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眼球、クソ猿、下衆!

とりあえず、今日明日の更新です。

 オークの村を発って十四時間。外は闇に塗り替えられ、時たま鳥の断末魔のような薄気味悪い声が聞こえる。

 そんな中、強盗四人組とミズイを乗せた車は、不意に道の真ん中で停止した。

 突然の事に、運転手のメルセに皆が視線を送るが、当のメルセは俯いて何やらぶつぶつと呟いている。



「……ミズイィ、村ぁ出てから何時間だぁ……?」

「え?

 あ、えっと、十四時間くらい、です」

「そうかぁ……」



 メルセの言葉に怨嗟を籠めているかの様なゆっくりとした口調に、ミズイが少し気圧されながら答える。

 その答えを聞いたメルセは、数拍置いた後、ぐわりと擬音が聞こえそうな勢いで顔を上げた。

 そして、数多の感情を籠めた一言を放った。



「今日は、ここをキャンプ地とする……!」



 ちなみに、ここは道のど真ん中である。



「はあ? 何言ってんだよメルセ」

「うるせえ! 流石の俺も疲れたぞ!」



 逆ギレしたように語気をやや荒くしたメルセの言い分もわかる。十四時間もの間、ほぼ休み無しで運転し続けたのだから。


 現在地はオークの森を抜け、ミズイの街まで馬で一日といった所。

 道無き道を進んだ森とは違い多少の交通はあるのか、今五人が居る場所は人間や馬などによって、雑草も生えない程踏み固められた道の上だ。その道の脇には壁のように木々が生い茂っている。



「あの、せめて道から少し外れた場所で休みませんか?

 ここだと交通の邪魔に……」

「嫌だね! もう今日は運転しねえ!」



 子供のように駄々をこねるメルセ。

 結局、夜なら人も通らないという事で、道の真ん中に車を停めたままキャンプする事となった。

 不満を言ったのはミズイだけで、他の傍若無人な三人はメルセに対して特に文句を言わなかったというのもある。


 「非常識……」、「早朝には出発しましょうね」などと、ぶつぶつ不満を漏らすミズイだったが、賛同者が皆無のため、渋々と野営の準備に手を貸す羽目になった。


 ちなみに、メルセは手伝わない。

 「準備、疲れるかい?」、「僕ぁねえ、も~っと疲れたんだ~」、「おい、パイでも食わねぇか」などと訳の分からない事を呟いていた……




 さて、人の通る道とはいえ、魔物が出ないとは限らない。

 メルセとジョニー、マルクスとスミス、ミズイの三グループに分かれ、一グループが車内で寝ている間、残り二グループが車外で警戒する事となった。



 それから、今日の(自主規制)は無しである。

 昨日、オークの村で(自主規制)や(自主規制)した挙げ句(自主規制)までしたばかりで、やる気が起きないのだ。

 ……まあ、仮に提案したところで、ミズイは断固拒否するだろうが。




 ※※※




 時は少し戻り、ミズイがマルクスの腋フェチプレイを暴露している頃……

 とある歪な形の魔族が、勇者と魔王が死んだ場所に佇んでいた。



 ――なるほど、これがアイツの言っていた(わだち)か。

 ――確かに、こんなに太い轍は初めて見る……



 歪な形の魔族が、何もない地面を見ながら思考に耽っている。


 その姿は異形と呼ぶに相応しいものだ。

 一メートル程の大きな眼球の周りに数多の触手を生やし、その触手の先端にもそれぞれ眼球がある。

 眼球の裏側は、本来神経が伸びているはずの辺りから他の触手よりも太い二本の触手が絡まり合い、眼球を支えている。



 ――轍は……

 ――なるほど、人間の領土の方へ向かったか……



 既に消え失せたはずの轍を見ているかのように、眼球魔族の視線が遠く離れたオークの森を見据えるように動いた。


 ――とりあえず、轍を辿ってみるか……

 ――……む?


