26stein: 東出祐一郎 『Fate/Apocrypha』
本来、身長二メートルは超える大男であったはずのフランケンシュタインが、何故か可憐といって差し支えない少女の姿をしているのは、カウレスにとって実に謎だった。ボリス・カーロフやデ・ニーロの立場がない。最初はうっかり花嫁の方を召喚してしまったかと思ったが、どうやら彼女こそがフランケンシュタイン――より正確に言うと、フランケンシュタインが創り出した人造人間――で間違いないようだ。
東出祐一郎『Fate/Apocrypha』第一巻より
今回紹介するのは、フランケンシュタインの怪物が女性として登場する東出祐一郎『Fate/Apocrypha』。
全体のストーリー自体はあまり述べず、フランケンシュタインに関する事を中心に紹介していきます。
・概要
あらゆる願いを叶える聖杯を巡って、過去の英霊と魔術師が戦うFateシリーズの外典。
ジークフリートやアキレウスといった有名な英雄を始め、吸血鬼ドラキュラやフランケンシュタインの怪物(女性)も登場し、黒の陣営と赤の陣営の七騎同士の大規模な戦いが繰り広げられる。
・原作との怪物像の相違点
作中では、黒のバーサーカーのクラスとして召喚されたフランケンシュタインの怪物ですが、何と女性の姿をしています。
原典『Fate/stay night』の主役が、アーサー王の女性化なので、怪物も女性化しても仕方ないと思うかもしれません。
ただ、この作品が出る以前から正式な学会で怪物女性説が唱えられていました。作者が女性という事に加え、半自伝的小説”The Last Man”では、自らのモデルを男性として描いた点なども考量すると、怪物の女性化も一つの解釈と言えるでしょう。
また、原作ほど雄弁ではありませんが、片言だが喋って意思疎通が可能です。『Fate/stay night』では、同じバーサーカーのクラスの英雄ヘラクレスさえ、まともに喋らないレベルなので、同じクラスとしては喋る方です。
少し残念な点は、 動物の臓物を美しいと感じたり、人間の伴侶を求めて男性を誘拐したりと、どこか先天的に純粋な狂気を持つ存在として描いてしまった点です。
原作では、動物を残酷に殺したりはしませんし、人々に虐げられた結果として、言わば後天的に悪と化してしまった存在です。
しかしながら、『フランケンシュタイン』の原作の概要について作中で語る中で、省略されがちな原作の語り手ウォルトンに言及しています。
また、必殺の宝具は、磔刑の雷樹というもので、これは原作の"But I am a blasted tree"(第19章)を意識したものでしょう。
更に、花を摘む描写で池に投げられたらと恐怖するジェームズ・ホエール版映画のオマージュや、冒頭で引用した通りケネス・ブラナー版映画の怪物役ロバート・デニーロに言及する辺り、著者のフランケンシュタイン愛が垣間見えます。
一見すると、原作からかなり逸脱した怪物像に感じるかもしれませんが、実は準拠している部分も多いと言えるでしょう。
・主人公ジークあるいはもう一人の怪物
作中では、人造人間ホムンクルス達を魔力の動力源として使う残酷な設定ですが、その中から、一人のホムンクルスが脱走します。
その彼が、紆余曲折を経て、主人公ジークとなるのですが、彼ももう一人の怪物と言えるでしょう。
詳細な結末は伏せますが、フランケンシュタインとジークという二人の怪物が、人間に憧れ、それを超越する過程が描かれています。
英雄同士の戦いが見たい方にはもちろんおすすめですが、フランケンシュタインファンの方にも一読の価値がある作品です。