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親離れ、子離れ(3)


 ああ、ずいぶんひどい顔色になられましたわね、お父様。

 それでなくとも中途半端に待たせているのに、わたくしそろそろ十九歳になる。

 婚約破棄は王家側が責任を被ってくださったけれど、女として婚約適齢期を思うとさすがに婚約話をいつまでも止めていていい年齢ではない。

 陛下もヒメナ様にこれ以上振り回されるのは嫌でしょうしね。

 

「そ、それは……それ、は……た、確かにいつまでも待たせるわけにはいかないが……」

「そうですわよね。我が家の沽券にもかかわります。優柔不断で、権力に媚びるために娘の婚約話を先延ばしにしている――なんて思われますものね。ブリジット様はラクルテル侯爵家に婿入りしてもいいとまでおっしゃってくださっているのに」

 

 お父様の汗だくの顔。

 わたくしの言葉に、ようやく婚約話は分が悪いと思ったのか継母も渋い表情になる。

 

「わたくしを呼び出したのは、わたくしの帰還挨拶がなかったからだけではないのでしょう? 招待状が、来ましたか?」

「あ……ああ。その話もしようと思っていた。王宮から……お前に近々行われる、婚約披露パーティーへの招待状は……届いている。日時が決まり次第、必ず出席するようにと……」

「殿下はヒメナ様との婚約をやめる気はないのでしょうね」

「だ、だとしたら……やはりお前には殿下の側室に……」

「ヒメナ様の今後のご意向をお聞きしてからですわね。ですが、その前にブリジット様の婚約がまとまると思いますわ。王宮の方に帰還の報告と一緒にブリジット様がラクルテル侯爵家に婿入りしてもいいという意向を伝えて、婚約許可を申請しましたもの」

「ッッッ!?」

「陛下もご一考くださるでしょう」

 

 王家側もヒメナ様とエルキュール殿下が結婚するのなら、わたくしを側室に、と考えていたようだけれど……わたくしとブリジット様がハレノ様とともにバミニオスの討伐に貢献したのは既に報告されている。

 ユリッシュがハレノ様とともにハレノ様の世界に行きたい、という希望も、一緒に伝わっているはず。

 国一番の魔法剣士が聖女様とともにいなくなる。

 残りが聖女様になることもないヒメナ様。

 彼女の意向次第では、殿下は最初から婚約者探しをしなければならない。

 わたくしをあてがいたいだろうが、ブリジット様とわたくしの婚約希望が一緒に届いたらさすがに無視はできない。

 ここでわたくしをエルキュール殿下に戻せば『バミニオスを討伐した英雄の一人であるブリジット・ジヴェ』が国外に出て行ってしまうかもしれないもの。

 ユリッシュに続いてブリジット様まで手放すことになる。

 バミニオスを倒したのに、主魔児(アルグ)二人が国からいなくなるなんて大損害になってしまうわよね。

 なので、まあ……陛下も前向きに考えてくださると思うの。

 お父様にはあえて言わないけれど。

 それに、もしもヒメナ様が元の世界に帰っても、エルキュール殿下なら大丈夫!

 この国の令嬢は優秀な女性が多いわ。

 わたくしも家臣としてお支えするつもりだしね。

 

「婚約発表披露パーティーは絶対にする――ということでしたら、ヒメナ様はこの世界に残られるのかしら? 残っても大変だと思いますけれど」

 

 元の世界に戻っても、ハレノ様の隣にはユリッシュがいる。

 以前のような関係にはならない。

 かといってこの世界に残っても王子妃の教育は受けていない、歌姫としての人気がいつまで続くかわからない、聖女様にもならなかったヒメナ様は、一生勉強漬けになる。

 彼女が王子妃として勉強し続けるとは思えないので、いずれ本性を出すだろう。

 わたくし以外の女性を側室にして仕事を押しつけるのだとしたら、わたくしがそれを暴いて裁く。

 聖女様でもなく、多少人気だった歌姫と結婚した殿下はさぞ、可愛い傀儡になるでしょう。

 それとも王妃に頼らぬ立派な賢王になってくださるかしら?

 まあ、それは殿下次第ね。

 

「なんなの……? なんなのよ! なんの話……!?」

「お継母(かあ)様はあとでお父様に聞いてくださいませ。ともかく、わたくしはブリジット様を婚約者としてラクルテル侯爵家に婿として迎え入れます。お父様は今のうちにわたくしに家督を譲る準備と、郊外の別邸に引っ越す準備を進めておいてくださいませ。郊外とはいえ王都の中ならお継母(かあ)様も文句はないでしょう?」

「だから、なんでそんな話になるのよ!」

「これ以上貴族に嫁いできたにもかかわらず、貴族として振舞う勉強を疎かにしてきたお継母(かあ)様に貶められたラクルテル侯爵家の権威を落とさないためですわ」

 

 簡潔かつ、継母にもわかりやすく。

 継母にとっては一番指摘されたくない部分。

 でも、もうそこに目を背けてはいられない。

 目を瞑ってはいられないのですよ、お父様。

 

「わ、私のせいだというの……?私は努力して来たわ!」

「貴族の女性というのは流行りを生み出す役割があります。わたくしはデザイン提供という形で流行りを作っておりますし、アリスは歌姫として歌声で民と女神様を繋ぐ役割をこなしております。それに、アリスは魔力が少ないながらも、日々勉学に励み魔石に魔力の供給も行っている。お継母(かあ)様はなにを生み出されましたか?」



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