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ハレノ様、初めての浄化


 翌日の早朝、いつもよりも早い時間い朝食を摂ってから馬車に乗り込む。

 マゴ村はドレングから馬車で約四十分。

 そこから少し北に行くと時空の割れ目があるというので、我々は直接そこへ向かうことにした。

 危険は少ない方がいいし、ハレノ様はまだ一度も聖女の力を使ったことがない。

 お試しに割れ目の浄化は持ってこい。

 もしも浄化作業の途中で障兵が出てしまったら、その時はわたくしたちの出番。

 障兵は武器を持つ雑兵。

 魔法が使えれば退けることは難しくないという。

 問題は数が多いこと。

 割れ目付近は退けても復活が早いらしいのだ。

 というか、わたくしも空間の割れ目を見るのは初めてだから、さすがにちょっと緊張。

 ユリッシュ曰く、一目見ればわかるらしけれど……。

 

「到着しました。割れ目があります」

「「え」」

 

 馬車が道沿いの木陰に停車したと思ったら、御者の騎士が声をかけてくれる。

 書物では『瘴気がひっそりと漏れ出すもの』『人の目にはわかりづらい』『現況の時空の割れ目が見つからず、被害が拡大した』などの記載を多く読んできた。

 割れ目が見つかっている時点ですごいな、と思っていたが――。

 

「「え、大きい……」」

「はい。この割れ目は素人でもわかるほど大きく異質なものなのです。見つけたのは付近の障兵を討伐に来ていた冒険者。割れ目は自然に消えることもないので、付近を警備しながら聖女様のお越しをお待ちしておりました」

「そ、そうなんですね」

 

 案内された割れ目は一メートルほどのもの。

 一目でも割れ目とわかるもの。

 周囲に騎士が武器を持って配置され、ユリッシュとジヴェ様……ではなく、ブリジット様が駆け寄ってくる。

 

「今のところ周辺に障兵はいない。今のうちだ」

「ハレノ嬢、なにがあっても必ず守る。聖女の力が発動しなくても焦らずに落ち着いて集中してみて」

「は、はい。や、やってみます……」

 

 ユリッシュに促され、緊張の面持ちで割れ目に近づいていくハレノ様。

 わたくしも緊張感を持って周辺の気配を探る。

 耳に風の音の他にシューーー、という奇妙な音。

 音の出所を探すと、割れ目から。

 うっすら紫色の霧が立ち込めている気がするが……これが瘴気だとしても、障兵として具現化しなければ魔法で攻撃することもできない。

 とはいえ、瘴気がハレノ様を避けるように流れている。

 ハレノ様は恐る恐る、割れ目に手を伸ばす。

 何事もなく割れ目が消えればいいのだけれど……いきなり聖女の浄化の力を使うのは無理なのかもしれないけれど……。

 

「なにも……なにも起こらない……」

 

 割れ目に触れたハレノ様が呟く。

 自分に絶望したような表情。

 そうね、騎士たちが周辺を警備している中こんなふうに人の期待を一身に受ける圧。

 わかるわ。

 わたくしも歌姫を任された時に同じ圧を感じた。

 でも――。

 

「大丈夫だよ。難しく考えないで。これまでの聖女ができたことを君ができないわけはない」

「ええ、ハレノ様ならできますわ。だってこの世界に来てもう読み書きができるようになったのですもの。ハレノ様はすごい人なのです」

「うん。僕らは君を信じているよ」

「ッ……はい! 私、やります……!」

 

 顔を上げたハレノ様は、今まで見たことがないくらいに真剣な――いえ、強い眼差し。

 そうよ、ハレノ様は努力ができる方。

 わたくしもユリッシュも知っている。

 読み書きの練習も、ダンスも真摯にやっていたもの。

 それだけではなく、こうして勇気もある。

 手を伸ばしたハレノ様は、割れ目に触れるのではなく――真っ黒な割れ目の中へと手を突っ込んだ。

 

「消えて! みんなを困らせるのをやめて!」

 

 叫び声に呼応したように、ハレノ様の体が白銀の光を放つ。

 これは――文献でよく書いてある聖女が放つ光?

 白銀の光が空間の割れ目を包み、急速に収束させていく。

 零れる漆黒が塗り潰されて、瞬く間に空間の割れ目が消えてしまった。

 これが……今のが……!

 

「できた、の……?」

「おおおお!」

「割れ目が消えたぞ!」

「聖女様が割れ目を消滅させた! よおし! すぐに領主に報告しろ! これでマゴ村が襲われる心配はなくなったぞ!」

 

 ワッと周囲から歓声が上がる。

 早馬がすぐに用意され、マゴ村から逃げ出した住人に知らせが行く。

 障兵が具現化する前に割れ目が浄化できて本当によかった。

 

「わ、私、上手くでき、ましたか?」

「もちろんですわ! むしろ、最短です!」

「うんうん! やっぱり君は優秀だよ!」

「で、でも……今、割れ目に手を入れてわかったというか……」

「どうされたのですか?」

「なになに?」

 

 先ほどまでの自信に満ちた表情から一転、ハレノ様は自分の手を握り締め、震え始めた。

 ユリッシュがハレノ様の肩に手を添える。

 

「瘴気? っていうのが、感じ取れるように、なったんです。それで、もう一つ、割れ目が近くにありそうで……」

「「ええ!?」」

「どの方向かわかるか?」

 

 ブリジット様がわたくしの隣に来る。

 ハレノ様が震える指で指差したのは、村の方。

 一緒にハレノ様が瘴気を感じるという場所に案内していただく。



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