始まりの児
処女作品です。
稚拙な文章ですが、お付き合い頂けたら幸いです。
魔法科学という言葉が定着したのも、ここ最近の話である。
古代文明が魔法社会を築いていたとか、ある部族には魔法の力が今だ残っているとか、あいつは魔法使いだとか、そんな話はいつの時代にも溢れていたが、証拠や証明があいまいなものでしかなく、国家レベル及び政府レベルで魔法の存在が肯定される事はなかった。
それが、ここまで早期に魔法の存在が広まり、信じられたのも、世界合同政府の、緊急事態宣言(魔道肯定宣言ともいわれる)によるものが大きいだろう。
魔法の存在が確認されてから、ここまで迅速に世界合同政府が動いたのは、人類の敵が、魔道師であり、協力して事に当たることが必要で、戦争はやむを得ない手段なのだと言うアピールをしたかったのだろう。
全世界レベルで軍隊を動かすという事を批判なしで出来るようにするには、人類共通の敵であるという事実と、魔法という得体のしれない力が背景に必要だったのだ。
これにより、世界合同政府加盟国は、非加盟国に対しても戦力を送り込むことに成功する。厳戒態勢を敷き、非加盟国にも、魔道師にもプレッシャーを与えた。
しかし安易な権力争いなどこれから起こる様々な事象で崩れ去っていくことを魔道師たちは予期していた。
ヨシュアは、物音一つ立てずに壇上に上がった。
「初めまして。全世界の皆様。私は「始まりの児」ヨシュアと申します。以後お見知りおきを…。」
そこでヨシュアは深々と頭を下げた。
砂漠の旅人を思わせる格好だった。白い帽子、白いマント、顔も目以外は白い布で覆われている。眼光は鋭いが、女性的な雰囲気を感じさせる声だった。
「まず、この戦いにおいて、犠牲になった人々に祈りを捧げたいと思います。」
ヨシュアは目を閉じて、右手を前に出した。
右手が光り、ヨシュアは閉じた目を開き、右手をそのまま空にかざした。
「冥界だとて、はかなく散るは同じこと。忘却の花とは言えまいが、せめて安らかに眠りたまへ。」詩を朗読するように、唱えると
無数の桜の花弁が空から降り注いだ。
それは悲しみがこびりついてしまった街の至る所に降り注いだようだった。
茫然と構える老女。
行くあてのない少女。
笑顔の消えた少年。
彼らの上空にも花弁が降り注いだ。
悲しみは拭えるとは思えなかったが
少しの慰みになったようだ。
事実、この会見の後、始まりの児を支持する国民が50%を超えた。
始まりの児は会見の半年後には王になったのだ。
権力を手にしたヨシュアが、まず行ったことは鎖国であった。ヨシュアが権力を握った世界政府非加盟国である「イグアイン」は島国であり、人口は200万程の小さな国である。資源は豊富だが、部族間種族間の争いが起こっており常に内戦状態であったが為に、世界政府に介入されている状態であったが、ヨシュアが指導者となってからは内戦は収まり、まとまりをみせていた。世界政府の軍隊は警戒を強め戦力を送り込もうとしたが、結界がはられ上陸ができなかった。イグナイン国内の世界政府軍隊も制圧され、手も足も出ない状態である。島の外周を包囲することしかできない状況が続いており、中がどうなっているのかは謎に包まれていた。
こちらからのアクセスは完全に遮断されているにも関わらず、イグアイン側の魔導師たちは、神出鬼没にあらわれてテロ活動を開始した。各国政府要人は「アサシン」と呼ばれる魔導師達に恐怖した。巨大な軍事力を持っている要人たちは暗殺を恐れた。
100にも満たないイグアイン側の魔術師たちに世界は恐怖し、時代に変革の時が来たのを告げていた。
世界の緊張状態は続いた。
ルータは頭を掻きながら言った。
「また護衛の依頼?」
「そうだ。まあ最近は物騒だからな。」
「また依頼者の情報は教えてもらえないんだろ?」
「察しがいいな。」ノエルは答えた。
ノエルは白髪で長髪、長身で痩せている。切れ長の一重の目。上下黒のスーツに黒のシャツ、どこからどう見ても殺し屋にしか見えない風貌をしていた。
「まあお金がもらえるなら何でもいいよ。」
「今回の報酬は結構なもんだ。よほどのお偉いさんが絡んでいるんじゃないか?」
「まあ興味ないね。」
「期日までは、少しある。まあ自由に過ごしててくれ。」
「了解。」
ルータは依頼者にも、世界にも興味がない。自身の持つ能力を有効に使い、金を儲けられればそれでいいと思っていた。金を貯めて何をしたいわけでもないのだが、そうでもしないと何もしないから金を貯めるのだ。いつかきっと役に立つものは世の中に金と力以外なにがあるだろう?そんな風に思っていた。
「遊びにでも出かけたらどうだ?」
「子供じゃないんだから、どう過ごすかは俺が決めるさ。」
「十分に子供だと思うがな。」
ノエルは後ろ手にドアを閉めて出て行った。
ルータとノエルはコンビを組んで1年になる。お互い干渉もしないし、ルータはノエルについてほとんど何も知らなかった。
戦闘能力に優れ、時に魔法の力に似たものを使う。
それが魔法なのかは分からなかったが、詮索もしなかった。ルータにとってどちらでも不都合ではないし、足をひっぱらなければそれでいいのだ。
明日死ぬかもしれない雇われの身。そんな状況は自分にとって過ごしやすく清々しくも思えた。死に場所を探しているとは言わないがそれに似た感情はあるかもしれない。ルータはそう思っていた。
期日の日が来て準備をして、駅に向かった。駅には先にノエルがいた。
「おう。」とこっちに軽い挨拶をしてやってきた列車に乗り込んだ。基本的には全ての依頼の主導権はノエルが握っており、当日までどこで何をするのかを知らないのはいつものことだった。
二人は言葉少なに列車に揺られた。二人の本拠地である街は、世界政府加盟国の主要国家の首都であるがゆえに、人の数も多い。当然交通網も発達しており、この列車の線路は隣国にまで伸びている。雑多な人々が無表情で列車に揺られるのは都会の証拠なのかもしれない。
「どこまで進むんだ?」
「ライファート駅で降りる。大きな声じゃいえんがな。秘密裏に各国のお偉いさん達が、魔法について意見交換するんだと。」
ライファート地区はいわゆる政治地区といわれるところで、政府機関や企業などの集合地域になっている。
「意見交換?」
「まあ実際は各国がどのくらい魔法について研究が進んでるか腹の探り合いをするってことだろうな。」
「ふーん。」
「自然暗殺の可能性は強くなる。まあお偉いさんっていっても使いっぱしりだろうから、本当の上ではないだろう。中堅の幹部だろうな。」
「今回はそのじじぃ達の警護任務か。」
「そういうことだ。」
「襲撃予想は?」
「十中八九だな。」窓の外は、雨が降りそうな物憂げな暗さだった。
「やれやれ。なら延期すればいいのにさ。」
「延期したところで、襲撃予想は十中八九だ。」
ため息をつきながら、まあいいと思った。命を狙われるというのはそれなりの理由があり、守るのには金が動く。それだけではないか、自分は唯、金のために任務を遂行するだけだ。