1.少女と本
幻想世界【エルナクレイス】は創界と魔界の表裏一体の世界である。
世界樹を互いの世界の境界とし、互いの世界は支えあっていた。
しかしこの互いの世界の調和は崩れつつあった。
そしてその事に未だ誰一人として気付いていなかった…
《20**年 6月27日 南十字学園》
ぽかぽかと暖かい日差しが流れ込む午後、窓際、しかも一番後ろという恵まれた誰もが羨む席。
白瀬依乃は、怪物のような分厚い本を熱心に読んでいた。
しかしそれは教科書でもなければ、参考書でもない。
とても古そうで(実際少しカビ臭い)、紙も黄色く変色している上、字は公用語でもなければ地球上の何処でも使われていない字だった。
そんな奇妙な字だというのに、依乃はまるで自国語を読むかのようにスラスラと字を追ってゆく。
何かに取り憑かれたかの様に、活字中毒に陥ったかの如く読んでゆく。
疲れすら感じずに。
やがて授業の終わりのチャイムが鳴り、束の間の休み時間が始まる。
クラスメイトが友達とじゃれあったり、ぺちゃくちゃとお喋りしたり、便所に行ったりする中、依乃はある一言を呟いた。
「エルナクレイス」、と。
よろしくお願いします