 不意に眼球魔族が、何かに気づいたように視線を地面へ移す。

 その瞬間、眼球魔族のすぐ後ろの地面が割れ、地中から大きなミミズのような魔物が大口を開けて出現した。

 それに連動するように、他の場所からも同じ魔物が瞬時に飛び出す。その数、六匹。


 息つく間も与えない程素早い動きで、その六匹のミミズが鞭のように身体をしならせた。

 牙の生えた口がそれぞれ、眼球魔族へと迫る。



「……☆■×○◇」



 呆れたように眼球魔族は何やら言葉を発し、そして喰われた。


 六匹のミミズのような魔物が、触手を噛み千切り、眼球を噛み砕く。

 その咀嚼の度に、グチャグチャ、グチョグチョと粘度のある水音が響き渡った。


 やがて、全てを食べ終えたミミズのような魔物達は、また獲物が通り掛かるのを待つために地面へと戻ろうと身を捩らせる。

 だが、その動作が突然、苦しみに耐えるようなものへと変わった。六匹それぞれが、のたうち回り、自らの身体を地面に打ち付ける。


 しかし、それもすぐに終わった。絶命したのだ。

 そのミミズの身体が、今度は粘土のようにグニャグニャと変形し始めた。

 そして六匹の死体は目玉になった。

 更にその六つの目玉が寄り添い合い、またしても粘土のように絡まり合っていく……


 仮にそれを見た者がいれば、間違いなく不快感から嘔吐してしまうであろう程に気持ちの悪い光景。


 絡まり合った六つの目玉は、やがて一つの眼球になった。

 食べられる前の、眼球魔族だ。



「×◇■、○☆▽▲……」



 何事もなかったかのように、眼球魔族が身体を支えている二本の太い触手を足のように動かして歩きだした。

 その先には、オークの森がある。




 ※※※




「何だよコイツらは!?」

「インシディアス・モンキーです!」

「いや、名前じゃねえよ!」

「このクソ猿共がぁぁぁあああ!」

「ファッキュー!」

「おいスミス!

 中指立ててる暇があったら一匹でも多く殺せ!」



 早朝の爽やかな空気を、強盗一行の騒がしい声が壊す。

 相手は“インシディアス・モンキー”

 一匹一匹はそれほど強くないが、数十匹もの群れで行動する魔物だ。


 インシディアスの名が示す通り、その戦い方は極めて陰湿。小石や汚物を投げる、木の枝で叩く、数匹で相手に纏わり付くなどで、相手を挑発するのだ。

 それは、単に相手を怒らせる為。

 怒った相手に魔法を使わせ、術後霧散した魔力により空中の魔力濃度を高める。その濃度が一定に達した時、空中の魔力を用いて固有の魔法を一斉に放ち、相手を仕留めるのだ。


 魔力保有量が少ない半面、魔力操作に長けているアンバランスな能力故の戦術。

 相手を怒らせ、相手の放った魔力の残滓を利用し、相手を殺す。

 正に、名前通り陰湿な猿である。



「殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す!」

「あがぁぁぁあああ! 邪魔だ邪魔だ邪魔だぁ!」

「クソがッ!

 ミズイ! てめぇもこんな猿がいんのに、よく熟睡してられたなあ!」

「はあ!?

 私が寝ている間、見張り役のあなた達が勝手にウトウトしたからじゃないですか!」

「こんなクソ猿がいるなんて聞いてなかったからなあ!」

「ちゃんと見張りをしていれば、遭遇する事もなかったんですよ!」

「ああ!?

 なに逆ギレしてんだよ!」

「ジョニー! ミズイ! うるせえぞ!

 喋ってる暇があったら、殺せぇ!」



 互いに八つ当たりしながら、イライラと応戦する五人。疲労しているものの怪我はかすり傷程度で、目立った被害は無い。

 だが、それはインシディアス・モンキーも同じだ。何匹か倒れたものの、素早い動きで飛び交う銃弾や氷の斬撃をヒョイヒョイと躱す。


 変化と言えば、両者のこめかみに青筋が増えていくくらいか。

 五人に猿を殲滅するだけの力が無いのと同様に、インシディアス・モンキーも魔力濃度が中々高まらない為に固有魔法を放てないのだ。

 決め手が無いため長引く戦闘で、どんどんとフラストレーションが溜まっていく。


 だが、その泥沼な戦いに突如変化が訪れた。





「ブモ、猿だけに当たる程度の範囲で爆発を。

 セマカは僕が斬りこぼした猿を」

「応!」

「御意!」



 指揮に従って、まずブモと呼ばれた小肥りの大男が動いた。

 地面に拳を打ち付けると、そこを中心に爆発が起き、捲き込まれたインシディアス・モンキーが炎に包まれる。

 それを背に、リーダー格の痩身の男が次々とインシディアス・モンキーの首を刎ねながら突き進んだ。

 セマカと呼ばれた女性も、刃物を生き残りへ投擲しながら彼のあとを駆ける。


 まるでお互いの行動を予知し合っているかのような隙の無いコンビネーションに、成す術もなく徐々に数を減らしてゆくインシディアス・モンキー。


 それも、ものの数分で終わった。

 インシディアス・モンキーが全滅したのだ。


 奇襲とはいえ、数十匹の魔物を殲滅した三人組の実力はミズイを軽く凌ぐ程なのは明らかである。



「ふぅ、大丈夫だったかい?」



 死屍累々の中、剣を鞘に納めながら痩身の男が強盗一行へと近付いてきた。後ろには従者の如く小肥りのブモと女性のセマカ。

 対して、強盗一行は突然現れた三人をポカンと見つめる。



「ははは、その顔は何だい?」


「……ケッ、爽やかオーラを撒き散らしてんじゃねえよ」

「ちょ、メルセさん!

