頼もしい小さき背中
レギムンド王国、王の間。
王、王の臣下、そして百人将数名、千人将数名が集まるそこでは皆深刻な顔を浮かべ一枚の紙を見つめていた。
つい最近現れた亜種のモンスター。他のモンスターと比べても桁違いに強いとされていたそれはレギムンドが誇る八英雄、「水蓮氷花」タチバナミズハによってあっけなく討伐された。
そして今目を落とし見据える紙には隣国でも同じ様な現象が起こり手に負えない、要は支援を求めた言葉が綴られていた。
これは明らかな異常事態。王立図書館にある一番古い文献を調べても過去、このような事態が起こったことは無いと記述されていた。
現在危機に陥っている隣国とはフェリフェラリア、アスルガンダ。この両国が今白旗を上げ支援要請を送っている。
友好関係を築いてるこの2つの国と、その王とは過去何度も食事をしたり愚痴り会をしたりと仲が良い。
助けたいのは山々なのだ。しかし、しかしだ。
「あんなバケモノとやりあえる者など彼奴等しかおらんのじゃよ…」
そのやりあえる者、皆分かっているのか頭を抱える。
確かにあの者達が来れば解決するだろう、と。
だが。
「絶対「めんどくさい!」とか言うんじゃろーなぁ…」
「「「「「はぁ…」」」」」
全員一斉の溜息。
実は一昨日から書簡をあの家に出しているのだが返事の一つも返ってこないのを考えれば…まぁ、そういうことなんだろう。
国存亡の危機と言っても普段の生活をするようなアホ共だ。きっと今でもイビキをかきながら寝ているかもしれない。
そんな事を考えながら遠い目をしていると中央の扉からノックの音が聞こえる。
直後ギィーと扉が開かれ現れる小さな体に全員が反応する。
「あ、会議中でした?」
「ふん!来てやったわよオッサン!」
「言葉遣い!!」
「ふにゅ!」
その後ろから現れるドスドスと聞こえそうな歩き方、上からものを言う態度、そして少年に叩かれる英雄「龍殺し」、その光景を見て皆ポカンと口を開ける。
「やっほ〜。私もいるよ〜」
「私もいるわよ?」
「俺もいるぞ」
扉が大きく開かれた後からゾロゾロとその姿を見せる「殺麗美魔」「超絶無敵」「豪神」レギムンド王国最強の者達。
しかしその姿形にはまるで威厳、最強たる絶対オーラが感じられなかった。
何故?
大きめのリュック、手持ちにお弁当、そして全員オシャレな服を着ているのだ。
どう見たって
「…ピクニック?」
にしか思えないだろう。
さっきまでの滅入った空気はどこへやら。ピクニックの一団を見た途端一気に肩の力が抜け苦笑が自然と漏れる。
こんな殺伐とした場所に入れば普通冷や汗を流し心配の色を見せてもいい筈なのに。この英雄達ときたら…王の間に入っても普段の雰囲気のまま談笑して挙句にはまだ子供の少年に怒られる始末だ。そんな光景を見てどう雰囲気を落とせと言うのだろう…無理な話だ。
気付けば傍まで歩いてきた少年と英雄達が目の前におり頭を下げていた。
「ウチのバカ英雄がまたご迷惑をお掛けしました!…ほら頭下げて!」
「「「「すみませんでした」」」」
ふてぶてしく、それでも少年の言葉に従い頭を下げた英雄。
一体なんの事だろうか。聞けば一昨日の書簡の件でだという。
「一昨日家にきた手紙を何も言わず捨てたバカライスがいまして…今は反省がてらレギムンド近辺のモンスターの掃除をしてます。それと書簡の件、了解しました。って言っても今から行くんですけどね。」
王は目を丸くし驚愕すると同時にやはりこの少年には頭が上がらないなと心底感じた。
最初、八英雄が子供を育てると言った時は頭が吹っ飛ぶかと思った。あの伝説とされる、生きる英雄からそんな事を言われれば誰だって驚くだろう。
それから暫く経ったある日、いつもの問題児が起こした案件で頭を抑えていると1人の少年が王の間に入ってくるや全力で頭を下げ始めたのだ。それが少年、カミノギユウとの出会いだった。
そして少し話せば気苦労の絶えないお世話人だと知った。
自分と同じ苦労を背負いながら、あの英雄達に育てられてて大丈夫なのかと聞いたこともある。
その時カミノギユウはこう言った。
「それでも何だかんだ楽しんですよ。あの英雄達と一緒に暮らすのが」
歯を見せ笑いながら本当に嬉しそうな笑顔で。
今、英雄達の手で立派に育っているカミノギユウは唯一英雄達を怒れる、上の存在なのかもしれないと。
王はカミノギユウを見据え笑う。
「いつもすまないのぉカミノギユウよ」
「いえいえ、王様こそいつもウチのバカがすみません」
そんな軽口を交えて俺は頭を下げ踵を返す。
いつもの事だが少しは英雄達にも危機感というものを持ってほしいものだ。無理な話だけど。
既にモンスターが出現したとされるアスルガンダへと出発しているノアさん、、ミーニャ、ミズハさん。(後、合流予定のクライス)この四人が入ればまぁ間違いなく負けるって事はないだろう。俺の懸念はそこじゃない。やり過ぎて地形を変えないか心配しているのだ。
年を押したし大丈夫だとは思うんだけど…心配だな。
「それじゃあーパパっと終わらせてピクニックしよー」
「「「おー!!!」」」
覇気のない声に掛け声するカーファ達に苦笑を漏らす。
「それじゃあいってきますね」
「無事を祈っておるぞ」
大丈夫大丈夫。なんてたってウチ自慢の家族ですから。




