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失われた過去〜これから。

雨粒が舞う廃れた村の一角。ユウの口から聞かされた事の顛末に、クライスは顔を伏せ自分の手を血が出るほど握りしめていた。


ナレフ村。3年前の戦争時に敵国から放たれた魔獣達の残党が目撃されていた場所。ユウの見つかった崖からそう離れてはいない。

その残党狩りを任されたのが八英雄。


…そして残党を逃したのも八英雄であった。


戦争において全ての敵を討つ事は無理に等しい。溢れは必ずと言っていいほど出てしまうだろう。


しかし、しかしだ。


ユウから聞かされた凄惨な事件は自分達の取りこぼした魔獣達によって起こった事件。そしてユウの両親を殺したのもその魔獣。

直接の原因ではないものの、もし八英雄達がその魔獣を倒していれば未来ある命が摘まれずに済んだ。


「(俺達がヘマをしなければユウの両親は…)」


きっと幸せに暮らしていただろう。

その光景をクライスは簡単に想像出来てしまう、出来てしまった。


「クソ…」


楽しそうに食卓を囲み


「クソっ…」


休みの日にはピクニックをして


「クソっっ…」


笑いあっていただろう。今の俺達のように。


「クソっったれ!!!!」


そう、俺たちと同じように。今の、ユウと暮らすこの幸せを、いやそれ以上のものがきっとあったはず。それなのに、それなのになぜ!!


摘まれてしまった小さな村の未来。それはあまりにも大きく、悲しく、冷たくクライスにのしかかった。


偽物、本物面。今になりユウの放った言葉の重みがさらにクライスの心を握りつぶす。


「すまない…ユウ…」


今のクライスから発せられる最大限の言葉。

その言葉は雨粒によってがき消され届いたのかすら分からなかった。


…………


しばしの静寂。


クライスはただただ顔を俯かせる。


「俺はさぁ、知ってたんだ。お母さんとお父さんが死んだ原因がクライス達の取りこぼした魔獣だったってこと。」


クライスは顔を上げ驚愕する。

ポツンと。雨音に消されながらも言葉を紡ぐユウは、空を見上げながら語る。


「王様からね。最初はすげぇ憎かった。何で殺せなかったんだ、何で逃したんだって。」


ユウは目を閉じ「だけど」と語る。


「普段のクライス達を見て思ったよ。あぁ、この人達が悪いんじゃない、戦争が悪いんだって。よく考えれば当たり前のことだけどね。」


ユウの考えは確かに横暴、八つ当たりだっただろう。しかしそれが当たり前、普通なのだ。

ユウはまだ子供。大切な、大好きな親がいなくなって誰が非難しようか。


王が伝えた嘘もきっと八英雄を傷つけないため。


「王様がね、言ったんだ。どうかあの馬鹿共を嫌わないでくれって。土下座までしてね」


聞かされた裏の話にまたも驚愕するクライスに苦笑しながらユウは言葉を続ける。


「最初はふざけんなーって言ったよ。でも何度も何度も何度も額を地面につけて頼んできたんだ。」


臣下たちは口々に言った。小さな村の子供の為にこの国の王が頭を下げることなどない。と。


王は言った。


「民の為に、子供の為に王が頭を下げることの何がいけない。」


そう言い捨て王はまた頭を下げた。

恥も外聞もない。その答えは王を王たらしめる器の表れだった。


「少しづつ薄れてく憎しみと俺に気を遣いながら不細工な笑顔を作って歩み寄ってくるバカ英雄共。一緒に住んでからはもうとっくにそういうのは消えてたよ」


雨が止み雲が晴れゆく中、クライスはゆっくりとユウに顔を向ける。

ユウは苦笑しながらもぎこちなくはにかみ、枯れた花が添えられ、小さな縦石2つが置かれた壊れかけの家に立つ。


そこはユウにとっては最も想い出のある場所。三人で暮らした懐かしの家。


「お母さん、お父さん。俺さぁ、頑張って生きてるよ。最初は辛くて悲しくて死にたくなった。…それでも大切なもうひとつの家族が出来たんだ。だから、だから。」


雲の隙間から覗く太陽。止んだ雨、ポツンと地面に落ちる雫。


「ずっと大好きだよお母さん、お父さん」


ユウは何粒の涙を流しながらも精一杯に笑った。


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