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凄惨、ビーム、腋フェチ!

「……なあ、なにこれ?」

「……さあ?」

「あの女がやったのか?」

「でも武器なんて持ってなかっただろ?」

「てか、女はどこだよ?」

「……さあ?」



 夜が明け、強盗四人組が目を覚ました。

 僅かな倦怠感を引き摺りつつも服を着て、朝の爽やかな日差しを浴びようとオークの建てた家から外に出る。

 そこで待っていたのは、爽やかな朝に似つかわしくない殺戮の跡だった。


 目の前に広がるのは、切り落とされた腕、首、足。地面を赤く染め上げる血液。

 数多のオークの死体が、転がっていた。



「……やり過ぎじゃね?」

「いや、でも……うん、やり過ぎだわ……」

「グロいわぁ…………」

「怖い……」



 強盗達のテンションは駄々下がりである。ドン引きだ。

 そんな強盗達のすぐ近くから足音が聞こえた。その音にビクリと肩が跳ねる。



「あ、目が覚めたんですか。おはようございます」



 近付いて来たのはミズイだった。水浴びでもしていたのか、彼女の肩の辺りで(・・・・・)切り揃えられた(・・・・・・・)髪は湿っている。


 唖然とする四人を前に、ミズイはペコリと頭を下げた。



「改めまして、私はミズイ・ロコックと申します。

 どうぞ、ミズイと呼んで下さい」


「…………あー、うん。

 俺はジョニー。よろしく」

「ジョニーさんですね。よろしくお願いします」



 握手を交わすジョニーとミズイ。


 ――なんだこれ……


 ジョニーを含め、状況を理解しきれない強盗たち。

 だが、ミズイの意図が読めない不気味さと、視界の端に映るオーク達の死体も相まって、流されるままに順々に名乗っていく。



「……メルセだ」

「メルセさん、よろしくお願いしますね」

「……あ、ああ」


「マルクスです」

「……………………」

「……え?」


「スミスだ。よろしく」

「はい。よろしくお願いします、スミスさん」



 マルクスだけ露骨に無視された。



「じゃあ、立ち話も何ですし、オークの家で色々と説明をしますね」



 手を差し出したまま固まるマルクスなんて視界に無いとばかりに無視し、何事も無いように家の中へ入っていくミズイ。


「Why……?

 なんで……?」

「マルクス、よく分からんが、頑張れ!」


 肩にポンと置かれた仲間達の手はとても温かかった、とマルクスは後に語る。




 ※※※




「……これが最後か…………

 さようなら……」



 夜明け頃、その小さく呟いた言葉を皮切りに、ミズイはオークの家から飛び出した。

 そしてその勢いのまま、一番手近に居たオークの胸に氷のナイフを突き立てる。その胸を足場に身を翻しつつ、隣のオークに拳程の氷弾を撃ち込み、着地した。


 強盗四人組の眠る家の周りは、武装したオーク達によって包囲されていた。

 そのオークの集団に怯む事なく、ミズイは更に魔法を発動する。


 何もない空間から縄のような水が吹き出し、近くに居る数頭のオークに巻き付いた。そして、その瞬間水の縄が凍りつく。


 オークの腕力を以てすれば、その程度の拘束を解くことは容易だ。

 だが、ミズイにしても、その一瞬の拘束で充分だった。

 拘束を力ずくで解いたオークへと身を躍らせながら、氷の剣を形成する。


 刹那、そのオークの首が、あるいは腕が宙を舞った。


 突然の出来事。瞬く間に行われた、複数回もの斬撃。

 断末魔の声すらも無く倒れる仲間に、他のオーク達の動きが止まる。



「光栄に思え!

 これが、騎士ミズイ・ロコックの最後の戦だ!」



 美しい氷の剣を構えたミズイが、動揺から動きを止めたオーク達に向けて声を張る。


 その宣言を以て、オークの残党と女騎士ミズイの戦いの火蓋が切られた。


  ・

  ・

  ・


「ってぇ事は、何だ?

