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少女の秘密

 病院の昼ごはんを二人でおいしく食べたあとの事、美由の母親がお見舞いに来ていた。サラサラの長い黒髪で優しそうな雰囲気にまとわれた女性だった。


「この子は華恋ちゃんって言うの。昨日友達になったんだ」

「華恋ちゃんって言うんですか。はじめまして、美由の母親の美奈子です」


 紹介が終わったあと美由はトイレに行ってくると言って病室を出て行った。


「ごめんね、華恋ちゃん。美由ったら一日中喋りっぱなしでうるさいでしょう」

「いえ、話していてとても楽しいです」

「ならよかったわ」


 美奈子は笑ったあと少し悲しい表情になった。理由なんて華恋に分かりはしない。華恋は何か楽しくなるような話をしなければと思って切り出した。


「美奈子さんは美由ちゃんと違っておとなしい感じなんですね」

「そうかしら? けっこう私はおとなしい人の分類には入らないと思いますけどねぇ」


 この雰囲気で美由ちゃんみたいに馬鹿騒ぎしていたらなんか嫌だな、と華恋は思いながら話を聞いていた。しかし泥酔したらこんな天使のような人も悪魔に変わるかもしれない。でも美奈子さんには清純なままで居てほしい、とさらに彼女は思っていた。


「色々と迷惑をかけると思うけど仲良くしてやってね」

「もちろんですよ。私たちは友達ですから」

「そう……友達ねぇ」


 その言葉を合図に空気が急変した。


 美奈子はさっきまで笑っていたのに急に暗くなり、ついには涙まで流してしまった。

 まるで別人のように、細い涙の筋を見せている。


「ど、どうしたんですか?」

「大丈夫よ」


 美奈子は懐から白い花柄のハンカチを取り出した。そして涙がそこに移っていく。ハンカチは涙にぬれてわずかに色を変えていく。


「華恋ちゃんは美由の友達だから話しても問題ないわね」


 そんなことを言ってから話に入られると、聞く側はどんな恐ろしいことを知ってしまうのか怖くなるものだ。


 そして友達とはいえ、出会ってまだ数分しか経っていない少女に向かって一体何を語るのか。何を語れるのか。何を語ってしまうのか。


 華恋も一旦息を整えてから話に臨む。


「あの子がなんで記憶を失くしたのかは知ってるかしら?」


 華恋は首を横に振った。そのことを確認すると美奈子は話を続けた。


「二週間前のことよ、美由は自殺しようとしていたの。一命は取り留めたけど、記憶は失くしてしまって……」

「……自殺、ですか?」


 自殺、その意味は自ら命を絶つことだ。人間に生まれたならばやってはいけない行為である。


 そんなことをあの美由がやろうとしていた。その事実は華恋に大きな、とても大きな衝撃を与えた。


 なんであんなに楽しそうな美由が死ななければならないのか。何か死ななければいけないほど悲しいことがあったのか。


 そして、もしその時に運が悪く美由が死んでいたら。


 華恋と美由は出会っていなかった。記憶を失くして絶望していた華恋は美由に救われなかった。

 だから自殺なんて信じられなかった。


「な、なんでそんなことを……」

「……学校でいじめられたらしいの。それで不登校に……」

「あ、あんなに明るくて優しいのにですか?」


 今の美由を見ると、彼女はクラスの中でも中心人物のようなタイプの感じである。明るいからいじめられないというわけではない。


 だから考えられなかった。

 今の美由は偽の姿、本当の美由は彼女の中に隠れている。彼女は知ってはいけない自分を取り戻そうと日々戦っているのだ。


「私にもあまりわからないの。でも一つだけわかることは全ては私のせいなんだってこと。私がしっかり見て上げられなかったからこんな事になったのよ」


 一度引き上げていた美奈子の涙がまた溢れ出した。そしてまたハンカチへと移った。


 ガラガラッ


 このタイミングで美由が病室に戻ってきてしまった。


「どうしたの、お母さん!?」


 もちろん美由は心配して美奈子の元に駆け寄る。


「大丈夫よ、なんでもないから。この年になると理由もなく涙が出てくるものなのよ」

「そうなんだ。何か悲しいことがあったのかと思って心配しちゃったよ!」


 美由が無邪気に笑う。

 とんでもないことを知ってしまった、華恋はただそう思うばかりであった。


 

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