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二人の結婚観


 そこから、ハレノ様は近い場所から国中で瘴兵の目撃情報や襲撃のあった地域を八箇所巡る。

 もちろん専属護衛のわたくしとユリッシュは同行。

 気がつけば、ハレノ様が来て三ヶ月経っていた。

 そして、なぜかこの遠征の旅にはブリジット様も。

 いえ、ブリジット様としては聖女様を――ハレノ様を召喚した者として、その役目を果たしている可動かを見届ける責任があるとかないとか……。

 そんなようなことをおっしゃっていたけれど、実際にはなんとなく……別の理由があるような?

 まあ、それはわたくしのことなのだけれど。

 

「ロゼリア嬢は学生時代、五回も歌姫になったのか」

「王都が一回、王都周辺の町が五回、やらせていただきましたわ。妹のアリスも無事に王都で歌姫をすることが決まったそうで、わたくしも一安心ですわ」

 

 手紙を胸に抱き締めて、噛み締める。

 今月の歌姫ということで、わたくしはやっぱり見に帰ることは難しそうなのだけれど……。

 

「それにしても、ヒメナ様はわたくしが歌姫を務めた町で毎月歌姫を務めているようですわ。わざわざヒメナ様の歌を聞くために、他の町からも人が訪れるほどの人気だそうです……」

「王都では角が立つからと、王都以外の町で歌姫をやるようになったのか。しかし、王都以外の町でも歌姫の選定会は行われているのだろう? いいのか? そのようなことを」

「王都以外の主要都市には選定会もありすが、村や小さな町の規模ですと王都側から声をかければすぐに歌姫になることができますのよ。わたくしの場合は、王都で歌姫を務めた経験から、町の方で依頼がきましたの。おそらくヒメナ様の場合も町からの依頼ではないかしら?」

「王都て歌うと、そのような副産物がある、ということか」

「ええ」

 

 ちなみに、他の大陸の国に毎月女神の日を祝って女性が歌姫となり、歌を披露すという文化はないところもあるらしい。

 ブリジット様とお話しすると、そのような他国の話を聞けるので正直楽しい。

 なんとなく、一緒に過ごす時間が増えたことで慣れても来ている。

 彼に見つめられてオドオドしてしまうこともかなり減った。

 むしろ、彼の知識量にはいつも驚かされる。

 やはり大陸の外を見て回ってきた方の話は参考になるわ。

 

「大陸の外に興味があるのか?」

「え? ええと……まあ、そうですわね。ブリジット様と話しをしていると、わたくしの見解の狭さや知識の少なさを感じてしまいますから。大陸の外にはどんな知識があるのか、興味はありますわね」

「留学に興味は?」

「とても! ですが、わたくしには可愛い生徒がたくさんおりますから……在学中ならまだしも、今は――」

「そうか。それなら、旅行はどうだろうか? ドルング島というあまり大きくはない島国があるのだが、そこは島全体が図書館のような国だった。海も美しく、食事も美味い。独特な民族衣装の柄も爽やかで、服のデザインをしているあなたにはいい刺激になるのではないだろうか」

「民族衣装……!」

 

 それは! 確かに興味深い……!

 旅行ならば、行って数日滞在して帰ってくるだけだから……留学ほどの日数を取られることはないし……いいかも。

 

「もし行くのなら、俺が案内をしよう。あの島にはまた行きたいと思っていた。あなたとなら、また新しい発見があるだろう」

「本当ですか!? あ……いえ、でも……未婚の男女が旅行なんて……」

 

 無理、と言いかけたがブリジット様がジッとこちらを見つめてくる。

 そこで彼が言いたいことがわかってしまう。

 結婚すれば、新婚旅行という形で堂々と行くことができる――と。

 結婚……。

 

「ええと……」

「関係のない話なのだが」

「は、はい?」

 

 宿の談話室はあたたかなオレンジ色のランプ。

 その中で立ち上がり、窓の方にランプを持って近づく。

 突然どうしたのだろう、と見ていると「俺の母は子爵家令嬢にしては非常に魔力が高かった」という。

 ブリジット様のご実家は伯爵家。

 お母上は魔力の多さを見込まれて、優秀な魔法師を多く輩出している名家、ジヴェ伯爵家にと継がれた。

 彼女は人生の絶頂。

 しかも、生まれたのは男児。

 姑からもちやほやと褒められて有頂天。

 だが――生まれてきたのは主魔児(アルグ)

 周囲は母親の高く豊富な魔力を受け継いだ男児の誕生に大歓声。

 しかし、当の母親はそうではなかったそうだ。

 魔力が自慢だったブリジット様のお母様は怒り狂ったという。

 

「俺が母の魔力を奪った、と……母は俺の姿を見るとヒステリックに叫ぶようになった。祖母が別邸に俺を連れて、そこで育てられた。父は母に魔力が失われたあとも『妻となった者の仕事である』と言って妹を三人産ませたんだ」

「まあ、妹さんがいらっしゃったのですね」

「ああ、父にとって母も俺も妹たちも家を存続させるための道具に過ぎなかったんだ。母は心を病んで、今は田舎の別邸に移住した。ロゼリア嬢の家は、夫婦仲がいいという噂だが……」

「夫婦仲がいい、ですか……。まあ……いいのかもしれませんわ。ある意味」

 

 周囲からはそう見えるのだろう。

 仲はある意味、大変いい。

 世間の評価は平民と大貴族の大恋愛の末の結婚だもの。

 聖女と王子様の恋愛小説愛好家のアリスも『設定だけはいいんだけれどね』と辛口評価。

 親の姿を見たゆえの評価だ。

 

「お互い夫婦というものにいい印象はないか?」

「――そのようですわね」



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