勇者です。 人間でなくなりましたとです。
勇者です。 人間でなくなりましたとです。
すいません新人さん、一度言ってみたかったんですよ。 私の場合、先輩がリタイアしちゃってたので一人っきりだったもので。 とりま説明に入りますね。 まず、勇者になると怪我しても即座に治ります。 痛覚もかなり鈍くなります。 けれども味覚や感触はあります。 人というものを保つために必要だからだそうな。
かわりにヒットポイントなどという名称のゲージみたいなのが視界の左上端に現れます。 ほら、見えるでしょう? 攻撃を受ける度にこの枠の中の緑色のバーが減って行くんですが、無くなると怪我が回復しなくなり、ついで体の維持が不可能なほどに損傷するとゲームオーバーとやらになりますので気をつけてください。
ああ、もちろん死亡するのではなく、所々にあるセーブポイント(何故か本と羽ペンの形をしており、ダンジョン内や森の中、泊まる宿屋の部屋の中、果ては砂漠地帯のオアシスにある椰子の木のすぐ近くなどにも置かれています)に書き込んでいればそこからやり直せます。 人生を。
一々勇者が死ぬ度に新しいの見繕ってたら自転車操業も良い所ですからね。 そりゃ神様も簡単に死なないよう一計を案じる訳ですよ。
それでまあ、HPゲージの下には青色のマジックポイント、通称MPのゲージがあります。 それを消費すると魔法が使えたり魔法の道具が使えたりします。 それで敵を凍りづけにしたりします。 私はもちろん勇者になる前はそんな事できませんでした。
これらの回復方法は単純なもので、動かないでいると回復します。 他にはベッドで寝たり、薬を使っても良いです。 賢者様などは一瞬でどちらも回復してくださいますので面倒臭い場合は彼女にお願いしてください。 あ、ちなみに眠気や食欲などといったものは勇者になってからはすっぱりとなくなります。 やろうと思えば出来ますが、嫌ならしなくて良い程度のものです。 ああ、もちろん何か入れればその分出ますからお気をつけて。 しかしほんと、テスト勉強が捗りそうです。 もうしなくて良いのですけども、叶うなら戻りたいですねあの頃に。
さて、勇者稼業というのはまったくもって楽ではなく。 もちろん敵を倒すため日々奮闘しております。 その中では、やはり戦闘というのは避けられるものではなくて、最中に喉笛に噛み付かれたり腸えぐり出されたり装備ごとドロドロにゆっくりと溶かされたり単純に頭を踏み抜かれたりとか色々とあります。 いうなれば即死攻撃です。 これを受けたらどうにもなりません。 諦めるしかありません。
個人的に一番嫌な死に方は溶かされるやつです。 瀕死や逃げられない状態になると痛覚が完全にシャットダウンされるから痛みはないんですが、やはり自分の体が溶けていくのを見るのはあれですし何より鍛えた装備が全滅します。 一度は+9まで育てた愛用の薙刀が食われました。 二ヶ月掛かったのに。 もちろんその時のスライムは後日念入りに殺しましたよ。 私の最高傑作を壊されたんですもの、当たり前です。
とりま痛覚がないなら死ぬのも怖くないですよ、記憶を保ったままにやり直せる訳ですし。 経験値は、魂に積まれた分は無くさないのでそこまで惜しい訳でもございません。 体を鍛える手間は確かにあるっちゃありますが、それはそれで楽しいものです。 それに、大きな街でセーブしとけばやり直しも楽な上、ボスを倒していたりすると来た道を戻らなくて良いので逆にお得なんですよ。 何かアイテムを取ってこなきゃならない場合は、使えないのが難点ですけども。
さて、これぐらいでしょうか。 説明するべき物は。 それでは新人さん、いっちょ死にに行ってみましょうか。 え? 大丈夫大丈夫、相手この世界最強ですから。 私達程度じゃ相手にもなりません。
ついでに言うと、もう何度も行ってるのであっちも慣れてます。 最近は新しい技の実験台にもなってくださいますし、終わったら痛みもなく一発で終わらせてくださいますし、わりと優しい方ですよ。 身分は敵の総大将ですが。
え、だから大丈夫ですって。 完全浄化なんてやったら今度は人間同士で争いますし、慣れ合いですよ慣れ合い。 私達の上司もあれなんですよ、信徒達にちゃんと何かやってるってとこ見せなきゃいけない訳です。 そういう事です。 大人は汚いものなんですよ。 というか良いストレス解消になるとかで、わりと歓迎されます。 あんまり自分から休みとか取れないタイプの方らしくてね、大仕事したって気になって気持よく休憩できるとか仰ってました。 だからWin-Winなんですよこれホントは。
という訳で行きましょう。 街の中は歩いて行って、向こうの森の真ん中辺りにきたら転移しますよ。 パフォーマンスは大事です。
ほら、新人さん、あそこのわりと趣味の悪い大きい椅子に偉そうに座ってる角の生えた方がそうです。 ……ええ? 私の趣味がダメなだけ? それはないでしょう。 ねぇ新人さん。 ……新人さん、なんで目をそらすんですか、ねぇ。 ねぇちょっと? 新人さん? ……ちょっと貴方様も笑わないでください、惨めになるじゃないですか。
もういいです新人さんなんてもう好きじゃないです。 この悲しみと苦しみ、貴方様にぶつけらいでか!
思いついたのでやっちゃいました