れた笑顔をクライスに向け手を差し出す。
「座ってんなら置いてくかんな」
その笑顔はクライスの心を握りしめるように、流れ込むように体に浸透していく。
あぁ、なんて愛おしいんだろうか。
凄惨な過去を持ちながら、親の仇を目の前にしながら。それでも前へ進もうと歩み続ける少年に、ユウにクライスは自然とその小さき体を抱きしめていた。
「絶対に悲しい思いはさせない…とは言えない」
「…なんだよそれ」
クライスらしい。そう思い、笑いながらユウは返事をする。
「それでも俺はユウの大好きだった親に負けないくらいユウを愛してる。…大好きだ!凄い好きだ!めちゃくちゃ好きだ!!」
吐き出されるクライスの内に秘められ…ていない、「普段」のユウへの愛。想い。
「きっと、これからも迷惑をかけるかもしれない…いやかけるな。絶対かける」
「言い切るなよ」
力の込められた優しい手にユウは目を閉じクスりと笑う。
「だからユウだって俺達にいっぱい迷惑をかけてくれ。辛いことがあったら話してくれ。楽しいことがあったら、他愛もない話でもいい…いつでも俺達に接してくれ。…俺たちと、家族でいてくれ。」
それはクライスの頼み、願いだった。
今日まで知らなかった大好きな少年の、知る由もなかった過去を知ったからだろう。
それでもクライスは少しだけ嬉しく思っていた。
何れにせよいつかは知っていた、知らなくてはいけなかったユウの過去。きっと時を経て王から話されていただろうと思う。
でもユウの過去を知るのが長くなればなるほど溝は深まっていたと思う。
今日、ユウの口から聞かされた時でさえ胸が張り裂けそうに辛く、悲しく、絶望のドン底に落とされたというのに。もっともっとユウを好きになった時に過去の話を聞かされたらそれは本当に死にかねないだろう。
だから直接、それもユウの故郷で聞けたことが何よりもクライスは嬉しかった。
「俺は償いきれない事をユウにしてしまった。きっとそれはユウが許したとしても俺の心に永遠と残るものだと思う。」
「…あぁ」
「それでも俺はユウと暮らせて、過去の出来事なんか忘れるくらい今が凄く楽しくて大切なものなんだ。」
「…うん」
それはクライスの中にある最も大切な者達のこと。八英雄全員の、家族の形だった。
「だから、また笑って「おかえり」って行ってくれな。ユウ」
少年は笑いながら
「当たり前じゃん」
そして2人は八英雄の待つ家へと帰った。




