召喚されてきた少女たち(4)
「どうぞよろしくお願いします」
まあ、差し出されたら握手はする。
ひとまず友好関係を築く、という証明はした。
手を離したあともなぜかご自分の手を無言で見つめる。
な……なんなの?
魔法師は変わった人が多いと聞くけれど、想像以上に不思議な人だな。
「……美しい」
「えっと………………。……ありがとう存じます」
ジヴェ様と一緒に入ってきた部下らしき魔法師の方が非常に複雑そうな表情。
ええと……もしかして結構な女好きな方なのかしら?
他国でもやらかしてきて……?
あ、あまり考えたくはないわね。
そんな噂は聞いたことがなかったのだけれど。
「師匠、そろそろ」
「あ、ああ。そういえばそうだったな。……それで、なにか体調に変化などはあるか?」
「ないですぅー」
「わ、私も……特には」
どうやら、昨日召喚されてきた二人の体調を見にきたらしい。
しかし、ここで新しい問題が浮上する。
ヒメナ様が急に姿勢を正し、上目遣いになりながら数オクターブ高い声になったのだ。
視線の先にはジヴェ様。
そ……そういうタイプかぁ……。
「王子様もヒメナに会いに来てくれるんですかぁ? うれしーい! お部屋帰ろーかと思ってたけどぉ、王子様が来るならヒメナ待ってるー。その間、ブリジット様がヒメナとお話ししてくれるんですよねぇー?」
両手を拳にして顎に添え、瞬きをパチパチしながらジヴァ様を見上げてアピールしているヒメナ様。
すごいなぁ。
こんなあからさまなアピールする人、異世界にもいるんだなぁ。
たまに夜会にもいるけれど、これに引っかかる方も引っかかる方だと思うのよね。
この場に引っかかる人がいるのかは、疑問だけれど。
ちらりとジヴェ様とお弟子様を見ると……虚無。
表情が、ない。
そ……その反応はその反応でどうしたらいいのか。
「昨日は中途半端になったが、聖女には瘴兵の目撃情報や、襲撃情報のあった場所に赴き瘴兵浄化を行ってもらう。その代わり、生活に関しては不便のないようにすべて国が保証を行う。なにか質問はあるか?」
「はいはーい! それって全部晴乃が行くんですよねぇー?」
「そうだ」
「やっぱりそうなんだー。でもそれってぇ、命懸けですよねぇー?」
「……そうだな」
自分が人から見てどの角度が一番愛らしく見えるか、わかっている顔の傾け方。
これはだいぶ……わたくしが思っていたよりも性格が悪い。
頰に手を当ててしまう。
視線を隣のハレノ様に向けると、真っ青な顔で俯いて震えている。
当然の反応だと思う。
それをわざわざ、あえて、ここで確認する意地の悪さ。
自分の安全が確保されている上でそんなことを言うなんて。
「じゃあーーー……頼み方ってものがあるんじゃないんですかぁー? そこのオネーサン」
「はい? わたくしですか?」
「他に誰がいるんですかぁ?」
さすがにハレノ様が不憫で、お可哀想で。
どう慰めたものかと考えていたらわたくしの方へ矛が向けられる。
これは思いもよらなかったが、敵意剥き出しの視線にわたくしの容姿が相当彼女のプライドを傷つけてしまったのだと察した。
わたくしに矛が向いた理由はジヴェ様だ。
ジヴェ様が、わたくしの姿を見てしみじみと感想をこぼしていたこと。
これが相当に彼女にとって気に入らない出来事だったのだろう。
自慢というわけではまったくないのだが、わたくしは一応、王太子の婚約者を十年務めてきた。
なぜか今や『国一番の淑女』などと身に余る評価をいただくまでにもなっている程度には――周囲に評価をいただいている。
大変にありがたいことだが、正直これに関しては教育の差としか思っていない。
周りの貴族の令嬢の教育が上手くいっていないだけだろう、と。
教育というのは同じものでも学び方がわからないと、実に成るところに差が出てしまう。
わたくしはただ、自分自身が教える立場でもあったから学び方が器用だっただけ。
他の令嬢も中には、わたくしのようにちゃんと教養を身につけた方も多い。
その上でわたくしが殿下の婚約者になったのは、父の爵位のおかげ。
ただそれだけの話だと思っている。
わたくしの中で『王太子妃に相応しい美しい容姿』は姿勢や所作から滲み出るもの。
ジヴェ様に褒めていたのは純粋に、わたくしが積み重ねてきたものに対する評価に思えたから嬉しかったけれど。
それが、ヒメナ様には気に入らないのだろう。
彼女は世界の中心が自分でないと許せないタイプの人間だ。
先程追い払った女官と同じ。
いや、この状況でもあえて喧嘩を売ってくるあたり、彼女よりも。
これは……どうしたらいいかしら?
先程の女官のように迎え撃って叩き伏せるか、素人相手におとなげないからやんわりと受け流すべきか。
ハレノ様のハラハラした表情を見るに、受け流した方がいいかしら?
なんとなく完膚なきまでに叩きのめすと、ハレノ様に八つ当たりがいきそう。
この手の性根が腐っている女はそういうことをやるのよねぇ。
仕方ない。
ヒメナ様が溜飲を下げる方向でやられて差し上げよう。
「そうですわね。ハレノ様とヒメナ様の世界では、どのようにお願いをするのが誠意をお伝えできるのでしょうか?」
わたくしがそう聞くと、ヒメナ様がニヤリ、と底意地の悪い笑みを浮かべる。
ある意味、非常に扱いやすくはあるけれど。




