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MMORPG体験記

作者: 樹朱
掲載日:2014/06/10


 この世界には、帝国と連邦、二つの勢力が存在した。

 もともとエルフやドワーフやら妖精の奴隷の立場にあった人間が、この世界の頂点に立つようになったのはここ二、三百年である。その二、三百年前に起こった戦争により人間はこの世界の頂点に立てるようになったのだが――んな話はどうでもいい。頂点に立つにあたり、世界平和をなすための問題は話し合いで解決するか、武力で解決するか。意見が割れ、そのままこの二つの勢力は話し合いの連邦と武力の帝国にわかれた。


 そして今なお。勢力間のいがみ合いは減ったものの、にらめっこを続けている。




 なーんて歴史を横目で見つつ、わたくし、朝乃あさのはマホーツカイとしてこの世界ラルスティアに降り立ったのでした。


 えぇと。

 この世界、いわゆるMMORPGといわれるゲームの一作品です。

 初めてねっとげーむというものに触れるにあたり、色々見て回りましたよサイト! どこの世界も歴史が細かく作られているんですねー

 唖然としつつ、こーゆーモノなのかと認識しつつ、この世界に降り立つことを決めたのでした。



 決定理由は、初めに選ぶ職業が三つしかなかったから。

 単純明快w


 ファイター、いわゆる戦士

 マジシャン、いわゆる魔法使い

 シーフ、いわゆる盗賊

 

 の、みっつ。



 優柔不断な私は、初めから職が多いところへ行っても迷いに迷って迷いすぎて、結局MMOなんてやるのやめたーとなりかねない。

 うん。

 どうしてもMMORPGをやりたかったわけではなくて。

 一人暮らしに慣れて、ちょっと寂しくなったのだ。話が、したくなった。

 どっちかといえば、内気で読書したりぼーっとしてたりするのが好きな私としては、自分の変化にびっくりである。


 まぁそんな話は置いといて。

 

 この世界に降りるにあたり、私は世界設定上、学園の卒業試験を受ける羽目になった。

 いわゆるチュートリアルとゆーもの、らしいです。


 【冒険者学園の生徒であるプレイヤーは卒業試験を受けた後、新米冒険者としてラルスティアに降り立ちます。云々。】  公式サイトから引用。


 

 魔法使いの職業を選んだにもかかわらず、ほかの職の先生のところにまでたらい回しにされたあげく、悪ガキだったらしい私はあっちこっちで建物やら備品の修理を手伝わされたのでした。


 いらねーとおもいました。こんなせってい。

 私、そんな学園の建物ぶっ壊すほどお転婆じゃないってばー!



 海に囲まれたその学園で、アイテム拾ったり、なんでか増殖しまくっているウサギを狩ったり先生方のお使いをこなしている間。

 くるくると絶えず総合チャットが動いている。

 たぶん、システム。でも時々、『世界[○○]:』と、誰かが発言しているのだろう文章も見受けられた。


 あぁ、と思った。

 誰かが、この世界で遊んでる。考えれば当たり前のことだけど、すごく新鮮で。

 まだ誰とも言葉を交わしていないにもかかわらず、寂しかった感覚がふわりとあたたかいものに包まれた気がした。

 

 


 さて、この世界はすでに半年前にできたものである。

 だからまぁ、キャラクターをつくってすぐに降り立つこの地に、人がいないのも当たり前である。

 うん。

 むしろ人いて会話なんかしてると、操作方法忘れそうだからいなくていいんだけど。

 

 なんて一人で学園内を駆け回りつつ、もらえるアイテムはすべてもらい、狩してる間にドロップしたものも持ち歩いていたらインベントリがいっぱいになってしまった。

 アイテムを両手いっぱいに抱え、私は立ち尽くした。

 ……困った。

 いや、説明文に 売却しましょう と書かれているアイテムも、ある。

 売却? いったい誰に?


 そもそもここは学園です。先生、学生、卒業生。あ、学園長。

 うさぎ、ねこ、うろついているゴーレム? いったい誰に、このガラクタを売りつけろと。


 仕方ないので初めに降り立った広場から、海岸沿い、洞窟内、湖、空の秘境。

 ぐるぐる見て回りましたとも。

 15分ほど、学園内を見て回った結果。

 学園長の側に立っていた、メイド服を着たおねーさんに売りつけることができましたとさ。

 このおねーさん、初級ポーションやドーピング剤も売っていました。もういらないくらい、ログインプレゼントとかいって押し付けられたから、買わないけど。

 


 軽くなった身体で、私は残りのお使いという名の卒業試験をこなし、あっという間に学園を離れ、冒険者として旅立ちました。

 ということはなく。

 魔法使いの先生から頼まれていた、空の秘境での魂集めに私は苦戦していた。


 空の秘境。

 学園内にある、よくわからない施設でその建物に入ると、視界一面星空でいっぱいになる。メイドと執事の霊が住み着いていてそれぞれから三つずつ魂を取ってこいとのお達し。

 霊から魂取れんのかとか疑問がわくけど、んなことどうでもよろしい。

 問題は、執事である。


 メイドはどうにか4、5体倒して魂がドロップしたのだけど、執事は回復魔法でも使うのか、全然体力HPが減らないのである。

 基本魔法で半分ほど削ればあっという間に回復され。

 こっちの魔法力MPが減っていくだけです。


 

