1stein : メアリー・シェリー 『フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス』
メアリー・シェリー作『フランケンシュタイン-あるいは現代のプロメテウス』
原題: Frankenstein; or, The Modern Prometheus
1818年(初版)1831年(第三版)
Cursed, cursed creator! Why did I live?
呪われた、呪われた創り主よ! 何故俺は生きている?
Mary Shelley ”Frankenstein; or The Modern Prometheus”
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス』
怪物がヴィクターに向けて言った台詞
第一回目は、原点である『フランケンシュタイン』。
名前は知っていても、原作が読まれない名作です。
フランケンシュタインの名前を知らない人は、一般の人でもあまりいないでしょう。しかしながら、原作を読んだ人は多くありません。
今回は、あまり読まれない原作にまつわる誤解や魅力を、3点に絞って紹介していきます。
1.フランケンシュタインに対する誤解
まず、原作を愛する者として、これだけは正しておきたい一般的な誤解があります。
・怪物の名前はフランケンシュタインではない。
フランケンシュタインというのは、怪物の名前ではなく、怪物を創ったヴィクター・フランケンシュタインの苗字です。
怪物に名前はありません。創造者のヴィクターが名前をつけず、誰も怪物を認めてくれなかったからです。
原作中では、固有名詞の代わりに、Monster(怪物)(作中27回最多)、Fiend(悪鬼)(25回)、Daemon(悪魔)(18回)、Creature(被造物)(16回)などと呼ばれています。
怪物、悪鬼、悪魔など、ほとんどが中傷する言葉であり、名前がない事よりも酷いかもしれません。
・怪物は知性的。
映画のイメージからか、怪物は無差別に暴力を振るい、幼児並みの知性しか持たない凶暴な存在だと思っている人が数多くいます。
しかし、原作では異なっています。
怪物は、確かに憎しみに駆られて何人か殺しているのですが、その対象は創造主ヴィクターの近親者に限られ、無差別の暴力を働いてはいません。
更に知性的であり、少なくとも青年と呼べるくらいの論理はもっています。
怪物は本も好きで、プルタルコスの『対比列伝』、ミルトンの『失楽園』、ゲーテの 『若きウェルテルの悩み』を読み、内容を理解し、感銘を受ける感受性も持ち合わせています。
2.ヴィクターと怪物の対極的な語り
創造者ヴィクターと怪物という2人の対極的な語りを中心に原作が書かれている事も魅力の一つです。二人の語りについて、以下に簡単にまとめておきます。
・ヴィクターの語り
怪物を創ったヴィクター・フランケンシュタインについて、幼少期の頃から怪物創造までが描かれています。
ヴィクターが怪物に対して行った行為は、許されるものではありませんし、また、確かにマッド・サイエンティストの原型と言われるほど、性格に少し激しすぎる側面があります。
しかし、イメージと違うかもしれませんが、彼が怪物を創ったのは、まだ20代前半の時です。
怪物の創造は、狂気の科学者だからというよりも、若気の至りと言った方が適切かもしれません。
ある意味で、若者や科学者の熱意を代弁している人物でもあります。
・怪物の語り
怪物の語りでは、純粋無垢であった怪物が、社会の悪意に触れていく内に徐々に歪み、壊れてしまう過程が語られます。
誰にも認められない事の苦しみを痛切に描いており、ここに共感する要素が多く含まれています。
また、映画などと違い、小説では、醜い怪物の姿を文章で想像する事しかできないからこそ、語りが更に心に響きやすいのかもしれません。
創造者と被造物であり、加害者被害者同士でもある、互いにもつれ合う、この二人の語りによって、感情移入がしやすく、両方の視点から読める点が特徴的です。
3.様々な問題や作品の原型
更に、この作品の魅力としては、様々な問題や作品の原型となっている事が挙げられます。
科学の功罪を問うテーマでは、副題に「現代のプロメテウス」とある通り、人類に炎を与えたプロメテウスと比較して、しばしば取り上げられています。
SFにおいては、オールディスが『十億年の宴』の中でSFの原点だと主張しています。
また、ロボット関係では、アシモフが、フランケンシュタインコンプレックスという概念を主張し、それに対抗するロボット工学三原則を提唱しました。
また、人造人間の創造というテーマから、クローンや臓器移植などといった生命関係の作品でも言及されます。
更に、原作者のメアリー・シェリーは、ロマン主義詩人の夫シェリーやバイロン、エイダ・バイロンなどともつながりがあります。
そう言った経緯から、スチームパンク作品でも取り上げられる事も多いです。
200年近く前の作品でありながら、未だに古びない問題提起を行っているのは本当に驚きです。
まだ語り足りない事は多いのですが、様々な解説書も出ていますし、今回はここで終わりにします。
原作は、文庫本一冊で、邦訳もいくつかの出版社から出ています。青空文庫で無料でも読めますし、原文はPublic Domainなので、Project Gutenbergなどでも読めます。
いきなり本を読む気になれない方は、先に、NHKの100分de名著『フランケンシュタイン』を視聴しても良いかもしれません。
まだ読んでいない方は、この機会に読んで頂き、真のフランケンシュタインのイメージを感じ取ってくださると幸いです。