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青い森


「ところで、ロゼリアはいつまでここにいるのかしら? 予定は決まった?」

「付与による魔力の消費を回復するのに一日かかりそうですから、三日後青い森に向かうことになりそうですわね」

「まあ? 祝祭のあとに行くという話ではなかった?」

「ブリジット様が国内の瘴兵出現報告がまったくなくなったことを不審に思い、早急に青い森への調査を行いたい、と」

「まあ……」

 

 それに関してはユリッシュも、部隊長も同意見。

 常に戦いに身を置く騎士たち、魔法師団の魔法師たちも同じ意見なのだから、尊重するべきだろう。

 それに、奇襲は早ければ早いほどいい。

 

「では、青い森に行ったあとに祝祭に参加するのね?」

「そうなると思いますわ」

「長旅で疲れたから休養のためにオルバグに滞在するはずだったのに、ちっとも休めていないわね」

 

 頰に手を当てて、小首を傾げる仕草。

 ああ、わたくしもよくする、仕草だわ。

 今まで気づかなかったけれど、お母様の癖だったのね。

 

「そうでもありませんわ。今までは平民の宿に一泊して翌朝には馬車で長距離移動、という生活でしたもの。それなりのベッドでゆっくり眠る日々は十分休養になっていますわ」

「はい。私もそう思います。今考えると、結構慌ただしい生活でしたよね」

「ええ。ですが、それが遠征というものですものね。それでもかなり強行だったようですけれど」

「私が……早く瘴兵のせいで生活ができなくなっている人たちを助けたい、って言ったからですよね」

 

 その通りなのでただ静かに微笑む。

 でも、それでこそ聖女様だと思う。

 それに、ハレノ様の様子を見て無茶だと思えばわたくしもユリッシュも止めていた。

 ハレノ様はそのくらい、真摯に浄化に前向きだったのだ。

 それこそ、止めてはいけない、止めないでほしい。

 そんなふうに言われているかのように。

 

「やはり“拠点”があるのはいいものだと思っております。王都の屋敷も、別段落ち着かないわけではないのですが……」

 

 継母に呼び出されることがないのが、こんなにもストレスフリーだなんて。

 でも…………やはりアリスとユシスが心配だわ。

 手紙のやり取りのおかげで二人が元気なのは伝わるけれど、ちゃんと抱き締めて、目を見て話をしたい。

 だってあの子たちはわたくしの大切な弟と妹なのだもの。

 

「アリスちゃんとフィアナちゃん、ユシスくんともお話ししたいですよね。エミューナにも……」

「そうですわね。みんなに、会いたいですわね」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 二日後、予定通りわたくしたちは青い森へと発った。

 四日後に恋人の祝祭がある。

 馬車で約四時間半のところに――青い森は、あった。

 わたくしも、青い森を実際に見るのは初めてだ。

 

「足元に気をつけて」

「は、はい。ありがとうございます、ユリッシュさん」

「ロゼリア嬢、手を」

「ありがとうございます、ブリジット様」

 

 馬車から出ると、ほんのりと不思議な甘い香り。

 とても薄い香りだけれど……これは……花の香り?

 

「これ……桜の花? でも、真っ青……」

「サクラ?」

「は、はい、私の世界の、私の国で特に愛されてきた花です。春の一週間くらいしか咲かないんですけど、その時期はみんなお花を見ながらお酒を飲んだりお団子を食べたりして宴会をするのがその季節の風物詩なんですよ。でも、桜は薄いピンク色なんです。それに……この森の木、全部桜の木……?」

 

 ブリジット様とユリッシュと顔を見合わせる。

 他の騎士たちも馬車を停めてキャンプを張り始め、周囲の警戒を始めた。

 奇襲なので簡易キャンプの中に十数人の騎士を残し、残りの三十人ほどはわたくしたちの方に合流してくる。

 一度調査に来たことがある四人の騎士によると、森の中に生えている草花も青く、持ち帰れそうなものをいくつか根っこを土ごと持ち帰ったそうだ。

 

「バミニオスの亡国はここからさらに北だな。青い森はやはり瘴気の影響でこのような色、なのだろうか? しかし……」

「ええ、瘴気は感じられませんわね」

「じゃ、みんな準備も整ったし森に入ってみよう。コンパスは正常?」

「ええ、問題ありませんわ」

 

 わたくしはコンパスを魔法で正常に保つ。

 荷物を持つ班を中心に、ハレノ様、ユリッシュ、ブリジット様、わたくしが先頭。

 案内にはお母様の調査に協力してくださった四人の騎士が、なにかがあった時に先頭になって帰還の道案内役になり、わたくしたちがしんがりを務められるようにする。

 しかし、警戒しても生き物の気配もない。

 静かで、時折柔らかな風が通り過ぎていくくらい。

 真っ青な花がそよ風に揺られて、また香りが鼻腔に抜けていくだけ。

 コンパスも正常。

 来ることもなく、あまりにも穏やか。

 

「この森は……いや、この木は――瘴気を取り込み封じ込めているのか」

「そのようですわね。むしろとても過ごしやすいですわ」

「でも、だんだん木々の色合いが濃くなっていない?」

「確かに……」

 

 ユリッシュが眉を寄せて森の奥の方を指差す。

 事実、真っ青だった木々の色合いが来たに進むにつれ藍色に変わっている。

 そして、その藍色の木々は次第に漆黒に変わっていく。

 これは……!

 

「見えた。あれが障兵に聖女と女神の生まれ変わりを捧げ、バミニオスに呑み込まれし亡国の跡地――」

 

 ブリジット様が眉を寄せながら指差す。

 わたくしにも見えたわ。

 漆黒に染まった、建物の崩れた巨大な町。

 あれが、バミニオスの亡国なのね。



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