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恋人の祝祭(2)


 そのような考えた方だから、聖女様や女神の生まれ変わりを障兵とバミニオスに捧げればわが身と国は助かるだろう、と思ったのか。

 なんという愚かな。


「『バルグンルグ歴二十二年、セラの月、十二日目。兄が聖女と女神の生まれ変わりを確保して、城の地下牢に捕えている。年が変わるまでに障兵の前に持って行くらしい。これでこの国に二度と障兵が出なくなればいいのだが』」

「男性っぽい口調ですのね」

「ああ、だが書いているのはこの屋敷の夫人であるのは間違いない。『夫』『主人』という言葉がよく出てくる。夫の名は『エバージ』。国全体が障兵の日がに悩まされ、畑も家畜も荒され飢餓により死者も出始めたため、不満や敵意が聖女と女神の生まれ変わりに向けられた。……日記の主の言っている『兄』がもしも当時のこの国の国王だとしたら、この日記の主は王妹ということになる」

「だとしたらずいぶん無防備なところに日記を置いていたのですね。いくらなんでもガラスの棚に置いておくなんて」

「確かにな。鍵はついているようだが、ガラスなど割れば――ん? いや、なんだこの素材は。ガラスでは、ない?」

「え?」


 ガラスだと思っていた素材は、叩いてみるとガラスではない。

 埃まみれだが、触れてみると温もりのようなものを感じる。

 他にも似た素材あるいは同じ素材があるかもしれない、と周辺を探してみると、他にもガラスの食器棚を見つけた。

 それも軽く叩くと音がガラスとは違う。

 もしやこれは……新素材……!?


「興味深いものが出てきたな。ガラスと同じくほぼ透明。しかし強度は鏡以上。だとすれば、王族の部屋や馬車に使うことで安全性が格段に上がる。需要が高いな」

「そうですわね。屋敷の破損は大きいのに、そういえば窓枠は破壊されていますけれど、窓ガラスは一枚も破損しておりませんものね。一枚か二枚、持ち帰って調べましょうか」

「そうだな」


 先ほどの日記帳も、いったんすべて王都に持ち帰り分析が行われることになった。

 主に行うのはブリジット様だけれど。

 次は城だ。

 黒い霧――瘴気のせいでまったく見られなかったけれど……やはり素晴らしい建築物だわ。

 ところどころに鉄が使われており、鉄に彫り込みが施されている。

 強度と調度品としての価値があるのね。


「素晴らしいですわ。鉄は硬くて加工が難しいと聞きますのに、それが調度品として使われるなんて」

「ロゼリア、こちらにクローゼットがある」

「衣類など残っているでしょうか?」

「さあ? わからんが……」


 衣類! この時代の、この国のドレスのデザイン!

 非常に興味があるわ!

 聖女ロゼ様が生きた時代よりもさらに古い。

 しかし場所的にオルバグの刺繍文化に近いものがあるのではないかと思っている。

 この時代のドレスはどんなものがあるのかしら?

 ワクワクしながらクローゼットを開けてみる。


「ああ……ボロボロ……」

「まあ、だが思ったよりは形が残っているな」

「そうですわね」


 肩から崩れ、、床に散らばる元々は布であったであろうモノ。

 デザインもよくわからないほどにボロボロのバラバラだわ。

 とても残念。


「だが、靴は残っているな。これは男物か?」

「本当ですわ。しかしなんでしょう、この素材。それに、この靴の底に描かれているのは……紋章でしょうか?」

「普通に考えれば家紋だが……国家紋章である可能性も」

「靴底に国家紋章など不敬ではございません?」

「それを言えば家紋でも同じだろう」

「確かに。ではどういう意図で靴底に紋章など……。なにか意味があるのでしょうか?」

「待て。オーガラという国では魔法陣を簡略化したものを装飾品に刻むことで魔力を即座に通し、主魔児(アルグ)のような威力の魔法を詠唱なしで使うことができていた。もしかしたら――」

「まあ! それでしたら革命ですわ!」


 それが本当なら、か弱い令嬢やご婦人に無理を強いる暴漢を、婦人本人、令嬢本人で退けることができるようになるかもしれないわ。

 例えばスカーフなどに紋章魔法を刺繍したら?

 オルバグの刺繍技術を活かすことができるのではなくて?

 もしくはドレスのスカート……あるいはパニエ。

 そうね、パニエならスカートを膨らませる目的のものだから、表から目立たない。

 それに、不貞を働こうとする者ならスカートを捲る。

 そこに強烈な一撃を……!

 面白いですわね!


「なにか面白いことを思いついた顔をしているな」

「まあ、わたくしそのような悪い顔をしておりましたか?」

「ふふ……自覚がないとは意外だな」

「とんでもない。表情管理は幼い頃より完璧にしておりますのよ? なぜバレたのでしょう? ……ブリジット様はすごいですわね」

「君も俺の表情で、俺の考えを読むではないか」


 それはまあ。

 でもそれは、ブリジット様がわかりやすいから。

 と、思いつつお互いの顔を見つめ合い、つい、おかしくなって笑ってしまう。


「ブリジット様、わたくし今気づいたことがあるのですが」

「ん?」


 頰に手を当てて、ごまかすように微笑む。

 今のは完全にわかっていて、冗談として頰に手を当てていたのだけれど……。


「わたくし、最近溜息を吐いておりませんの」

「……そう、なのか?」

「ええ。王都に戻ったら、また毎日のように溜息を吐くことになるとは思いますけれど……」


 でも、わたくし一つ確信がある。


「ブリジット様が隣にいてくださったら、一日で吐く溜息の数が激減する気がいたします」

「なぜだ?」

「ご一緒していると、とても楽しいからですわ」


 きょとんとした表情。

 その表情がなんだか嬉しくもあり、楽しくもあり、愛おしくもある。


「よくわからないが、あなたの溜息の数が減るのはいいことだろう」

「ええ」



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