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わたしは小説家になりたい

作者: 有村梨沙

全年齢OK

午前2時、真っ暗な暗闇の時間。

私は、この時間帯が好きだ。

よく、『夜更かしは美容に悪い』などと言われているが、

夕食後から小説を書くのが楽しく、気付けばこんな時間になってしまっている。



「あ、もうこんな時間…そろそろ眠らなきゃ」



そう思い、ファーと欠伸をしてベッドの近くまで移動するのだが、そこから先がなかなか行けない。まだ、もうちょっと…あの新作の小説の続きを書いてから…そうこうして、パソコンの前とベッドの前を何度も通り過ぎるうち、気付けばこんな時間帯まで起きている、という風になるのである。



「あら梨沙子…まだ起きてたの。」



隣の部屋で寝ていた寝起きの顔で私にそう声を掛ける。

午前2時半。決まって母はこの時間に目が覚める。



「あ、うん。どうしてもさっき書いた小説の続きが書きたくてね…

一作で終わらせるつもりだったんだけど、書きだしたら止まらなくて…

ゴメン、起こした?」


「別に起こしてはないけど・・・身体に悪いし、ほどほどにしときなさいよ」



母を気遣う私、大丈夫よ、でも健康に悪いから夜更かしはヤメなさいと注意する母。

この時間帯に、母と私が話す会話のパターンは決まっている。



(こうやって小説が書けるのも、父が一生懸命働いて、

母が家事を全てやってくれるお陰なんだなぁ・・・)


と思うと、じんわり胸が熱くなる。

誤解なきよう言っておくが、私はニートではない。週に5日フルタイムで働いて家にお金も入れている。

だが、こうやってのんびり小説を書けるのは、一家の大黒柱である父や、ひと通り家事を全てこなしている母の存在に他ならない。



「父さんや母さんの為にも、一流の小説家になって年収1億円位の

大富豪作家になろう」



可能か不可能かは置いといて、私は本気で小説家を目指していた。

ただ、『こんな若いうちから目指さなくても』という母の意見や、『なれなかった時の事も考えておけ』という父の進言の元、本業を辞めてまで作家を目指す気になれなかった。



「梨沙子ちゃんは文才あるね。私、こんな文章書けないよ」

「直木賞取れるんじゃないの?ホント、文上手だねー」



親戚や友人は皆、口を揃えてそう囃し立てたが、

果たして何処までが本気なのだろうか。全ての言葉を鵜呑みにするほど、

幼い子供でも無かった。



(ホントに小説家なんてなれるのかなあ)



鼻の上に鉛筆を乗せ、しばし考え込んだ。

以前、直木賞を受賞したという有名な作家さんの本を手に取って読んでみたら、あまりにケタ違いの文章力で、恐ろしくなって途中で読むのを忘れてしまった。



「読者を著者の描かれている世界に引き込むほどの文章力」

「ストーリーが巧妙かつ繊細で、オチもしっかり纏まっている」



本屋の書評にも書かれていたが、全くその通りだと思った。

誰もが感動するような、素晴らしい小説はどうやったら書けるのだろう

とずっと考えていた。



(売れる作家さんって、大体が早稲田大学とか明治大学卒だし・・・

私は地元の2流大学・・・そんなに頭も良くないし、無理かなぁ・・・)



みんな頭良いんだなぁ、と思うと暗澹とした気持ちが一層強くなる。

頭の良さだけでなく、経験の数も大事だとあるプロの作家さんは言っていたが―そうは言っても、やはり学歴は高いに越したことはないだろう。



「小説家なんてなれるワケねー」



と、ボヤきながらキーボードを打っているのは何故だろう。

あっさり希望を捨てたくないという想いがきっと何処かにあった。



「小説家はねェ・・・歳取ってからでも目指せるしねェ・・・」

「若いうちは汗水垂らして働くのが一番さ。父さんのようにな」



2日前の、父母と交わした会話が脳内で再生される。

小説を一生懸命書いている私に、哀しそうな表情をして2人はそう言った。



「解ってる、本業優先でしょ」



分かってますって!と大きくVサインをして誤魔化してみせたが、

内心は小説を書くことで頭がいっぱいだった。本業を辞める気は毛頭ないが、

気持ちが大きく揺り動いているのも、また事実だった。



「売りっ子作家になりたいけど―無理だろうなぁ・・・

でも諦めたくないなぁ・・・」



ポツリ、手元に温かいコーヒーを運びながらポツリそう呟いた。

思わず出た本音。父にも母にも漏らすことはないけれど。

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