プロローグ
「これで最後だ魔王」
その言葉通り魔王デュニスに聖剣エターナルで致命傷のダメージを与えた。
「…見事だ。勇者アラン、悔しいが貴様の勝ちだ」
魔王はそう言いながら地面に倒れこむ。
だが、魔王を倒した俺も相当なダメージを受け地面に膝を着いた。
「勇者よ……この城からそこの人間達と共に脱出せよ。間も無くこの城は崩れ落ちる」
その言葉を聞き俺は仲間達の方を見る。
……正直、ここまでの旅でそこまで役に立たなかったが最後の最後にいてくれて助かった。
「ベル俺に回復魔法をかけてくれ」
ベルは僧侶なのだが、仲間に入れる前は解呪、解毒、回復魔法なんでもできると言っていたから頼りになると思い仲間にしたのだが、実際は、回復魔法の中級回復魔法までしか使えなかった。解呪、解毒魔法が使えないと魔王城は危険で、言っては悪いのだが足でまといでしかないので転移魔法で教会に返そうとしたのだが、泣きついてきて
「今、帰ったら教会の皆を見返せません……お願いします、お願いします、お願いします…」
と言ってきて終いにはここで自殺すると言ってきたので仕方なく連れてきた。
魔王城の中で毒の罠にかかり少しでも魔力を節約しようとして解毒して貰おうとするまで回復魔法しか使えないと気がつかなかったのだ。今までの旅では、俺が強すぎて回復、解呪、解毒魔法が必要ではなかったし、必要な時も自分が使えるのでベルに頼る事が無かった。それが魔王城に入るまでベルが使えないと気がつかなかった原因でもある。なのでこれは、俺の落度とも言える。
「す、す、すいません、勇者様。ぼ、僕、勇者様の戦闘の余波で受けた自分の傷を治すのに全魔力使ってしまいました…勇者様なら自力で何とかして下さい」
そう言いながら出口の方に全力で駆けて行った。
一瞬絶句したが、ならばと戦士であるカインに
「カイン俺を背負って魔王城を脱出してくれ」
と言った。
カインは戦士なのだが、剣の腕はいまいちで王都の門番より剣は下手だろう。
だが、料理上手かつ世渡り上手で色々な街に訪れては商品を値切り、物を安く仕入れてきたりしてたので戦闘では役に立たないがここまで連れてきた。
一応戦士だから俺を背負うだけの力はあるだろう。
「アラン、すまないがどうやらお前と魔王の戦闘余波で右の腕の骨が折れたからお前を連れて離脱するのは無理そうだ。お前は勇者だ。自分でこの状況を何とかできる筈だ」
見ると本当に腕の骨が折れているようだが体力的には余裕がありそうである。
そう言ってカインも出口に駆けて行った。
二人が出口にあと少しで辿り着くという瞬間に、魔王城が一際大きく揺れた。揺れたと思ったと同時に魔王城唯一の出入り口が崩壊した魔王城の岩石によって埋め尽くされてしまった。
二人共唯一の出口がなくなり阿鼻叫喚で俺に助けてくれと騒いでいる。
……これで万事休すか
「……落ち着け。転移魔法の道具があるぞ」
そう言ったのは、俺達の中で一番高い防具と杖を持っている魔法使いであるブルース。
全攻撃魔法を使えるとか言っていたが、実際は炎の下級魔法しか使えず、さらに魔力量も少なくて魔法使いとして致命的に駄目な奴だ。だがブルースはある国の王族の息子で、役に立たないからと王都に帰らせたら世話になった王様の面子が保てないのと、ある理由から仕方無くここまで連れてきた。それだけの奴だったのだが、まさか転移道具を持っていたなんて予想外だ。
成る程、だから普段なら誰よりも早く逃げる筈なのに、逃げない訳だ。
旅の間では、パーティー内で無駄に威張りまくり身勝手な行動をする、旅の途中で寄った街でも勝手に金を無駄遣いしたりなどと散々だったが、ここまで連れてきて助かった。多分だがあの王様がブルースに転移道具を持たせていたのだろう。
……喋るのも億劫になってきた。早く治療を受けないとヤバイ。
「はぁ、はぁ、ブルース助かった、お前のおかげで何とかなりそうだ」
そう言ってブルースの方を見たら
ブルースは顔に歪んだ笑みを浮かべて
「はぁ何言ってんだ? お前を助ける分けないだろアラン。真の勇者は僕なんだよ。お前を王都に連れ帰ったら僕の王の座が危うくなるかもしれないのに助ける訳がないだろ。それにこの転移道具三人しか使えないの。カイン、ベル、僕に忠誠を誓うなら助けて『『もちろんです、ブルース王』』」
二人共に即答した。共に我が身が惜しいというところだろう。
俺はもう魔力、体力共に限界で、床に倒れ伏した。
俺が倒れたのを見た、カインはブルースに対する心証を少しでも良くする為か、俺の愛剣である聖剣エターナルを俺の手から奪い取った。
「ブルース王、聖剣は真の勇者である貴方様にこそ相応しい。どうぞ本来の剣の主である貴方様がお持ち下さい」
「うむ、帰ったら褒美をやろう」
それに対してベルも俺の所まで来て、俺が身に着けていた竜族の至宝である火竜帝の宝玉を奪い取り
「この宝玉は、魔王を倒したブルース王にこそ相応しいです。お受け取り下さい」
「うむ、受け取ろう。お前にも何か褒美をやろう」
そうして、俺から道具を奪うだけ奪いあいつらは転移道具を使い王都に帰還していった。
最早、俺にはどうすることもできず後は死を待つだけになった。魔王城も俺にも残された時間は少ない。
こんな状況に陥いりあいつらに対する怒りの念もあるがそれより自分の思いどうりに生きれなかった後悔の念の方が大きい。
両親を魔族に殺され仇を取るため修行に励み、神託で勇者に任命されてからは更に一層
修行に励んだ。そのかいがあってか、歴代最強の勇者と言われるまでになったが考えて見たら今まで俺は好きなことをして生きたことなど無かった。
思い返すと修行と窮地に陥った人達を助けることしかしてこなかった…
……何より、ある意味人助けの極みとも言えるのがあの役立たず三人を護衛しながらここまで来たことだ。
……色々と馬鹿らしくなった
勇者だからそれが当たり前などと思っていたが今に至って人生を振り返ると後悔しかないな……
………気が遠くなってきた。
あと10秒後には意識が無くなるだろうという寸前、まだ生きていた魔王が何か言っているのが聞こえてきた。
「勇…よ…お……禁…魔…転…それ…私を倒し……貴…に対する褒…だ」
だが、今の俺には魔王が何を言っているか理解できなかった。
そして俺は意識を手放した。
こうして勇者アランは死んだ。