2.大樹の元で
《魔歴**年 水無月の27 ????》
青い空、白い雲、囀る小鳥、重い本。
そして、大きな樹。
神社にありそうな、霊験あらたかそうな大樹(霊験あらたかの使い方はイマイチわからないが)。
自分の見た目は変わってない。
相変わらず少し珍しい生まれつきの白髪だし、服も真っ白い制服だし、靴も白いしスパッツも白い。
目の色や顔の造形は確かめようがないが。
しかしここは何処だろう。
このカビ臭い本が原因なのは明らかだけど。
この本には【幻想世界エルナクレイス】とやらについて書かれていた。
本が大好きで、しかもファンタジー小説にハマっていた私は寝る間も惜しんで読み耽った。
本は広辞苑並みに分厚かったが、真ん中以降は白紙だった。変色してるから黄色いけど。
その真ん中のページには、
『新月が出る日、時間はいつでもいいので、このページを開いて【エルナクレイス】と唱える。そうすると境界が開く』
と書かれていた。
天文部の親友が「27日は新月」と言っていた気がしたから、何と無く、そう呟いてみた。
私としては「何もならないじゃんハッハッハ」的な展開を望んでいた。
しかしそんな展開は訪れず、目の前がパックリと割れ、私を包み込んでしまった。
それからよく憶えていない。
気付けばここにいた。
今にも精霊とか降りてきそうな大樹の元に。
ここにずっと居ても多分何も無いだろうけど、モンスターとかに襲われないという確証もない今、無闇に動き回るのは得策とは言えない。
所謂「詰んだ」状態に、思わずため息が出る。
「あぁ〜災難だなぁ〜」
「そうですね」
!?
誰だ今の声!?
不審者の如くキョロキョロ辺りを見回すと、大樹の後ろから巫女装束の少女がふわふわとした足取りで近付いてきた。
足取りとは反対にキリリとした顔をしていて、しかも一般的な巫女装束と違い黒い袴を履いていて、何だか奇妙だ。
黒いロングヘアーの所謂和服美人的容姿で、瞳も意志が強そうな黒色だ。
何もかもが白い私とは対象的だ。
真っ黒い巫女か、文芸部の先輩のオリジナルのキャラクターを思い出した。
「始めまして、クロハと申します。ところで境界を開いたのは貴女ですか?」
「え?あ、うん、多分そう」
クロハと名乗った巫女さんは、突拍子もない…ワケでもない質問をいきなり私に投げかける。
境界が開く、ってこの本に書いてあったし、多分その境界を開いたのは私で合っているだろう。
「そうですか、えらいことしてくれましたね」
丁寧な口調とは裏腹に割と蓮っ葉な言葉を使っていて違和感。
とりあえず名乗ってくれたんだから、こっちも名乗らないと。
「あ、私は白瀬依乃、ビャクセがファミリーネームで、イノがファーストネーム」
そう言えば昔、イノシシってあだ名付けられたなぁ。
「イノさん、ですか」
「うん?」
「ずっとここに居ても仕方ないので、私の側に来てくれませんか」
「うん」
言われた通り、クロハの側にゆく。
それを確認したクロハは、地面にお祓い棒(正式名称不明)で自身と私を囲む様に円を書く。
「移動!」
そう言い、お祓い棒を地面にトン、と立てると線が引かれた部分が光りだした。
「え、これは?」
「移動術式というものです。身体に影響なんかは無いんで、大丈夫ですよ」
光ばだんだんと大きくなり、ついに私達を包み込んだ。
依乃の世界ではカラフルな髪色はありふれてます。
白がちょっと珍しいだけです。