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詩と死と使徒  作者: 蔵本 新戸
3/3

紅蓮

ルータは笑った。

いやいや・・・。


もうちょっとなんとかなるんじゃないかと思っていたが、

無理だな。

激痛が走り、顔が歪んだ。

ノエルは生きているかな。こっちからじゃよく見えないや。

 

「放たれた火は破壊。放たれる日も破壊。右手をかざす我に、力と少しの慈悲を・・・。この手で燃やすだけ、魂を燃やすだけ。」

紅蓮の魔術師が詩を唱えると、右手に炎がともっている。

 「あのさ。聞きたいことあるんだけどさ。」ルータは薄笑いで言う。

 「なんだ?」紅蓮の魔術師が答える。

 「あんたたち魔術師はみんなそうなのか?」

 「なにがだ?」

 「魔法唱える時に、なんか言っているだろ。詩みたいなやつ。」

 「ああ。」右手の炎は勢いよく燃えている。

 「その詩は必要なものなのか?」

 「ああ。必要だ。言霊は扉を開くカギだからな。」

 へえ。そうなのか。じゃあ俺の頭に浮かぶ詩も、何かの魔法の詩になったりするのかな?

さあな。詩があれば誰にでも使えるというものではない

 そうだろうな。

 もう・・・いいか?

 駄目だと言っても待ってはくれないだろう?

 ・・・・・。

 さらばだ。弱きものよ。

 紅蓮の魔術師が右手を上空にかざす。

 これで・・・終わりか。


 「さらばってそれはお前だよ。」

一瞬のうちに紅蓮の魔術師の背後に黒い死神が立っていた

 満身創痍で血まみれ、立っているのもやっとなはずなのに、ノエルの周りの空気はとても凍てついた空気が停滞し、静かで美しい印象を与えた。

銃弾が紅蓮の魔術師に突き刺さる。

一発。

二発

三発。


キサマ・・・。なぜ。


「俺は普通ではないんでね。」


確かに致命傷を与えたはず。


「確かに死んでるかもな。」


まさか。


「あんまり詳しくは教えたくないね。」


お前らは一体・・・。


ぐっ。不覚だった。こんな銃弾ごときで。


「おい。ルータ無事か?」

「全然無事ではないね。」

「そうか。無事と解釈するわ。返事あるからな。立てるか?」

「立つしか・・・ないだろうが。」

「そういうことだ。立ちなさい。」抑揚のない低い声だ。

「ところで・・・。」

「説明は後だ。俺の銃弾は特別製だが、魔術師は銃弾ごときじゃあ死なない。そこそこ効いてるみたいだけどな。気を抜くな。剣構えとけ。」そこまで一息で話すとノエルの身体の力が抜けて、膝から崩れ落ちた。

「ぐっ。ルータ悪いが、ここまでだ。退散ってな感じだな。」

一瞬目の前が白く染まり紅蓮の魔術師も、ルータも目を閉じた。

時間にして一秒もなかったが、ノエルの姿は消えていた。


 どういうことだ?貴様らは一体?

 

「あれ?緑色から聞いてないの?普通じゃないんだよ。俺たちはさ。」

転がっていた緑色のエネルギーが小刀状になっている銀色の筒を拾い上げ戦いの構えをとる。

 「といっても、あんたらのほうが普通ではないんだろうけど。」

 ちっ。図に乗るなよ小僧。

私は、この程度で死にはしない。膝をついている紅蓮の魔術師はこちらを睨みつけて言う。

「悪いけど殺す。緑色は殺せなかったが、あんたは緑色より弱い。」

私が・・・私がヤツに劣るだと?

許されん。許されんぞ。貴様ら・・・ルータとノエルと言ったな。

忘れん・・。この屈辱・・。

「俺らも勝ち目ゼロだと思っていたし、ノエルがこうなってくれて奇跡的に、優位に立てているんだ。それでもお前は緑色より弱い。ノエルがいようが、奇跡が起きようが緑色を殺せる気はしなかったからな。あんたは死ぬんだよ。」

死ぬだと?人間に魔術師が殺せると思っているのか?

「ああ。もう楽になれよ。」ルータは構えた小刀を打ち下ろした。

紅蓮の魔術師は右手で防御姿勢をとる。

紅蓮の魔術師の右手は切られて地面に落ちた。

右手を犠牲にし、身体への直撃を避け、紅蓮の魔術師は距離を取るため後ろに飛ぶ。

「逃がすかぁ。」ルータは間合いを一気に詰めて、二撃目をなぎ払う。

瞬間、紅蓮の魔術師は自らの血をルータに浴びせかけた。

目に入り視界を失うルータ。

紅蓮の魔術師は叫ぶ。

ここで終われぬ、ここで終わらぬ。

失いし右手を冥府に捧ぐ。闇よわが右手を所望せよ引き換えに力を・・・。爆炎を・・・。破壊を。

詩なのか・・・。願いなのか・・・。唱え終わると閃光が走った。バックドラフトのような風と炎。爆発音。

逃げられる・・・。そう思った時から記憶がとぎれた。




目を覚ますと自分の部屋のベッドに横たわっていた。

「おう。目を覚ましたか。」ノエルはリンゴを剥いてる途中だったようだ。ウサギ型のリンゴが皿の上に乗っている。

「あんたその黒のスーツ何着持ってるんだ。」首を上げようとすると鈍い痛みが全身を走った。

「無理しないほうがいいぞ。結構お前重症だ。」剥き終わったリンゴを頬張る。

「俺のじゃねえのかよリンゴ。」ルータは言う。

「リンゴは俺の好物だ。」

ノエルはいつもと変わらぬ様子だ。怪我をしている様子もないし、いつも通り黒のスーツ上下。黒のシャツ。

「あんたは相変わらず不気味な奴だ。」

「お褒め頂いて光栄です。」リンゴ兎は三個目。

「俺はしばらく動けなそうだな。痛みがひどい。」

「まあすぐよくなるさ。全体的にやけどやらなんやらあるがそんなにひどいもんでもないらしい。世界記録更新だよ。やったな。」

「何の世界記録?」ルータは言った。

「ん?わかんねーか?魔術師と殺し合いをして生き残った回数だよ。」

前回の記録保持者もお前だけどな。リンゴ兎は四個目。

「それはそれはありがたい記録で、これからも更新できるよう頑張ります。」

「その意気だ。」リンゴ兎は五個目。

「てかリンゴ全部一人で食うなら、兎にするとか意味ないだろう。」

「馬鹿だな。短い人生こういうのが素敵でロマンチックだと思わないか?」



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