第1回『あそぶ』会議
某所某時刻、とある会議が厳かに始まろうとしていた。
その場に集いし者達は皆学生で、その誰もが会議の始まる時間を今か今かと待ち望んでいた。
何故なのか?
それは、会議の内容を見れば分かるだろう。
さぁ、始まる時間だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
―丘之上高校『あそぶ』部室―
「ではこれより、『あそぶ』会議を始めるよっ!!」
「異議あり!!」
「何でしょう、なんて読むか分からない前後くんっ」
「『まえうしろ』だ!いい加減に覚えてくれ、なんて読むか分からない妹島さん」
「『せじま』って言ったでしょ!」
「知ってる、いもじまさん」
「からかわないで!アンタだって名前通り前も後もなく平凡じゃない!」
「それは触れない約束だ!!」
勝手にケンカを始めてしまったが、ここら辺りで概要を説明しておこう。
『あそぶ』というのは丘之上高校の部活の名前で、『遊部』とも書く。
活動内容は『如何なる状況下においても遊ぶ為に議論し、実践する』という勉強が仕事である学生にあるまじき内容だが、それは同時に学生にとって必要なものなのかもしれない。
――勉強している時だって遊びたいのだ。
そういう人間が集まって出来たのがこの『あそぶ』なのだ。
現在、部員は、二年生で部長の妹島あゆみ、同じく二年生で副部長の前後武晴、一年生の二玲の3人である。
その唯一の一年生がケンカを止めにかかる。
「あの、ここは私に免じてケンカを止めてもらえませんか?」
「なんでよ?」
「だって、妹島さんも前後さんも違う読み方をされるかもしれないですが、まだ読んでもらえるじゃないですか。私なんか『二』ですよ!?『に』では流石に無いと分かるんでしょう、いつも読むのを放棄して『なんて読むの?』って言われるんですよ!!もうちょっと努力をして欲しいものです!!」
「「で、なんて読むの?」」
「『したなが』です!!自己紹介の時散々言ったじゃないですか!!」
「そういえばそうだったような気も…」
「忘れてたな…、完全に」
「忘れないで下さい!!人の大事な名前を!!」
「まぁ良いじゃない、そんな細かい事は」
「だな」
「細かくないです!!」
「それはそうと早く話進めようぜ」
「そうね、そうしましょ」
「ガン無視ですか!!……まあいいです、続けて下さい」
「…………」
「…………」
「…………ってなんで話さないんですか!?」
「いや、何話してたか忘れちゃって」
「俺もだ」
「早すぎでしょ、忘れるの!!若年性アルツハイマーにでもなったんですか!?」
「そうかもしれないわ」
「一度医者を訪ねてみるか」
「そんな大層な事しなくていいです、多分大丈夫だから」
「じゃあ私達が何を話してたか教えてくれる?」
「えーっと、……あれ?」
「思い出せないの?」
「なるほど、揃いも揃って若年性アルツハイマーというわけだな」
「いや、何も喋ってなかったと思いますよ?」
「何を言う、『異議あり!!』とハッキリ叫んだのを覚えていないのか!!」
「私だって『ではこれより、【あそぶ】会議を始めるよっ!!』って言霊を世に放ったはずだよ!!」
「……やっぱり覚えてるじゃないですか」
「でも何に異議があったのかが思い出せないんだな、これが」
「私もどんな議題だったかというのを忘れてしまったわ」
「少なくとも『あそぶ』ことについてですよ!!そのために今ここにいるんでしょ!!」
「そうだっけ?」
「部長が忘れないで下さい!!」
「それはそうと、俺はなんで生きてるんだっけ?」
「副部長は壮大な疑問を抱かないで下さい!!」
「とりあえず、今回の議題は『結局何をすればいいのか』に決定ねっ」
「だから『あそぶ』ことについてですよ!!脳みそにシワがないんですか!?」
「シワがないなら作ればいいをモットーにして生きている、今日この頃よ」
「その発想は無かった!!」
「別に無くていいですから!!百害あって一利なしですから!!」
「……とりあえず、話を進めるか」
「……そうね、でも議題がないわ」
「『あそぶ』ことについてって言ってるじゃないですか!!3回目ですよ!!」
と、その時。
(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)
予鈴が鳴った。
「……帰るか」
「……帰りましょ」
「……そうですね」
結局、本日の成果。
・互いの名前が分かった
・ツッコミとボケのポジションが決まった
以上、第2回に続く。