 助けてもらったのに失礼ですよ!」

「…………あの女、絶妙にブスだな」

「うむ。(自主規制)が反応しねぇ――っ痛ぇ!

 何しやがるんだミズイ!」

「失礼です」


「……は、ははは、仲が良いんだね。

 ところで、君達は……冒険者かい?」


「ああん?

 人の事を聞く前に、まずは自己紹介すんのが普通じゃねえの――っ痛!

 蹴るんじゃねえよミズイ! (自主規制)すんぞ!」

「失礼です。

 あと、殺しますよ?」

「…………てへぺ――蹴るなよ!」


「ま、まあまあ。

 女の子が暴力を振るうんじゃないよ」



 苦笑いを浮かべながら、痩身の男がミズイを宥めた。



「僕の名前はマウテア。後ろの二人はブモとセマカ。

 冒険者で、これからオークの討伐へ向かった騎士団の加勢へ行く所なんだ」


「え? ……それってわた――もぐ!」

「へえ、オークの討伐ねえ。ご苦労な事だ。

 ……だが、どうして騎士団に加勢なんて必要なんだ?」

「んー! んー!」


「騎士団の一人が昨夜、街へ戻って来てね。どうやら、オークが魔法を放って奇襲をしたらしいんだ。

 その不意討ちで、戦力が予定よりも削がれてしまったらしいんだよ。

 で、たまたま街のギルドに居合わせた僕らが依頼を受注したってわけさ」


「んーー! むーーー!」


「……君、そろそろ女の子の口から手を離してあげたらどうだい?」


「あ? 口出ししてんじゃねえよ」



 バタバタと暴れるミズイの口を押さえつけるジョニーがメンチを切ると、それ以上追及しなかった。

 マウテアにしてみても、依頼を急ぐ手前、たまたま助けた相手と(いさか)いを起こしたくはないのだろう。

 決して、強盗達が恐い訳ではない。きっと……


 代わりに、少し目を細めて「ところで、君達は?」と訊ねた。

 珍妙な服装の男四人からは魔力を感じず、同行する女性からは魔力を感じるものの武器も防具も見受けられない。

 しかし、雑魚とはいえインシディアス・モンキーを相手に出来るだけの実力。


 端から見れば、怪しさ満点である。


 だが、マウテアの質問はドスのきいた返答に踏み潰された。



「あ? 何で答えなくちゃなんねえんだよ。

 それともオークと戦う前に、ここで死にてぇか?」

「…………いや、勘弁してもらおうかな。先を急ぐんでね」



 不快感を滲ませながら、そう言うや踵を返した。

 先程からの礼儀無い態度に、彼の我慢も限界だったのだろう。先を急ぐ理由もある。

 たぶん、彼らが恐かったなんて理由ではないだろう。


 結局、そのままマウテア一行は去って行ってしまった。



「んーーー! んんんーーーー!

 むーーー……っぷはぁ! 何するんですかジョニーさん!

 鼻まで押さえないでくださいよ!

 死にかけましたよ! ばか!」


「おめぇが余計な事を言おうとするからだろ」


「余計って……!

 マウテアさん達の言っていた騎士団は、きっと私のいた騎士団です!

 彼ら、無駄足じゃないですか!

 仲間の一人が離れた後、騎士団は私を残して壊滅したんですよ!」


「アー、ソウダッタノカー。

 ソレハ悪イ事ヲ、シチャッタナァ」


「とぼけないでください!」



 怒り心頭のミズイに、マルクスが溜息混じりに説明した。



「あのな、これは金の為なんだよ。

 依頼は『オーク討伐へ向かった騎士団への加勢』だろ?

 騎士団と仲良くオークを殺して来いって事だ。


 だが、騎士団は壊滅。オークの村は死屍累々だ。

 つまり、街へ行って生き残りであるお前が説明をすれば、あの三人組が受注した依頼の報酬が俺達のものになるかもしれないって訳だ。

 簡単だろ?」


「最低ですよ!」


「ま、奴らにゃ悪いが、別に命の危険がある訳でもねえ。

 単に無駄に時間と労力を使うだけだ。

 見知らぬ他人よりも己の金、だろ?」


「…………本当に、最低ですね」



 軽蔑した目を向けるが、強盗四人はどこ吹く風だ。

 メルセが車にエンジンをかけ、そこに乗り込む強盗達。

 それを睨みつけていたミズイは、苛立ち混じりの深い溜息を吐く。



「おい、早く乗れ。置いて行くぞ」

「待て待てメルセ!

 ミズイが居なきゃ金が手に入らねえ!」

「カカカッ! 焦りすぎだぞマルクス!」

「HAHAHA!」



 最後にもう一度溜息を吐き、ミズイも車に乗り込む。


 ――やっぱり、この人達は下衆だ……



 不機嫌なミズイを乗せた車は、馬鹿話を興じる四人の声を響かせながら、ミズイの街を目指して進むのだった。

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