 俺達は、オークに奇襲を掛けられて殺させる一歩手前だったってぇ事か?」

「はい。

 警戒も無く熟睡するなんて、信じられませんでした」



 ミズイの口から語られる出来事に、肝を冷やす四人。

 彼らとしては、戦意を喪失したオーク達が奇襲を仕掛けてくる事はないだろうと考えていたのだが、甘かったようだ。

 オークの知能が低く奇襲の作戦が雑だった事と、殆どが負傷したオークだった為ミズイが無双できた事。その二つのどちらかが欠けていた場合、こうして朝を迎える事は出来なかったとミズイは言う。



「その髪はどうしたんだ?

 昨日の夜は腰くらいまであっただろ」


「これは戦いの後、自ら切りました。

 あの長い髪は、私の騎士としての誇りだったんです。

 戦いに不釣り合いながらも、誰も触れる事すら出来ない、強さの証明だったんです。


 けれど、その自惚れの結果、私はオークに捕まり(自主規制)されそうになりました……

 騎士としての誇りを、強さの証明たる長い髪を乱暴に扱われ、(あまつさ)え、汚ならしい人ならざる者の(自主規制)の捌け口に使われる……

 正直なところ、何もかもが嫌になり、死を願いました。


 そこへ現れたのが、あなた方です。

 イヤらしい目で私を見たかと思えば、その……(自主規制)して……


 さ、最初は、痛かったり、悲しかったり、道具のように扱われている気がして屈辱を感じました。

 でも、次第に騎士としての私以外の私、今まで目を背けてきた私が見えてきました……


 それから考え抜いた末、騎士としての自分自身に別れを告げる決心をしました。

 それで明け方まで戦い抜いた後に、新しい私を受け入れる決意と共に髪を切り落としたんです」



 語り終えた後一拍置いて、ミズイはぎこちない笑みを浮かべた。

 それは年相応の、少女の優しげな微笑みであった。





「………………アメイジング……」

「……ワォ」

「…………驚いたぜ」

「……感動した……」



 口々に感嘆の声をあげる強盗達。

 徐々にテンションが上がっていく。



「すげぇ……すげぇよアンタ!」

「ああ! 最高だよ!」

「絶望しても心が折れないばかりか、新しい自分を見つけるなんてな!」

「ただの薄幸な美人かと思えば……

 過去に戻って浅はかな俺を殴り飛ばしてやりたいくらいだ!」

「昨日は悪かったな……

 知らなかったとはいえ、絶望していたアンタに追い打ちをかけるような事をしちまって……」

「まあ、結果オーライだったがな!」

「違ぇねえ!」

「ガハハハ!」


「……ああ、昨日の(自主規制)は許していませんよ?」


「HAHAha……申し訳ねぇ……」

「ごめんなさい……」

「……悪かった」

「てへぺろ☆」


「最後だけ、何だかバカにされたようでイラっときました」


「バカになんて、とんでもない!」

「ああ、これは日本の最上級の謝罪だ!」

「恥ずかしいんだぞ!」


「……にほん?」


「ああ、そういえば、ここは俺達の世界じゃないんだったか」

「そんな事はどうだっていいじゃねえか!

 まずはミズイの新しい人生の旅立ちを祝おう!」

「そうだな! 祝おう! 笑おう!」

「ガハハハハハハ!」

「フゥーーーーーー!」

「ヒャハハハハ!」

「イェェェエエエ!」

「ほら、アンタも!」


「え!?

 い、いぇぇぇ……」


「もっとだ!」


「い、いぇぇぇえええい!」


「イエエエェェェエエエス!」

「ホォォォオオオ!」

「ヒャッハァァァアアア!」

「HAHAHA!」


「あははははっ!」


「ガハハハ!」

「イヤッホーーーーー!」

「ヒャッホォォォオオオ!」

「うひゃひゃひゃひゃ!」


「あはは!

