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召喚されてきた少女たち(3)


 ゲーム? ボードゲームのことかしら?

 それとも異世界のゲームの話?

 

「そういえば、わたくしお二人のお名前をまだお伺いしておりませんの。よろしければ教えていただけませんか?」

「は? 昨日言ったじゃん。ウッザ」

「あ、わ、私が京ヶ瀬(きょうがせ)晴乃(はれの)。な、名前が晴乃(はれの)です。こ、こっちは海家(うみいえ)姫菜(ひめな)。名前が姫菜(ひめな)。わ、私たちの世界は苗字が先なんです」

「ハレノ様とヒメナ様ですね。ありがとうございます。苗字が先に来る文化なのですね」

 

 まあ、わかってはいたけれどやはり聖女様ハレノ様が縮こまっている方。

 高飛車な方がヒメナ様、ね。

 自己紹介をしてもらったからだいぶ話しやすくなる。

 名前を聞いてからハレノ様がチラチラと視線を上げてわたくしの顔を窺うようになった。

 内向的で自分に自信がない――というより、隣のヒメナ様に自身を吸い取られたり削り取られている。

 根はかなり真面目で優しい少女。

 友人の無礼な態度を申し訳なく思っての反応。

 責任感も強く、他人の講堂にまで責任を感じてしまう。

 こちらはこちらで危うい人ね。

 

「それで、この世界についてどのくらいお聞きになっていますか?」

「飽きたから部屋に帰るわー」

「え!? ひ、姫菜(ひめな)……」

「だって聖女様はアンタなんでしょー? あーし関係ないもん。でも、こっちの人生台無しにした責任取って人生責任取ってもらうからー。一生あーしの面倒見てもらうからー」

 

 頬に手を添える。

 うーん……この。

 ――いえ、逆に考えるとここまで愚かで利己的だと、利用する側も扱いづらそうね。

 聖女が亡くなったあとの予備、として考え、エルキュール殿下の結婚相手候補に推奨する貴族も扱いづらさを感じるだろうくらい――。

 

「失礼いたします。ブリジット・ジヴェ様が到着されました」

 

 扉がノックされ、騎士が一人入ってきて告げる。

 ブリジット・ジヴァ?

 今回聖女様を召喚する際、主体となった我が国の筆頭魔法師。

 どういうつもり?

 聖女様の世話はわたくしに投げるつもりだったのではないの?

 

「まあ。わたくしジヴェ様が来られるとは聞いておりませんでしたわ」

「エルキュール殿下も所用が終わり次第聖女様にお目通りをされたいとのことでした」

「そうですか」

 

 王妃様に『婚約破棄した相手に丸投げするな』とでも釘でも刺されたのかしら?

 ちゃんと自分でも聖女様と向き合うつもりが出てきたのか。

 それは褒められたことではあるが……せっかく構築し始めた空気が一気にボロボロになるわね。

 溜息が出そう。

 

「ハレノ様、ヒメナ様、我が国の筆頭魔法師のブリジット・ジヴェ様が面会にいらっしゃったそうですわ。昨日お二人を召喚された魔法師のお一人ですわね。お通ししてもよろしいでしょうか?」

「えー? なにー? まさか帰れとか言わないわよねー?」

「さ、さあ? ジヴェ様にはわたくしも初めてお会いいたしますので……」

 

 せっかくソファーに腰を下ろしたのに、と溜息を吐きたくなりつつ立ち上がってお出迎えの準備。

 さすがに初対面の殿方を前に座っているわけにはいかない。

 ハレノ様とヒメナ様はそのあたりの常識がないのか、異世界のマナーではそういうものがないのか、立ち上がる気配はないけれど。

 まあ、そのあたりは追々でいいと思う。

 というか、この部屋対面のソファーしかないのにジヴェ様とエルキュール殿下が来たらわたくし、どこに座ればいいのかしら?

 話が終わるまで立ちっぱなし?

 そこまで考えていないんだろうなぁ、エルキュール殿下。

 と、思っていると隣の部屋から一人掛けのソファーを女官指示でメイドが四人がかりで運んできた。

 ああ、気を遣わせて申し訳ない。

 でも、こういう時足気を回すのが女官の仕事。

 呼んでおいて正解ね。

 

「失礼する」

 

 その女官たちがわたくしの前に椅子を置いてすぐ、背の高い端正な顔立ちの男性が入ってきた。

 長く黒いローブ、グレーの髪が犬の尻尾のように結われている。

 赤い切れ長い目が室内を見回し、わたくしのところで少しだけ見開かれた。

 想像していた以上にとても若い方に見える。

 様々な国へ魔法を学びに行っていたというから、それなりにお年を召した方なのかと勝手に思っていたけれど。

 

「美しい――」

 

 沈黙。

 空気が、止まった。

 立ったままわたくしを直視した状態で、今なにか……なにか感想のようなものを呟かれた?

 まあ、一旦気のせいということにしよう。

 

「ブリジット・ジヴェ様。お初にお目にかかります。わたくし、ロゼリア・ラクルテルと申します。ラクルテル侯爵家の長女ですわ」

「そうなのか。侯爵家……」

 

 あ、知らなさそう。

 まあ、各国を渡り歩いている人のようだし、わたくしのことを知らないのも無理はないか。

 お辞儀をして直ると、ジヴェ様はいつの間にかわたくしの目の前に来ていた。

 う、うわ、びっくりした。

 音も気配もない。

 勉強だけしてきた方ではないわね。

 多分普通に――強い。

 

「ブリジット・ジヴェだ。よろしく頼む」

「へ? あ、は、はい。ど、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 なぜか握手を求められる。

 握手は、初対面の男女でするのは商売の時だけ。

 先ほどの呟きは気になるけれど、友人関係を構築したい――という意味なら……。



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