セリス・イスベリア
今回は早く投稿しようと頑張ったけど駄目でした…
「それでは、アレス様は私達と出会うまで一人で旅をしていたんですね」
揺れる馬車の中でセリス・イスベリアは、俺に興味津々らしく、その綺麗な碧眼を輝かせて話しかけてくる。
「ええ。レブームに行く為に一ヶ月の間だけですが一人で旅をしていました」
実際は一日も一人旅をしていないが、俺が住んでいた村から昨日野宿していた場所に行くのは大人でも馬に乗り続けて一週間くらいかかるだろう。それを考慮して一ヶ月にしたのだ。昨日ノイド達に聞かれた時もそう言ってしまったし。
「私と同じ十歳なのに一人で旅ができるなんてアレス様は凄いです!!」
「いえ、それ程でもありませんよ」
このセリス・イスベリアという少女はノイド達から俺がゴブリンロードを倒して窮地を救ってくれたと聞いたらしく、朝からずっと尊敬の眼差しで俺を見てくる。
本当はノイド達の馬車では無く荷馬車に乗るつもりだったのだが、俺と話しをしたいと言ってきてノイド達の馬車に乗ることになった。
馬車内にはノイド達はおらず、二人っきりだ。ノイドとハインがこの馬車を動かすのと魔物の襲撃を見張る為に御者台におり、ナナシは向こうの荷馬車の護衛に行っている。
そして、朝からずっと質問責めにあって今に至る。
俺も氷魔法の事や 気になった事があるので色々と聞きたいのだがタイミングが無い。
「セリス様とアレス君、昼食を取る為にここら辺で一旦休憩する事になったからね」
この声は、槍使いのハインだ。
心無しか嬉しそうな声音だ。
「あ、はい。わかりましたハインさん」
「了解しました。ハイン様」
程なくして、馬車が止まった。馬車から降りたらそこは見晴らしの良い草原だった。
ここなら魔物が現れてもすぐ分かるので撤退するのも楽だ。
昼食を食べ終わっており、今は「少し休憩してから出発する」とノイドが言ったので休憩中だ。
それにしても、セリス・イスベリアと言う少女は偉い人気のようだ。
昼食が終わった後、荷馬車に乗っていた乗員達が次々に彼女に話しかけている。
今の内に、ハインに気になった事でも聞いておくか。
ノイド、ハイン、ナナシの三人はバラバラに行動しており、二人は見張り、一人が昼食と小休憩を取るというローテーションをしている。
今、昼食を取り終わり休憩に入ったハインでそのローテーションは最後だからそろそろ出発するだろう。
「ハインさん、少し聞きたい事があるんですがいいですか?」
「良いよアレス君。ただし、僕に答えれる範疇ならだけど。それで何を聞きたいんだい?」
ハインは、そう言って笑顔を俺に向けてきた。
「ええ、聞きたい事というのは朝言っていた四大貴族とセリスさんについてなんですけど」
そう俺が言ったら、ハインは今も乗員に話しかけられている少女を一瞬だけ見て笑顔で良いよと言った。
「と言っても、セリス様については僕達の依頼人だから多くは語れないけどね」
そう、前置きしてからハインは話し出した。
「まずは四大貴族から説明するね。四大貴族って言うのは、僕達が向かっている神聖国レブームで王の次に権力を持っている貴族の方々達の総称なんだ。
『爆炎のクラティラス家』『水氷のイスベリア家』『風雷のデサストレ家』『土剛のスクエイク家』
レブームに着いたら絶対一度は耳にするよ。四大貴族達の英雄譚は【勇者伝説】に匹敵する程レブームでは人気があるんだ。アレス君もレブームに着いて興味があったら図書館とかに行くと良いよ。
次に、セリス様についてだね。セリス様はさっき言った水氷のイスベリア家の長女なんだ。アレス君と一緒でまだ子供なのにとてもしっかりした子だよ。
ごめんね、セリス様についてはこれくらいしか言えないんだ。
これで一応終わりだけど、僕の説明で何か分からないことや他に質問があったら聞いてね」
「では、今朝の事何ですけどセリスさんの事を説明する前から、セリスさんをイスベリア家の人物だと思っていた人がいたけど何でですか?」
「ああ、それはね。さっき言った四大貴族の方々にはそれぞれ身体的特徴とかがいくつかあってね。そうだねイスベリア家の方々を例に言うと、青髪と碧眼だね。レブームには色々な人がいるけどあそこまで美しい青髪、綺麗な碧眼の人はいないよ。それと、四大貴族の方々はそれぞれ得意とする魔法があるんだ。イスベリア家の方々は水魔法と氷魔法。僕は魔術師じゃないから良く知らないけど氷魔法は扱うのは特に難しい魔法の一つらしく完璧に扱えれる人は魔術師としてはAランク相当らしいよ。
話を戻すね。昨日の事だけどゴブリンに襲われた際に僕らもいたのにゴブリン達だけを一瞬で凍らせた。しかも凍らせたのが美しい青髪の女の子だった。彼等がセリス様の事をイスベリア家の者だと思ってもそう不思議じゃないよ」
それで今、彼女がイスベリア家の者だから商人達は少しでも心証を良くしようと話しかけているわけか。
俺も勇者に任命されて間もない頃は、そういう輩が沢山寄ってきてうんざりだった。
しかもそういう輩の前では下手な言質を取られてはいけないので気が抜けない。
彼女の場合は、それが物心ついた時からずっと続いているのか…
ハインに礼を言って立ち去ろうとしたら声をかけられた。
「アレス君お願いがあるんだけど…」
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昼休憩も終わり、出発することになった。
ノイド達の馬車に乗り込んだが、俺の前に座っている彼女は朝と比べたら少し元気が無くなっている。
氷魔法の事や気になった事を聞くなら今だろうが、優先させる事がある。
「セリス・イスベリアさん。一つお願いしたいことがあるんですが良いですか?」
「……アレス様一体何でしょうか?」
顔つきが変わった。心なしか朝と比べて声音も少しきつくなった用に思える。
「単刀直入に言います。この馬車内だけでも良いので、私と話す時は敬語を使って話すのをやめていただけませんか?」
俺が言った内容が予想外だったのか、呆然としたした表情になった。
「えっ…… どういう事ですか?」
「そのままの意味ですよ。セリスさんに対する嫌味では無いんですが敬語を使い話されると気が抜けない感じになるので少し嫌なんです。百歩譲って敬語でもいいですが名前に『様』を付けで話すのは止めて貰いたいです。できたらそのまま『アレス』と呼んでください」
「……でしたら、私と話す時も敬語を使って話すのを止めて頂けませんか? 私も『セリス』と呼んでください」
そう返してきた彼女に無言で手を出して握手しようとする。
何故、俺が手を出したか分からない用だが、同様に手を出してくれた。
俺はその手を取り、少女の目を見て言った。
「じゃあ、改めてこれからよろしくセリス」
まさか、本当に呼び捨てするとは思っていなかったらしく驚いた表情になったがそれは一瞬の事で次には、初めて見る笑顔で返答してくれた。
「ええ、これからよろしくアレス」