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帰郷の道中(2)


「だから、姫菜(ひめな)は帰りたくないんじゃないかと……」

「残られたいのでしたら残ればよろしいのでは? ブリジット様に望めば、帰ることはいつでも可能ですもの。ハレノ様が先にユリッシュとハレノ様の世界へ帰れば良いのです」

「それはそうかもしれませんけど……って……え!? な、なんで……っ」


 顔を真っ赤にするハレノ様。

 いやあ、見ていればわかると申しますか……。


「相談というのはそちらでしょう? 公爵様や国王陛下に連れ帰ってもよいか許可をもらえるかどうか。もらえるようにわたくしに口添えしてほしいとか」

「わわわわわわわ」


 なんてわかりやすいのかしら。

 思わずにっこりと微笑んでしまったわ。


「そんなもの、陛下にお願いすれば一発ですわ。バミニオスを倒した褒美にユリッシュを連れ帰る許可を、と申せばよいのです」

「で、でも……! フィアナちゃんや公爵ご夫妻は……っ」

「それはユリッシュが説得するべきでしょう。とはいえ、公爵様ご夫妻もフィアナも、ユリッシュとハレノ様の幸せのためならきっと納得してくださると思いますわ」


 ユリッシュは確かに公爵家の嫡男。

 しかしフィアナへの執拗な愛――シスコンっぷりには公爵ご夫妻も頭を抱えていらっしゃった。

 おそらくハレノ様の世界に行くと言っても、反対はされない気はする。

 確かにユリッシュはこの国では唯一無二の主魔児(アルグ)の魔法剣士。

 しかし、聖女ハレノ様の功績を思えば本人たちの希望が最優先されると思う。

 ハレノ様へ報いるには、公爵家の主魔児(アルグ)の魔法剣士一人くらい安いものでしょう。

 公爵家の跡取りにはフィアナがなればいいのだもの。

 ――ただ、エルキュール殿下が話し合いの結果、どう足掻いてもヒメナ様と結婚するというのなら……その時は王太子を退いていただき、王位継承権順位から上がって公爵家のフィアナが次期女王となるかもしれない。

 そうなればユリッシュがこだわるであろう“どこの馬の骨ともわからない男”と結婚することはないでしょうから、ユリッシュも安心なのではないかしら?

 王配ともなれば相当に優秀な殿方でなければ認められないもの。


「でも、やっぱり……私も説明しに行った方がいいですよね……?」

「では、わたくしの屋敷ではなくユリッシュの屋敷にお泊まりしたらいかがかしら?」

「へあ!?」

「公爵様ご夫妻も、フィアナも喜びますわ。それにその方がゆっくりとお話しできると思います。警備面でもわたくしの住んでいる侯爵家別邸よりも、ずっと安全でしょうし。エミューナにも公爵家に行くように命じておきますから」


 わたくしの提案に、ハレノ様は口をパクパクさせる。

 あら? なにもおかしなことは言っていないと思うのだけれど。


「い、いきなり行ったら……迷惑じゃ……」

「先ぶれを出しておけばなにも問題ございませんわ。ユリッシュもどうせ出すと思いますし」


 と、逃げ場を奪う。

 わたくしがあまりにもあっさり言うので、ハレノ様がお顔をキュッとしてしまった。

 どういうお気持ちの表情なのかしら、それは。


「き、聞いてみます」

「ええ。そうなさいませ」

「でも、アリスちゃんにも、会いたいんですよね……。その……ダイエットに成功したら、アリュードネル被服店でお揃いの服を買おうねって、約束していたので」

「そうでしたわね」


 アリスはわたくしだけでなく、ハレノ様にも手紙を送っていた。

 きっと約束を確認しあったりしていたのでしょうね。

 わたくしとしてもアリスとハレノ様にわたくしがデザインしたドレスを着てくれるのは嬉しい。

 でもせっかくなら、オルバグで学んできたものも取り入れた新作を着てほしいですわ。

 ――そうだわ、ハレノ様がユリッシュの屋敷にお泊まりになるのなら、王都に着いてすぐにアリュードネルに行って描き溜めていたデザインを渡してこようかしら。

 元バミニオスの亡国であった国の建築物からもインスピレーションを多くいただいたから、今回の最新作には自信があるのよね。

 オルバグの町の刺繍技術や、古くからのデザインを取り入れた最新作。

 ぜひアリスやハレノ様に纏っていただきたいですわ。


「次の町で先ぶれを出します。ハレノ様、ロゼリア様、手紙をお書きになりますか?」

「ええ」


 御者に声をかけられて、ハレノ様と頷き合う。

 結構、色々なところに手紙を書かなければならないわね。

 さて……わたくしもブリジット様と話をして、覚悟を決めなくては。



 ◇◆◇◆◇



 さらに数日後。

 ついに王都が見えてきた。

 ハレノ様はそのままユリッシュと公爵家に。

 わたくしはアリュードネル被服店に寄ってから、色々打ち合わせをしてラクルテル侯爵家に帰った。

 もちろん、別邸へ。


「お嬢様! お帰りなさいませっ!」

「ご無事で……!」

「ええ。みんな息災かしら?」

「すぐにアリス様とユシス様にお知らせをしてまいります」

「では着替えておこうかしら」


 使用人たちの出迎えは嬉しい。

 出迎えに来ている商人を見渡し、中にエミューナがいないのを確認する。

 どうやらわたくしの先ぶれはちゃんと届いていたらしい。


「エミューナはパシュラール公爵家に?」

「はい。ロゼリア様の先ぶれにあった通り、ハレノ様のお迎えのためにパシュラール公爵家の方に向かわせております」

「ありがとう」

「お姉さまああああ!」

「あら、着替える前に来てしまったわね」


 馬車が来るのを見られていたのかしら?

 飛び込んできたアリスを抱き締めて、つい笑ってしまう。



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