 あははははっ!」



 何が楽しいのか、四人の強盗と一人の元女騎士は暫くの間、笑い続けていたのであった。




 ※※※




 魔王城跡地。

 勇者と魔王の戦いによって崩壊したそこに、複数の魔族が集まっていた。



「皆も知っている通り、昨日魔王様が戦死なされた」

「あー、知ってる知ってる! 知ってる知ってる!

 勇者と相討ちだったんだよね?」



 リーダーらしき魔族に、尻尾の映えた魔族が軽い調子で相槌を打つ。

 王が戦死したというのに、彼らに悲壮感は全く感じられない。



「確かに、相討ち、という事になっているな」


「何々? 何々?

 何その含みのある言い方~」

「○×□○▽×!」


「……すまん、そなたの言語は分からん。

 黙っていてくれ」


「▲!?

 □××○▽◆…………」



 歪な形の魔族が、悲しそうにシュンとした。

 一瞬気まずい沈黙が流れたものの、気を取り直してリーダーらしき魔族が話を続ける。



「一応、今代の勇者と魔王様は相討ちしたとなった訳なのだが、少し変なものを見つけてな」


「も~!

 勿体ぶらないで教えてよ! 教えてよ!」


「我が魔王様の御遺体を回収した際に、車輪の跡を見つけたのだ」


「車輪の跡?」

「人族が勇者を回収した時の、馬車の(わだち)じゃないのか?」


「いや、違う。残されていた跡は、もっと大きなものだった。

 恐らく車輪が四つ付いた乗物による轍だと考えられるのだが、生憎我の知識にその様な乗物は無い」


「アンタが馬鹿なだけじゃないの?」

「え!? 馬鹿なの!?」

「○▽◆!?」


「断じて馬鹿ではない!

 それから、話は最後まで聞け!」


「あ、怒った! 怒った!」

「やーいやーい! 図星なんだろバーカ!」

「バァカ! バァ――ッ!?」



 堪忍袋の緒が切れたのだろう。リーダー格の魔族が予備動作も無しに、いきなりビームのような魔法を放つ。

 魔法の熱で大地の表面がマグマのようになっている事からかなりの威力だったようだ。


 煽っていた魔族達は、スレスレの所を魔法が駆けたショックから冷汗を流した。



「…………話を続けよう。

 お主らには、今説明した条件に合う乗物を探してもらいたい。どうにも嫌な予感がするのだ。

 異論は無いな?」


「あれ、絶対に説明すんのが怠くなったよね」

「うん。絶対に、はしょったわ」

「やっぱり馬鹿なんだろうね」

「うわ~」

「ぷぷぷっ! あの喋り方で馬鹿とか……!」



 先程よりも太いビームが、大地を深々と抉った。




 ※※※




 出発の準備を整えながら、不意にある事を思い出したメルセがミズイに訊ねた。



「なあ、そういや何でマルクスを無視してたんだ?」

「それは、その、(自主規制)の時に、彼だけ気持ちの悪い事をしていたんです……」


「お、俺が何したってんだ!?」


「……わ、腋をずっと舐め回していて…………」

「あー、そういや舐めてたな……」

「犬のように舐めてたな……」


「……え? そんな事かよ」


「そんな事、じゃないですよ……」

「マルクス……」


「なにその反応!

 舐めるだろ!?

 目の前に綺麗な腋があったら、そりゃあ舐めるよ!」


「……ないわー」

「流石にフォローできねぇ……」

「本当に、気持ち悪いです……」


「なんでだよ!?

 普通のプレイだろ!?」


「……マルクス、お前にピッタリな日本の言葉を教えてやるよ。

 “(もも)クリ三年、(わき)八年”て言葉で、何事も結果が出るまでには時間が必要だってぇ意味だ。

 確かに、お前が腋に魅力を感じるのも分かる。だが、誰にでもやって良い訳じゃあないんだよ」


「ジャパン……流石はHENTAIの国……

 そんな戒めの言葉があるなんて……!」



 ……まあ、そんなこんなで五人はオークの村を発った。

 次の目的地はミズイの住む街である。

19時にもう1話、閑話的な話を投稿します。

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