夏の暑い日の過ごし方~水浴び。その2
真夏の太陽。カンカンと照らされる日差しは外にいる者に関わらず部屋で過ごす者達にもその熱さを与えてくる。
まぁ今は関係ないけど。
「ひゃー!冷たくて気持ちいいねー!」
「うぅ。鼻に、入った」
水着に着替えた俺達は家の外に造られてしまった水浴び場にてこのクソ暑い時間を逃れていた。
中は結構広くて7人で遊んでもまだ普通に余裕があるくらいだ。もうホントあの短時間でよく作ったな。
無駄に能力を発揮した英雄達は子供みたいにはしゃいでいる。余っ程暑かったのか、皆凄い晴れた顔をしてる。カーファなんか気怠げな顔からいつもの何倍もサッパリした笑顔で遊んでる。
ここ最近結構忙しかった分もあって更にこの暑さだったからね。
「ほら!ユウも遊ぶわよ!」
「おいで〜」
「え、やだよ」
俺が即答で返すとカーファとミルネは目をいっぱいに見開かせる。
いや、だって嫌なものは嫌だもん。何が好きであんなミサイルみたいな威力の水かけっこに参加しなくちゃいけないんですか。俺の命いくつあっても足りないわ。
2人の水遊びっていうのは人を殺しかねない位の威力の水のかけ合いっこってか水魔法だし。死ぬわ。
まだ死にたくはないので俺はのほほんと水に浸かってるノアさんとミズハさんの所に行く。遠くから見たら温泉に浸かってる人にしか見えない。
「あ、ユウも、一緒に、浸かる?」
「本当に気持ちいよね。やっぱり夏は水浴びが一番暑さ対策に打って付けだよ」
確かにそうかもな。こんな大層な水浴び場作るのもあれだけど、話のタネになりそうだから後で王様に言ってみよう。なんて言うかな?また「バカ英雄め…」とか言って倒れそうだ。
そう言えばまだ王城で仕事してるミーニャとクライスに申し訳ないなぁ。暑い中ちゃんと仕事してるのは偉いから今日のご飯は2人の好きな物作ってやるか。
そんなことを思いながらミズハさん、ノアさんと喋っていると丘下から凄い勢いで走ってくる人影が見える。…ってかこの速さで走れるのはアイツらしかいない。
前言撤回。もう好きなご飯作ってやんないし。
「みんなー!!暑いから帰ってきたにゃー!!」
「今日は自主練ってことにしたから帰ってきたぞー!!」
手を振りながら汗を散らして走ってくるクライスとミーニャ。そんな2人は走りながら器用に服を脱いで水浴び場にドボンと入ってくる。
「おいっ!クライスはパンツで入るな!ミーニャも下着のまま入ってんじゃねぇ!!」
「これ下着じゃないにゃ。水着にゃ」
「嘘つけこのやろう!!」
とぼけた顔でお構い無しに泳いではしゃぎまくるミーニャ。
クライスなんか殺、じゃなくて水かけっこに参戦してるし。
でもまぁ今日ぐらいは許そっか…後で謝りにいかせるけど。
「あれ、そう言えばヤミナは?」
全然姿が見えない。もしかしたらもう上がったのかな。
水浴び場から顔を出し左右を見回すと丘を少し降りた先にある川にいるのを発見した。
「いつの間に…」
水浴び場から出てヤミナの方へ向かう。
この辺は本当に凄い静かだからバカ英雄共のはしゃぎ声が丸々聞こえる。
「あら、ユウ君」
「何してんの?」
ヤミナは1人でパシャパシャと足で水を蹴っていた。
俺はその隣に座ると川の流れる音とはしゃぎ声に耳を傾ける。
「この辺、昔…って言っても30年くらいだけどね。凄い荒地だったのよ」
おもむろにヤミナは口を開く。
「その当時から私とミルネは知り合いで仲が良かったの」
うん。前も聞いことがある。
天人族、そして魔族は寿命が長い。だから軽く100歳はいく。400年生きてるミルネ、301年生きてるヤミナ。
八英雄の中ではダントツに長寿の2人は幾つもの国を渡り歩いたって聞いた。
それで途中で出会った二人は仲良くなって一緒に旅をするようになったとか。でもその話をすると悲しそうな顔をするヤミナ。だから深くはいつも聞いてない。自分から話して欲しいし、何より掘り出す気は無いからね。
「この川はね、荒地だった場所になにか作ろうっって言って作られたものなの。しかもそれを作ったのは私とミルネのお友達なのよ?ふふっ。彼女、凄い器用でとっても強かったのを覚えてるわ」
「私たち程じゃないけど」と付けたしをしながら小さく笑うヤミナの笑顔は少し暗かった。
多分暗い理由はわかる。
30年前に作ったって言ったら他国との戦争真っ只中だ。レギムンドは資源が豊富だったから略奪しようとする敵国も多くって大変だったらしい。
「彼女、戦争で死んだの。最後まで味方のために前線に立ち続けて死ぬ瞬間まで殺り合ったそうよ。」
やっぱりか…。
ヤミナは暗い顔のまま語り続ける。
「その時私たちは丁度ダンジョンに潜っていたの。攻略した後外に出たけど…既に遅かった。」
戦いのあった場所は血池と化し死体がゴロゴロと転がっていたらしい。
そして、ヤミナ、ミルネの友達の死体も。
「戦争なんて利益、不利益で行うものじゃない。それは私でも分かるわ。それなのに戦争は無くならないの。ねぇ、ユウ君。何でなのかしらね」
私は暫く顔を俯かせ皆の喧騒を聞く。
こんな話、今しなくてもよかったのに。何で今話しちゃったのかしら…
そして自分の言葉が失態だったことに気づく。
「あっ…!ごめんなさいユウ君!私、ユウ君の気も知らないで…」
「…大丈夫だよ。俺はなんともないって。」
ユウ君は手を振りヘラヘラと笑う。
「それより戦争が無くならい答え、きっとそれはこの世界に生きる者がいるからなんだよ。守るた為に、生きる為に戦争は起こる。きっと良い事なんかほとんどない。けれど知っていたって止まらないんだよ。」
色は消え、黒く染まる瞳。
淡々と言葉が口から出たそうに吐かれていく。
たった12歳、その口から漏れる重みを知っているヤミナはユウを抱きしめる。
「大丈夫…私達がいるから。ユウ君の側にいるから…ね?」
「そうだね。…さっ!こんな暗い話止めてみんなの所に行こ!!」
さっきまでの雰囲気はどこ吹く風と言わんばかりに声を張り、立ち上がる。
「ありがとねヤミナ。俺は大丈夫だから」
最後、他の八英雄に合流する前、ユウの背中から語られた言葉にヤミナは顔を綻ばせる。
「ううん。私こそありがとうなのよ?ユウ君。」




