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南部スプル地方、ドレング町


 聖女様と王侯貴族との結婚が法で推奨されている理由の一つ。

 最大の理由はもちろん、聖女様の保護と生活の保証だ。

 しかしそれでも、結婚後に聖女様の浄化の力が強化されたという記録は数多い。

 

「王族と、結婚……。でも、私……結婚なんて……」

「聖女様の結婚は、聖女様が望む方とすればよいのです。わたくしの元婚約者であるエルキュール殿下は、召喚されてくる聖女様と結婚するために婚約破棄されました。できればその気持ちを汲んでいただければと思いわ」

「っ……」

「もちろん、他に気になる殿方がいるのでしたら応援いたしますわよ。ユシスやユリッシュはいかがですか?」

「な! なに言ってるんですかぁ!」

 

 冗談のつもり――というより、今のところハレノ様と関わりがある男性がユシスとユリッシュだけなのよね。

 ほほほ、と笑ったが、不思議なことにハレノ様の体を包むように白銀の光がパチパチと瞬いて消えていく。

 なに? 今のは……。

 

「ロゼリアお嬢様、ハレノ様、訓練中申し訳ございません。入浴の準備が整いましたが、いかがいたしますか?」

「まあ、もうそんな時間?」

「ロゼリアお嬢様は帰宅されてからお着替えも終わっておりませんので」

「ああ、忘れていましたわ。そうね、湯浴みして着替えてきますわ。それと、お父様に手紙を書く準備を。遠征について行く旨、報告しておきます」

「かしこまりました。よろしいのですか?」

「あの方はなにもしませんわよ」

 

 そう、お父様はわたくしが遠征にハレノ様の専属護衛としてついて行くことに対して、なんの反応もしないだろう。

 危うく鼻で笑ってしまうところだった。

 

 

 

 案の定、二日後わたくしとハレノ様が遠征に向かうまで父からはなんの連絡も来なかった。

 ユシスとアリス、別邸の使用人たちに見送られて一度城へ。

 城の騎士団から二十人程度の騎士が二台の馬車と騎馬、荷馬車一台で出発した。

 馬車の中にはわたくしとハレノ様。

 ユリッシュが乗り込む前に「フィアナからハレノ嬢に手紙を預かってきたよ」と手渡される。

 移動しながら馬車の中で手紙を読むハレノ様。

 

「なんて書いてあるか、わかりますか?」

「えっと……『ハレノ様へ。障兵退治に、いく、向かわれると、あに、お兄様にみきき、あ、聞きました。いそぐ、急なことでびっくり、あ、驚いて、おります。安全……えっと、こういう場合は――無事にお帰りくださるよう、まいじ……んん……毎日、めう、女神ソアリア様にお祈りしております。無事に帰ってこられましたら、ロゼリア先生と一緒に、学び……だから、お勉強いたしましょう』――でしょうか……?」

「ええ、ほぼ完璧ですわ! 素晴らしいです、ハレノ様! こんな短期間にここまで読めるようになるなんて!」

 

 実際かなりすごいと思う。

 二週間弱でまったく読めなかった異世界の言語をつっかえながらも読めている。

 そんなの普通にすごいでしょう!

 大絶賛しつつ、フィアナの文章の向上にも感動した。

 わたくしが授業に行けない間も一人で頑張っていたのね。

 九歳でここまで配慮した手紙が書けるのは素晴らしいわ。

 このくらいの年齢の子は、例文を真似して書くものだ。

 特にフィアナは社交にほぼ参加していない。

 それなのに相手への思いやりを持ちながらも、今後の予定の約束も入れておく。

 お互いの未来へのおつき合いを望む文言を入れるなんて、ちゃんと勉強しているのね。

 

「お返事、書いた方がいいでしょうか……というか、書いても届くのでしょうか?」

「大きめの町に滞在した時に配達屋に依頼すれば、届けてくれると思いますわ。王都まででしたらそれなりに金額は必要ですが、わたくしもフィアナに宿題を出そうと思っていましたから一緒に封筒に入れましょう」

「はい!」

 

 馬車の中は盛大に揺れるので、とてもではないが手紙を書ける環境ではない。

 むしろ定期的に窓を開けて空気を入れ替え、乗り物酔いにならないよう気をつける方が重要。

 約三日ほどかけて南部スプル地方、ドレング町に到着した。

 舗装されているとはいえ、三日も馬車に揺られていたせいで体がだいぶ痛い。

 民間の宿とはいえ、ようやくベッドで眠れるのね。はあ。

 

「ハレノ様、先に部屋でお休みください。状況を聞いてまいりますわ」

「えっ。ロ、ロゼリア先生、行っちゃうんですか?」

「んッ」

 

 可愛い。

 教え子に不安そうにこんなことを言われたら、側を離れるのが可哀想になるじゃない。

 

「ラクルテル侯爵令嬢」

「ロゼリア、ちょっといいかな?」

「あ、あら」

 

 宿は騎士団がほぼ貸し切り。

 町の方に領主が来て、現状を説明してくれるということになっているのだが、その前にわたくしとハレノ様の部屋に来客。

 出てみるとユリッシュとジヴェ様。

 ジヴェ様!? いつの間にいらしたの!?

 

「領主との話し合いに参加されるというから、迎えに来たのだが」

「え。あ、そ、そうなのですね」

 

 ああ、なんかぎこちない。

 どうも変に意識をしてしまう。

 意識するようなことではない、はず。よね?

 

「ユリッシュはどうしたの?」

「ハレノ嬢に聞こうと思って。領主との会議に参加する? 多分食事に誘われると思うけれど」

「ああ、そうよね。侍女はわたくししかいないから、準備に手間取るかもしれないし――というか、行かれるかしら……? 聞いてみるわね」

「うん、よろしく」




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