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夜の女子会(1)


「ロゼリア先生、ちょっと相談してもいいでしょうか?」

「まあ、大歓迎ですわ。どうぞ」

 

 夕飯を終え、ユリッシュとブリジット様が騎士舎に戻ったあと、わたくしとハレノ様は湯浴みして用意されたゲストルームにそれぞれ入る。

 しかし、ものの十分ほどで部屋のドアがノックされた。

 招き入れると、思ったよりも深刻そうな表情。

 寝室の隣のリビングにある簡易キッチンでお湯を沸かしてお茶を淹れる。

 お母様が用意してくれていたハーブティーは、安眠にいいものを選ぶ。

 

「それで――どうかなさいましたの? 不安なことでも?」

「あの……私……多分、ユリッシュさんのことが、好き……なん、だと、思うんです……」

「まあ」

 

 距離が近づいている。

 と、思っていたけれど、まだ恋人、とまではいっていなかったらしい。

 頰に手を当てつつ、お茶を持ってソファーに近づき、カップを差し出す。

 

「あ、ありがとうございます」

「ハレノ様としては、ユリッシュを異性として意識しておられる、ということなのですわね?」

「は、はい……でも……」

「なにか不安なことがありまして?」

 

 正直なことを言えば、ハレノ様がユリッシュと結婚する、したい、と言ってくれた方が色々動きやすい。

 そもそも、ユリッシュは公爵家嫡男。

 聖女様が結婚する相手に求められる地位の条件は、十分満たしている。

 むしろ、聖女様と婚約するからと婚約破棄したエルキュール殿下がヒメナ様と婚約する、と言い出した方がちょっと不誠実なぐらい。

 だから、ハレノ様がユリッシュと結婚したい、と主張するのならわたくしはどんな伝手を駆使しても応援するつもりなのだけれど。

 

「色々……色々あるんですよ……!」

「たとえば?」

「私じゃ、釣り合わないじゃないですか……! 見た目とか! 立場とか……」

「地位はなにも問題ございませんわよ? 聖女様は王侯貴族との婚姻が推奨されておりますもの。容姿に関して、ユリッシュは確かに美男ですがそのことでずっと女性に対して嫌悪感を抱いていましたの。わたくしと家族以外の女性に、過去色々と迷惑をかけられてしまいましたから。ですから、ハレノ様のような初々しい反応も、容姿を重要視するところがないところも、ユリッシュにとっては救いのようなものだったのではないかしら?」

「――そ……そう、なんですか……?」

「ええ。在学中なんて特に大変でしたわよ。よからぬ、いかがわしい薬を毎日のようになんとかして飲まされそうになったりで……」

「えっ」

 

 信じられないだろう。

 十代半ばの女生徒が、どこからともなく入手したいかがわしい薬――媚薬を持ち歩いているのだ。

 異常事態と言っても差し支えない学園生活だった。

 生徒会に所属して、媚薬の取り締まり、禁止を掲げて奔走した日々が懐かしい。

 女生徒がそんなものを持ち込んでいるのだ。

 多感な男子生徒が興味を持たないわけもなく、わたくしの世代はかつてないほどに乱れた学生生活を送る生徒が多かったらしい。

 わたくしは当時すでにエルキュール殿下の婚約者ではあったが、ユリッシュとも幼馴染で親しかったから女生徒たちの嫉妬のよい(まと)

 ユリッシュはそれに責任を感じて、二年生の後半と三年生からは地方に“騎士として”修行のため遠征に同行するという名目の下、登校しなくなったほど。

 問題はそうして離れた地方でも、地方の令嬢、あるいは公爵家に娘を嫁がせたい貴族からも狙われたという点。

 薬物を盛られそうになるのは変わらず。

 どうにかして我が家に来てほしいと娘と引き合わせようとする執拗かつ無意味な招待。

 行動を監視され、行く先々で様々な女性が声をかけてくる。

 それでも貴族。

 しかも、公爵家という高位貴族だ。

 無碍に扱うこともできず、穏やかにやり過ごすために笑顔を覚えたがそれが逆に女性たちから黄色い悲鳴を引き出してしまう。

 さらに私物は常になにかしらが消え、特にわたくしが誕生日に贈った手袋がなくなった時は深々謝罪をされたものだ。

 すべてユリッシュから聞いた話だが、ハレノ様に聞かせるには少々過激な内容も少なくない。

 

「――と、まあ、その……そのような感じで、ユリッシュは本当に女性関係に苦労しておりまして」

「そ、そんな怖い話、ユリッシュさんは一つも……」

「ハレノ様を怖がらせたくはなかったのでしょうね。ユリッシュが妹のフィアナに依存気味だったのも、そういったものを気にしなくてもよいという安心感があったからです。わたくしはエルキュール殿下の婚約者でしたから、甘えられる対象ではありませんでしたし」

「そ、そうなんですね……」

 

 ハレノ様は……そうね、その点、ハレノ様は最初、自分の容姿にものすごく自信がなかったようだった。

 それは今もだろうけれど、この世界に来たばかりの頃よりは自信が生まれているように見える。

 しかし……まあ、アレの隣が居心地悪いのはわたくしもよくわかります。

 

「ですから、ユリッシュにとってハレノ様のように容姿でユリッシュを判断しない方はとても貴重なのですよ。彼は公爵家の嫡男でもあって、ありとあらゆる女性に言い寄られてきました。でも、ハレノ様にとってはこの国の貴族制度も関係がないでしょう? それになにより、ユリッシュが命よりも大切にしてきたフィアナと、騎士として守るべき国民のためにハレノ様が聖女様としての役目を頑張っておられるのも、心にくるものがあるのでしょうね」



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