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少女たちと奇跡

 華恋はしばらく目を覚まさなかった。


 医者は過剰なストレスだろうと推測した。しかし身体的な心配な無く、そのうち目を覚ますとの事だ。


「……」


 美由は自分のベッドではなく、華恋のベッドの横にある椅子に座ってうつむいていた。


 彼女の手には華恋のアクセサリーがあった。

 大事に、大事に握っていた。

 ギュっと、ギュっと、握っていた。


「美由、いつまで座ってるの? ベッドに入ってればいいでしょ」


 愛美が病室に入ってきて、美由を心配した。美由もその声に反応して振り向いた。


「華恋ちゃんが目を覚ますまでここにいる」

「……まぁアンタは体の病気とかじゃないから別に問題はないけどさぁ。体調だけは崩さないでね」


 そういって愛美は去っていった。

 美由はどうしても華恋と話さなければならないことがある。

 だから待っている。ずっと待っている。華恋が目を覚ますまで。

 今日は昨日の天気予報のとおり、午後から天気が悪くなって雨も降り出した。なので昨日みたいな夕日を見ることはできなかった。


 彼女は昨日、夕日の元で誓ったのだ。

 本当の華恋のことを知りたい、たとえどんなに想像と違っていても。華恋もそれにうなずいてくれた。


「今日は雨だから夕日が見れないね」


 美由は華恋が目を覚ましてくれると思っていつものテンションで喋り始めた。

 しかし華恋は優しい顔つきで眠ったままだ。


「結局、写真は見つからなかったんだ。ベッドのすきまも、テレビの後ろも探したんだよ。屋上も中庭も探したんだよ。でも見つからなかったんだ」


 美由の声が震えてくる。病室に響く雨の音がしだいに強くなっていった。


「記憶を失くす前の私が大切にしていたものだったから、必死に探したんだ。見つけなきゃ、前の私にもう出会えないような気がしたの」


 美由の瞳から涙が静かに流れる。静かに頬を伝っていく。


「あれ? 勝手に涙がこぼれてきちゃった。お母さんみたいだね」


 今の美由には涙を流した理由がなんとなく分かっていた。

 大切なものを失くして悲しんでいる、だから涙を流しているのだ。


「でももう写真を探す必要は無いの。だから泣く必要も無いの」


 そう言って美由は涙を拭いて持っているアクセサリーを開けた。これは中に物を入れられる形のアクセサリーだった。

 そしてその中には二人の笑顔の女の子がピースをして写っていた。


「運命ってすごいと思わない?」


 華恋は答えない。でも話は続く。


「出会う運命の二人はどんな道を選んでも必ず出会っちゃうなんて信じられない。たとえどんなに離れていても、いろいろな奇跡が起こって出会っちゃうんだよ」


 華恋は答えない。でも話は続く。


「たとえ生まれ変わっても出会っちゃうんだよ。だから運命は永遠に続くの。何回も何回も生まれ変わって、地球が滅亡でもしない限り続いちゃうんだね」


 華恋は答えない。でも話は続く。


「私、華恋ちゃんと出会ってからずっとどこかで思ってたんだ。私たちは運命で結ばれているんじゃないかって。それも神様が決めた運命じゃないの。自分たちで作った運命のこと。そう思わない?」

 雨の音がただ響くだけ。それでも美由はこの名前を言った。

「李帆ちゃん」


 華恋ちゃん、とは呼ばなかった。


 いつしか美由が話した女の子の名前だ。

 美由が失くしたと言っている大切な写真に写っている女の子の名前だ。

 昔、美由の親友だった女の子の名前だ。


「私もびっくりしたよ。私と色違いの写真入れのアクセサリーを持っていたなんて信じられなかった。あの写真は今から三年前だから、全然印象が変わっていて気づかなかった」


 美由は立ち上がって目を閉じている李帆の手を握った。


「また会えたね……前より大人らしくなって可愛くなったじゃん……」

 さっきよりも大きな涙が出た。涙は美由の顔から落ちて、李帆の両手ではじけた。

「起きて、李帆……李帆の声が聞きたいよ……」


 その思いが届いたのかは分からない。でも奇跡は起きた。

 そっと李帆が目を開けた。


「み、美由ちゃん?」

「李帆、ちゃん……」


 美由は李帆を抱きしめた。精一杯抱きしめた。

 李帆はよく状況を理解できなかったが、美由の持っている写真に気づいた。


「その写真……美由ちゃん、思い出したんだね。昔と全然変わってないから、写真見てすぐに分かったよ」


 写っていた二人の女の子の正体は、李帆と美由だった。二人が近所に住んでいて、親友だったころに撮った写真だった。


「一気に記憶が戻ってきちゃって、混乱して倒れちゃったの。心配させてごめんね」


 倒れたのはストレスが原因ではなかった。それも聞いて美由は安心した。


「こんな形で再開するなんて奇跡だよね」

「うん、奇跡だよ」


 二人はしばらく信じられない奇跡に浸っていた。

 雨の音はいつの間に消えていた。


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