第2回『あそぶ』会議
受験勉強による自由時間の減少が相次ぐなか、丘之上高校『あそぶ』は自らの自由時間を開拓する為、今日も放課後に集まって『あそぶ』会議を開くのであった…
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ではこれより『あそぶ』会議を始めるよっ!!」
「異議ありっ!!」
「何でしょう『前後って言いづらいから平均に改名したら』くんっ」
「名字を改名する事なんて無理だろ」
「あら、養子縁組とかしたら出来るはずよ?」
「マジか!!なら俺も田中や佐藤みたいなポピュラーな名字になれるのか!!」
「ええ、鈴木も中村も高橋も山田も可能よ」
「よしっ!!俄然やる気が湧いてきた!!」
「あの~、そんな事はどうでもいいんで、サッサと会議始めません?」
「どうでもいいとはなんだ!!俺達にとっては死活問題なんだぞ!!」
「先生に呼ばれる時、医者に行く時には必ず使われる…、その名字を間違えられた時の腹立ちといったらもう!!」
「私はそもそも聞かれるんですよ!!」
「何でだよ」
「昨日説明したでしょうが!!」
「あ、ごめん。長すぎて聞いてなかったわ」
「……もういいです、で今日の議題についてなんですが」
「とりあえずこのシチュエーションで遊ぶことを考えない?」
「そうだ、そうしよう、そうした方がいい」
「……もうそれで結構です。続けて下さい」
「じゃあ室内で遊べるものをホワイトボードに箇条書きしていきましょ」
結果。
・しりとり
・囲碁
・将棋
・オセ〇
・チェス
・人生ゲ〇ム
・というかゲーム
・トランプ
・トランプ投げ
・トランプ受け
・トランプキャッチボール
・トランプ野球
「前半はいいとして、後半の方に疑問があるんですが、書いたのは誰です?」
「え?トランプ野球も知らないの?舌が長い子ちゃん」
「長くないです、『したなが』です!トランプ野球っていう物の存在自体初めて知りました」
「そうか、これは俺らの世代で流行ったスポーツだから若い舌も長い子は知らないか」
「舌も長くないし他も別に長くありません!1歳しか変わらないので関係ないのではないかと思うのですが」
「1歳が『しか』だって!?」
「何かおかしいですか」
「いいか、1歳差というのはな、一生超えられない壁なんだよ!!」
「1歳差のおかげでバカな私達でも先輩面出来るし、賢いあなたでも敬語を使わなくてはいけないのよ!!」
「自覚あったんですね」
「そりゃあもう!!」
「見るからに明らかじゃないか!!」
「なら直して下さい!!」
「……だって面倒くさいんだもん」
「面倒くさいで済まさないで下さい!!」
「ああ…、生きてるのも面倒くさくなってきたな…」
「そこまで面倒くさいですか!?社会に出た時どうするんですか!?」
「私はネットで稼ぐからいいわ」
「俺はニート志望」
「ニートに狙いを絞らないで下さい!!生きていけると思ってるんですか!?」
「いざとなれば自分の内臓を売る覚悟で」
「それ犯罪ですよ!?」
「マジか!?それだと人生設計がめちゃくちゃになるじゃないか!!」
「本当にしようとしてたんですか!?」
「文字通り身を削ってでも生きていく所存だった!!」
「……もういいです。で、トランプ野球って何ですか?」
「そのままの意味よ」
「トランプを使って野球をするのさ」
「……?全く絵が想像出来ないんですが」
「そんな事も分からないの!?」
「だから最近の若者は…」
「だから1歳しか変わらないと言ってるじゃないですか」
「『しか』じゃないと言っているであろう!!」
「物分かりが悪いわね」
「悪かったですね!!で、どういう風にトランプで野球をするんですか?」
「シュッてなってカッてなってグサッてなるんだよ」
「あまり良く分かりませんが、『グサッ』って何ですか?トランプが刺さるんですか!?」
「いや、これは心に傷を負った音」
「関係のない擬音語を混ぜないで下さい!!」
「正確には擬態語ねっ」
「……まぁ、それはいいとして『シュッ』は投げる音、『カッ』は打つ音で良いんですよね」
「いんや、『シュッ』ってのは霧吹きの音で『カッ』ってのは目を見開いた時の音だ」
「これだから素人はね…」
「今までの説明に野球の要素ありましたか!?」
「野球の要素満載よね?」
「ああ、野球の部分しか説明してないしな」
「じゃあ霧吹きはどこで使うんですか!?」
「地面を適度に濡らすために決まってるじゃないか」
「スプリンクラーでやりますよ!?普通」
「スプリンクラーなんてないに決まってるじゃないか」
「まあ持ってたら持ってたで怖いですが……。目を見開く事はどういう風に野球に使うんですか?」
「それは補欠になった時にスタンドで寝ないようにするためよ」
「高校野球ですか!?」
「高校生がやりますもの」
「いかにも高校野球ですが、何か?」
「……そうですね。で、心に傷はいつ負うんですか」
「説明してる時の舌しか長くない子の目が怖かったから負ったんだ」
「舌も長くないです、『したなが』です!!そんな事で心に傷を負ったんですか!?」
「うん、僕ちん小心者だから」
「憎たらしいから『僕ちん』とか言うの止めて下さい!!」
「じゃあ『僕たん』」
「同じレベルの物を比較対象に持ってこないで下さい!!」
「なら間をとって『僕ちゃん』とかどうかしら」
「間をとっても同じレベルなんで意味ありません!!あとしょうもないことを真剣に考えないで下さい!!」
「真剣に考える事につまらないも面白いも無いわ、真剣に考えたいから考えるのよ!!」
「知りません!!せめて議題について話しましょう!!」
「それは下が長い子がツッコミをいれるからだろ」
「『下』ってなんですか『下』って!?確かに私がツッコミをいれてしまうせいで話がそれてしまう傾向はありますが、その背景には先輩達のボケがあるんですよ!!」
「俺達がいつボケた?」
「言ってる意味が分からないわ」
「あぁ、この人達天然のバカだ!!」
と、その時。
(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)
予鈴が鳴った。
「……帰るか」
「……そうね」
「……またですか」
結局、本日の成果。
・前後と妹島はどうしようもないバカだと分かった
・トランプ野球の概要が一部明らかになった
・養子縁組をすると名字を変えられる事が分かった
以上、第3回に続く。