表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/33

カミノギ・ユウ

べちゃべちゃとぬかるんだ土を踏みしめ丘下へ降りる。雨のせいかいつも賑わう通りも今は全くいない。

家の灯りは黄色く照らされワイワイと談笑する声がする。

それからレギムンド王国に入る為の検問を潜り、何も無い平地へと出る。


「君、こんな雨の中、しかも1人でどこに行くんだい?」

「…お墓参りです」


俺を心配してか、声を掛けてくれた兵士の人。

大丈夫、この先の道は俺がよく知る道。あの人達がよく通っていた道だから。


雨は止む様子を見せない一方、ユウの足は前へ前へと止まる様子をみせなかった。


暫くして大きな木が2つほど生えた場所がありそこを右に曲がると平地から補整された道が出てくる。

所々崩れたり、ゴツゴツしているが普通の道より少し悪いってくらいだ。何の問題もない。


「……」


歩く度に沈んでいく心。

濡れた服は進む足を重くさせる。沈む気持ちの様に雨は次第に強さを増す。


心配してくれてたミーニャやノアさんに悪いなぁ…後でちゃんと謝らないと。


歩いて2時間。補整された道が終わり木々を抜けた先には荒れ果てた小さな村が佇んでいた。


雲に覆われた空は地上を少し暗くさせる。

降り止まない雨の中、ユウはその村に足を踏み入れる。


「…久しぶり、みんな」


村に入り一番奥の広場のような場所。そこにあるのは数十個の縦石、そして名が刻まれた石版だった。


俺はリュックから塩むすびを取り出し濡れないよう袋に入れ一個一個縦石の前に置いていく。


それから石版を綺麗に拭き、周りの泥、ゴミを払う。雨が降ったこともあり比較的綺麗ではあった。


「もう、3年なんだね…」


縦石を拭きながら昨日の事のように思い出すあの時の日々。


そんな時ガザっと茂みから音がする。


「(ここに人…?いや、でもここは…)」


腰に差してある刀をゆっくりと引き抜く。

俺が知ってる中でこの場所が分かる人は王様くらいしかいない。だけど王様がいる筈ない…だとしたら、モンスターかな…


ジリジリと距離を縮めその茂みに近づく。

しかし、茂みから現れたのは、モンスターでもなく、ましてやおうさまでもない、ユウにとって一番身近な人だった。


「ユウ…」

「えっ…クライス…?」


そう、茂みにいたのは八英雄「億戦錬磨」クライスだった。


「何でここに…?今日は普通に仕事があったよな?」

「すまん、王の許可を貰って休んだ。それでユウの後を追ってきたんだ。ついてきた理由はいつものユウじゃなくて心配だったから。以上だ。」


…は?意味がわかんない。そうまでしてなんでついてくるんだよ。こんな大雨の中心配だったからついてきた?バカじゃねぇの。


雨粒が2人を襲い、暫く静寂が流れる。


いつものユウだったら軽く流しで仕方ないってきっと笑うだろうな。でも…今は違う。


「…うぜぇよ」


ポツンと呟かれた言葉。

クライスはそれが少年の口から発せられた言葉だと言うことに数秒かかった。


「本当の家族でもねぇのに…血も繋がってねぇ偽者のくせに!!本物面してんじゃねぇよ!!!!」


雨音を跳ね返す少年の張り上げられた声。

その言葉はクライスの心に大きくのしかかった。


傷ついた、確かに傷ついた。だけどこんなのユウが抱えてる重みより余っ程マシだ。


クライスは涙が流れるのを堪える。



王城で仕事をしている時、俺の頭の中にはユウの事しか頭になかった。

ここ最近、元気のない、泣きそうな子供のようなユウ背中に不安を感じていた。


その時。


「仕事が捗っとらんようじゃが何かあったのか?」


後ろから声をかけてきたレギムンド王。

王は俺の背中を叩き休憩しようって自室へと俺を招いた。


部屋の中は質素でとても王が住部屋とは思えなかった。

俺は王の向かいの椅子に座りユウのことを話した。


「最近、ユウの元気がないんだ。」

「…そうか。」


ここ最近、おはようの挨拶も、おやすみの挨拶も、笑った笑顔すらあの時、水浴びの時以来聞いてないし、見ていない。

ヤミナが言うに昔のことを思い出させたって言ってた。


「それから自分のせいでユウの元気が無くなったって言って部屋から出てこなくなっちまった…もう、どうすりゃいいんだかわかんなくなっちまった…」


いつの間にか膝に乗せた拳は血が出るほどに握りしめられていた。


王はそんな俺に静かに語りかける。


「少年、ユウ君の両親はどこかへ行ってしまった…そう、儂は言ったのを覚えとるじゃろうか?」


覚えてる。よく覚えてる。

クエストの途中で崖のところに倒れてたユウを見つけたのが初め。それから王から聞いてユウは両親に捨てられたって聞いた。


「実はの、それは嘘なんじゃ」

「どいうことだ」


王は目を閉じ一拍置き、静かに紡ぐ。


「…ユウ君の両親はもう既に亡くなっている。」


言葉が出なかった。

そして王から告げられたユウの本当の真実は悲しくて、酷いものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