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なんか来た


 フィアナがこくりと頷く。

 心配はもっともだ。

 今回の聖女様は異世界から召喚されて、この国の事情に巻き込んでしまう。

 だからこそ聖女様には生活を保証するという意味で、王族や高位の貴族が伴侶としてあてがわれる。

 我々にできることはそのくらいだからだ。

 そして、フィアナからすれば異世界から自分を守ってもらうために戦ってもらわねばならない存在。

 本当に申し訳がなくて仕方ないのだろう。

 わたくしも同じ立場なら同じことを考える。

 でも、仕方ない。

 

「フィアナが瘴兵に捕えられ、バミニオスに献上されるようなことがあればきっとバミニオスの亡国が拡がるような事態になることでしょう。そうなれば、次代の女神の生まれ変わりと聖女様がより、瘴気に苦しむことになる。もしかしたら、瘴気が勢いを増して裂け目が増えてしまう可能性もある。世界が今は亡き暴君に、再び支配されるかもしれないのです。フィアナ、あなたと聖女様は世界を守るための要でもあることを、どうか忘れないで。悪いのはすべてバミニオスの執念。あなたはなにも悪くないのですよ」

「は……はい」

 

 肩を掴み、目をしっかり見ながらはっきり告げる。

 なぜ、この子と異世界で普通に暮らしているであろう聖女様がこんな思いしなければならないのかしら。

 どんどん腹が立ってきた。

 ああ……! バミニオスがもしも現世にも存在しているのならその頰を拳でぶん殴って差し上げるのに!

 

 

 

 

 そんな気持ちを抱えつつ、その日は帰宅。

 帰宅といってもわたくしの住んでいる屋敷は本宅とは少し離れたこぢんまりとした離れの屋敷、

 屋敷と言ってもいいものか、というくらいには、小さい。

 そこに使用人が五人ほど一緒に住んでいる。

 帰宅すると、侍女のメニが少し慌てたように玄関に出迎えに来た。

 

「ロザリア様! すぐに本宅にお戻りください……!」

「急にどうしたの?」

「エルキュール殿下がロザリア様に急用があるといらっしゃっていて……」

「はあ!?」

 

 王侯貴族としての礼儀も知らないの? と叫びたくなるのを堪えて、歯を食いしばる。

 着替える時間も惜しい。

 本宅に、もう来ている――待っているというのだ。

 

「すぐ行くわ。なにを考えているのかしら。はあ……」

 

 上着を着直して、そのまま本宅に移動する。

 玄関には顔色を悪くした使用人が数人待ち構えており、わたくしの顔を見るなり慌てて「こちらです」と応接間に通す。

 応接間の中には父、継母、エルキュール殿下と護衛が三人。

 

「遅いわよ! なにをしていたの!」

「まあ、本日エルキュール殿下がいらっしゃる予定はなかったのですよ? 知らされていないのですから帰りがいつも通りになるのは当たり前のことではありませんか。ねえ? エルキュール殿下」

「そ、そうだな。こればかりはこちらが急に押し掛けたためだ。ロザリアを責めるのはお門違いだ、夫人」

「ッ! ……で、殿下が寛容で助かりますわ」

 

 わたくしの継母でありラクルテル侯爵家の第二夫人、エルローラは平民出身。

 孤児院支援の慈善活動で下町に出ていた父がよく花を買っていた花屋の娘。

 今のは完全にわたくしへのいびりだが、あそこで継母に投げてしまうと完全にわたくしがその産まれを(そし)ってしまうから現況のエルキュール殿下にぶん投げた。

 この場の誰もが継母の出自については知っていることだから、なんとも微妙な空気。

 父はわたくしのことも継母のことも咎めることなくオドオド。

 悪い人ではないのだ、父は。

 ただ、面倒なことに巻き込まれたくない、というのが如実な人。

 だからなにも解決しないし、わたくしも期待しなくなって溜息が出てしまう。

 長居するつもりもなければ継母の小さな嫌がらせでわたくしが座る席もないので、立ったまま話を聞くことに。

 

「それで、わたくしになんのご用なのですか?」

「あ、ああ。じ、実は……今日、昼に聖女召喚の儀が執り行われたのだ」

「ええ。そのように伺っておりますが……」

 

 まさか、失敗した……!?

 エルキュール殿下の深刻そうな表情に、父も眉間に皺を寄せる。

 もしも聖女召喚の儀が失敗したのであれば、聖女様が現れなかったということだ。

 後日に再召喚を行わなければいけないし、失敗の理由を解析しないことにはその際召喚も難しいだろう。

 それまでの間、またフィアナが不安な日々を送ることになる。

 もしかして、その間のフィアナの精神的なフォローを、ということ?

 確かにそれは急ぎの要件かもしれないけれど、手紙でもよかったような……?

 

「まさか、失敗されたのですか?」

 

 わたくしと同じことを思った父が少し前のめりになって殿下に問う。

 重い空気の中、殿下は首を横に振る。

 

「聖女は無事に召喚された」

「え? 無事に召喚されたのですか?」

「あ、ああ……だ、だが……」

「聖女様になにか問題でも?」

「二人召喚された」

「「ふ、二人!?」」

 

 わたくしまで前のめりになる。

 聖女が二人なんて話は聞いたことが――あ、いや、あった。

 

「聖女様が二人召喚されるなどということがあるのですか?」

「確か、百四十年前のアロアット大陸で行われた聖女召喚には異世界から二人の聖女が召喚された記録があったはずですわ。最初はもう一人の方は巻き込まれたのだろうと雑に扱われていましたが、障兵との戦いで正式な聖女様が亡くなられたあとその方が聖女の力を引き継いだと」

「な、なに!? そんな記録が!?」

 

 父が知らないのは、まあわかる。

 でも殿下、お前が知らないのはなんでだよ。



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