 二度目の、困った。

 むこうの回復力よりも、こっちの攻撃力が上回れば圧勝のはずだ。それくらい、わかる。

 さて。

 どうすれば攻撃力って上がるんだろう。

 HPが満タンになった執事に追っかけられ、必死に逃げてターゲットを切りつつ、私は首をかしげた。



 この世界、選んだきっかけはもうひとつある。


 成長方法が単純なこと。


 これ、大事。Lvがあがれば装備を変える。それだけ。

 ほかのMMOだとステ振りなるものが行われるようです。

 つまり、筋力値だとか回避とか自分で決めるんだよ! それぞれ、個人差が出るところがいいんだろうと思いますたぶん。

 でも悪いけど、私にそんなことを求めて御覧なさいー。

 きっと最善求めてぐるぐるしたあげく、こっちの能力上げたいし、あっちの能力ももうちょっと欲しいしなんて、とんでもない魔法使いができるに違いありません。確信。


 ということで、わかりやすく単純に。誰にでもできるをモットーに。

 うん。

 ただし、私がいるのはまだ学園内である。唯一、物品を販売していたメイドのおねーさんは装備の類は売っていなかった。彼女が売っているのは消耗品だけ。

 つまり、たった今私が着ている、学園の制服と説明文に書かれた装備しか手に入れられる装備品はない。変えられる装備なんてありはしないのだ。


 ……どーしろと。

 私は一生学園から出られないくらい悪ガキだということでしょうか。

 愕然である。

 どれだけわるいことしたんだろう。



 目の前をふわふわと通り過ぎる執事を眺めつつ、私はひとつ、思いついた。

 魔法がだめなら、叩いてみてはどうだろう。

 物は試し。


 自分のHPが完全に回復していることを確認し、私は近くにいた執事に殴りかかった。


 結果。

 うわぁ。殴ったほうが早い早い。

 回復する間も与えずげしげし殴り、締め上げるとあっさりと魂を吐き出した。


 魔法使いなのにと思いつつ、魂を拾う。

 初期の基本魔法、マジックボルトは詠唱時間が長いのだ。

 一回分の殴りと魔法一回分の威力は魔法の方に軍配が上がるだろう。ただし、魔法一回打ち出す時間を殴る時間に当てた場合、殴ったほうが多いダメージを与えられる。

 たぶん、そんなとこだろう。


 もーこれ、学園内なら殴ってたほうがおつかい早く終わるんじゃね?



 さくさくと集めた魂を先生に渡し、さて残りは学園長の試験のみである。

 敵は殴って倒してやろうと意気込んでいった私に、学園長は初めて降り立った広場で出会った、先生に会ってきなさいと言い渡した。

 ……学園長まで私を使いっぱしりに仕立て上げるつもりなんだろうか。



 巨大なネコのとなりに佇むその先生に声をかけると、彼女は私を見て言った。


「あなたは、魔法使いとして冒険者になるのね?」


 うん、まぁそうですねぇ。ここでたら冒険者になって魔物討伐ってのが私の世界設定ですよねー。

 そーそー。

 頷いて、会話を進めようとしたらピコンと会話文のウィンドウとは別のウィンドウが現れた。

 〈魔法使いになります。よろしいですか?〉

 

 ……は。

 職業って、卒業直前に決めるものだったの?!

 驚きである。

 てか、一番最初にこの先生に話しかけたとき、職業選択の画面でたよね? あれは仮初だったということでしょうか。


 しかもこのウィンドウにはyesの選択肢しか、ない。

 ここで、やっぱ戦士、盗賊になろうって人はキャラクターから作り直せってことですか。

 ……運営側の意図を見抜けという新たな謎掛けでしょうか。


 魔法使いになることに不服はないのでそのままyesをクリック。

「そう。なら、立派な冒険者として旅立ちなさい。うんぬん」


 ざっくりとお別れの挨拶をして、学園長に再び会って、神秘の小箱なるものをもらい、ここ出たら冒険者だから一遍故郷に帰って元気な姿を見せて来いと海岸まで連れて行かれた。

 船に乗って帰れってことだろうか。


 うろうろしていると、どこからか馬に乗った女性が現れた。

 私の学園の制服に比べると、ずいぶんとごつい装備だ。

 キャラクターの上に緑色の文字で名前があった。プレイヤーだ。

 彼女は私のほうなど見向きもせずに、砂浜を馬で走り、船長や航海劇団員が集まる場所へと突っ込んで行き、ふっと姿を消した。


 ?

 なんだったんだろう、今の。

 姿が消えた辺りに行ってみようと歩いていくと、近くにいたNPCの少女に捕まえられた。いわく。

「わたしが故郷に転送してあげるわ。目を瞑って、楽にしてて。いくわよ」


 問答無用で、故郷とやらに放り出されましたとさ。

 船漕いで行くんじゃないのか。




 チュートリアルも無事に済み、故郷に着いたことを確認しログアウトする。

 もう疲れた。

 先生たちは卒業するつもりの学生を雑用に引っ張り回しすぎである。


 公式サイトの掲示板をのぞく。

 まだよくわからない文字の羅列を眺め、初心者の言葉に反応して読んでいくとやたらとギルド加入やら勧誘の文字が多い。

 ギルド、というものがプレイヤーによる集団であることは理解していたが、入ると何かいいことがあるんだろうか。

 安易である。単純である。

 ただし、サービス開始から半年経っているゲームである。

 チュートリアルを済ませたばかりのとんちんかんがプレイヤーの集団に入っていくことを考えると、迷惑かなぁ。

 

 ちょっと迷ってから、私は公式サイトを閉じた。

 もう少し、一人でこの世界を見てからでも遅くはないでしょう。





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