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夜の女子会(4)


「わたくし、お父様とお継母(かあ)様の夫婦関係を見て夫婦に愛なんてないと思っておりますの。ブリジット様も似たようにご両親の仲がよろしい感じではなかったようですわ。でも、恋愛結婚をして、愛情で結ばれいている夫婦がいることも知っています。わたくしには到底無理でしょうけれど、ハレノ様とユリッシュにはそんな、恋愛をして真摯な夫婦愛に満ちた家庭を築いていただければと思っておりますの。友人たちがそんな幸せな恋愛結婚をしたら、それは……それほどに嬉しいことはございませんわ」

「……じゃあ、ブリジットさんと、ロゼリア先生は……恋人、ってことじゃ、ないんですか?」

「どうなのでしょう?」


 自分でもよくわからない。

 ただ、わたくしがこういう価値観なので、恋愛に持っていこうとなさらなかったのかもしれないわね。

 ブリジット様だけでなく、エルキュール殿下も。

 わたくし、殿方にそういう、我慢をさせてしまっていたのかしら?

 少なくともエルキュール殿下は、わたくしを幼馴染としてしか見ていなかったように思う。

 恋人らしいことを、という話になったことがないもの。

 わからないわ。

 わたくしはあの関係性が楽で、あのままでいいと思っていたけれど……エルキュール殿下はそう思っていなかったのかしら?

 ブリジット様も……?

 婚約したら、恋人らしいことをしたいと思うものなのだろうか?

 だとしたら、そういう話をちゃんと、した方がいいわよね?


「婚約のお話をお受けする話はしていましたけれど、恋人にはなっておりませんわね」

「そう、なんですね」

「ユリッシュはハレノ様に、恋人になってほしい、と言っておりましたの?」

「えっと……」


 まさかのここで、沈黙。

 もじもじとカップを置いて膝の上で手を握ったり開いたりしている。

 ああ、なにかしらのアプローチはされているのね。


「でも……私……やっぱり、帰りたい気持ちも……大きくて……」

「わたくしもユリッシュもその気持ちは尊重いたしますわ」

「……でも……」

「もしも、お母様の推察通りに青い森の奥にバミニオスが瘴気を操る“なにか”が存在するとして……わたくしたちがそれを解決できたのなら……ユリッシュのことはハレノ様がハレノ様の世界に連れて行ってもよろしいのよ」

「は――」


 顔をガバリと上げるハレノ様。

 その場合はユリッシュが家族も地位もなにもかもを捨てることになるけれど、わたくしとしてはユリッシュなどという危険な兄はフィアナにとってそのうち害になりかねないと思っているのよね。

 公爵家の嫡男ではあるけれど、フィアナが後々婿を取ればユリッシュがいなくとも問題はないし。

 わたくしも許されるのならラクルテル侯爵家の当主になることは、考えていたし……。


「ユリッシュはフィアナが“安全”だと確信したら、ハレノ様を選ぶと思いますわ。一つの選択肢としてユリッシュに提案してみてはいかがかしら?」

「そ、そんな……そんなの……」

「もちろん簡単な話ではありませんけれどね。お母様の推測が正しい保障もありません。でもわたくし、夏の恋人の祝祭が終わったら青い森に調査へ行ってみようと思っておりますの。もしも本当に瘴気を発生させるアイテムがあるのなら、それを確保します。瘴気がない世界がくれば、もう誰も傷つかずに済むのですから」


 瘴気のない世界――想像もつかない世界ではある。

 瘴気がなくなったら、少なくとも町や村に住む人々は急に引っ越す必要がなくなるだろう。

 安定した生活は食料の生産性を底上げしてくれるだろう。

 生産性が上がれば国は潤う。

 国が潤えば国民には余裕が生まれる。

 余裕が生まれれば、平民にも教育が行えるようになるだろう。

 平民が賢くなれば、貴族にとっての不便があるのもわかる。

 でも、教育だけは平等であるべきだ。

 学ぶ権利は平民にもあった方がいい。

 女神の生まれ変わり――今代はフィアナや、聖女のような存在がもう、日々罪悪感や瘴兵との戦いに駆り出されることもない世界。

 安心の世界じゃないだろうか?


「私も……っ」

「え?」

「私も……その調査、行きたいです……!」

「まあ。それでは祝祭が終わりましたら調査に向けて準備をいたしましょう。わたくしたちだけでなく、ユリッシュやブリジット様もお誘いしたら来てくださるかしら?」

「来てくれそうですね。ブリジットさんはそう言う調査とか大好きですし」

「ええ」


 わたくしもそう思う。

 ブリジット様はお母様の研究についての食いつきがすごかったもの。

 ハレノ様を元の世界に帰す話のあと、お母様の研究について話題を振ったらそこからの話の広がりは無限大。

 お母様も様々な国を渡り歩いてきたブリジット様の話は、本当に楽しかったらしく「あんな素晴らしい魔法師様を差し置いて、側妃だなんてもったいない! カルト様には『わたくし反対。ブリジット様に嫁がせたい』って伝えておくわ!」と言い出した。

 第一夫人であるお母様の意見は無碍にもできないだろう。

 お父様はどう判断するのだろうか。

 いや、お父様の判断基準の一番大きなところは、家のためになるかどうかだ。

 それ以外の要因がもしも関わるのだとしたら、お継母(かあ)様……。


「……ありがとうございます。私、もう少し考えてみます。そんなにすぐ、帰れるわけではないんですものね」

「ええ、そうなさるとよろしいわ。ブリジット様も、儀式には魔石を作らなければならないとおっしゃっていましたもの」

「そ、そうですよね! そうなんですよね……えへへ……なんか、気が焦っちゃって……」


 カップが空になっている。

 そうか、急に帰れると聞かされて、混乱してしまったのね。

 話をして、少し先の未来の約束をして、安心してくれたのかしら。

 それならよかった。


「おやすみなさい。お話ししてくださってありがとうございました」

「はい。おやすみなさいませ、ハレノ様。よい夢を」


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