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25stein: ブライアン・W・オールディス 『解放されたフランケンシュタイン』

『フランケンシュタイン』は二十一世紀では、科学革命を扱った最初の小説と考えられていたし、ついでながらSFの最初のものと目されていた。


ブライアン・W・オールディス『解放されたフランケンシュタイン』第6章より



今回紹介するのは、SF批評書『十億年の宴』で、「フランケンシュタインをSFの起源」としたブライアン・W・オールディスによる『解放されたフランケンシュタイン』です。




・概要


 2020年の近未来(1973年発表なので…)では、度重なる核兵器の使用により、時空間が乱れ、一部の土地がまるごと別の時間に変位するタイムスリップ現象が起きていた。

主人公のアメリカ人ジョーゼフ・ボーデンランドもそのタイムスリップに巻き込まれ、1816年のスイス・ジュネーヴへとたどり着いた。

そこで、ボーデンランドは、架空のはずのヴィクター・フランケンシュタインとその被造物である怪物に遭遇する。そしてヴィクターとともに、原作同様に、ウィリアムを殺害した容疑をかけられたジュスティーヌの裁判を見学することになる。

 ジュスティーヌの刑死を止めようとしたボーデンランドだったが、いつの間にか数か月が過ぎ去り、今度は、史実の人物であるメアリー・シェリー達と対面する。

彼らと未来について語った主人公は、『フランケンシュタイン』が後世に与えた大きな影響を、メアリー自身に明らかにする。

その後、彼は、ヴィクターの怪物の伴侶創造を止めるために行動する。

どうにかヴィクターの研究所にたどり着いたボーデンランドだったが、怪物の伴侶は完成してしまう。怪物は、 伴侶と共に、外の世界へと旅立っていった。

研究所に残されたヴィクターをふとした弾みで殺してしまった主人公は徐々に狂気に陥っていく。

怪物を追い続け、極地にまでたどり着いた彼は、怪物とその伴侶を殺害。

極地に出現した謎の建物から出てくるであろう怪物/人類?を倒すために銃を構え続けるボーデンランドだけが取り残された。



・フィクションとノンフィクションの融合


 この作品では、フィクションである『フランケンシュタイン』と著者メアリー・シェリーのノンフィクションが、1816年のスイス・ジュネーヴを舞台にして融合しています。『フランケンシュタイン』は1790年代が舞台ですが、時代をずらすことで、著者は意図的に同じ時代と場所に持ってきています。少々ややこしい設定ですが、それ自体がテーマである時空間の分裂の例となっています。

 メアリーの方は、自らが描いたヴィクターが実在することは知りません。ヴィクター・フランケンシュタインの方は、詩人パーシー・シェリーを知っており、『詩の擁護』の言葉にも共感を示しています。

 一つの小説の中で、フィクションとノンフィクションが混じりあい、興味深いストーリーとなっています。

手紙形式で始まり、二つの舞台の入れ子構造になっている点は、『フランケンシュタイン』の原作に近いものがあります。




・別の側面を見せる『フランケンシュタイン』の登場人物


原作と違ってヴィクターの野心的な側面が強調されています。原作では語られなかったヴィクターの詳細な研究や、その後の計画が描かれているのはSFならではでしょう。

特に重要な役目ではありませんが、派生作品に珍しくアーネストも登場します。またうっすらとですが、クラーヴァルがエリザベスに恋をしている描写も見られます。

怪物については出番が少なく、主人公が殺そうと考えているという残念な扱いですが、怪物が主人公を助けたりなど、単なる意思のない機械や悪ではない描かれ方をしてはいます。

また、伴侶が実際に完成してしまったその後が描かれる点も原作にはなかったエピソードです。

単純に『フランケンシュタイン』の物語に主人公が迷い込んだ設定には収まらない描き方がされています。



・魅力的な実在人物との会話


1816年夏のディオダティ荘に滞在中の、メアリー/パーシー・シェリーに、バイロン、ポリドリと主人公は会話を交わします。

脇役としてメアリーとパーシーの息子ウィリアムも史実通り登場しています。

ポリドリもいるもののあまり会話に登場しません。せっかくならば、吸血鬼について語ってほしい気もしますが、蛇足かもしれません。

 会話の内容は、バイロン、シェリーらの特徴を表す雑談から未来の世界の話まで幅広く展開されます。

肝心のディオダティ荘の話は、メアリーの回想でさらっとしか触れられていないのが残念です。

しかし、それを補って余りあるほどの知性と予見にあふれた会話が繰り広げられています。




・SFとしての科学観・自然観


 しかし、これまでに述べたような要素を持ちながらも、『フランケンシュタイン』の詳細な歴史小説に終わらず、SFとして科学観や自然観を詳細に語っているのが、この作品の特徴です。

主人公がヴィクターの研究を止めようと奮闘している事からもわかる様に、行き過ぎた科学に対する否定が語られています。しかし、そこで終わるのではなく、『フランケンシュタイン』の書かれた19世紀から20世紀後半に至るまでの科学の進歩による功績も語り、絶妙なバランスを保っています。

 詩と科学ともいうべき、この両方のテーマを語っている点は、『フランケンシュタイン』のエッセンスを引き継いだものといえるでしょう。




『十億年の宴』が、SFの歴史という時の流れのもとでの『フランケンシュタイン』の魅力を力説した書物だとしたら、こちらの作品は、時空間を超越した魅力を現した小説といえるでしょう。

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