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登城


 翌日、ユリッシュが登城するというので、わたくしも同行することにした。

 行きの馬車の中、わたくしもユリッシュも会話はない。

 今回のこと、王家の独断だとしたらずいぶんなものだ。

 

「ハレノ嬢は――瘴兵討伐の遠征についてなにか言っていたかな?」

「昨晩夕飯の時に話はしておいたわ。ハレノ様の立場を守るためにも、必要なことだもの。ただ、やはり怖がっておられたわ。無理もないけれど」

「そうだね。帰りに君の屋敷に寄ってもいい? 僕もハレノ嬢の説得を手伝いたい」

「わかったわ」

 

 ユリッシュの考えていることはわかる。

 この男は、フィアナのためにハレノ様を討伐に向かわせたいのだ。

 だから積極的に申し出ている。

 だが、今回は手を結ぼう。

 わたくしとしても女性から見て魅力的らしいこの貌が使えるのなら使えばいいと思う。

 もちろん、昨日討伐遠征の話をした時わたくしも同行するとは伝えている。

 今回の登城は、エルキュール殿下に“王家の聖女”の話と、騎士団に聖女の遠征にわたくしも同行したいという許可をもらうため。

 必要ならエルキュール殿下を脅し……いえ、スムーズに話を通してもらうために事前に王族の口添えをもらうのもいいだろう。

 

「到着いたしました」

「ありがとう。ではまいりましょうか」

「ああ」

 

 馬車のドアが開いた瞬間、わたくしたちは笑顔になる。

 笑顔は貴族の武器だ。

 ユリッシュもわたくしも、容姿の使い方を熟知している。

 昨晩のうちにエルキュール殿下に面会の要請――軽い脅し含め――をしておいたので、スムーズに案内された。

 そうよね?

 わたくしのこともユリッシュのことも、敵にはしたくないものね?

 

「まあ、ご覧になって。ユリッシュ様よ」

「いつ見ても素敵」

「隣にいるのはラクルテル侯爵家の……ほら」

「ああ、例の」

「ロゼリア様だわ。相変わらずお美しい……!」

「聞きました? 例の“聖女様”、ロゼリア様がご指導されてから人が変わったように淑女然とされたとか」

「最初は手がつけられなかったのでしょう? さすがは国一番の淑女だわ……素晴らしい」

 

 ユリッシュと視線を合わせる。

 まだ普通の貴族令嬢や婦人が歩いている廊下。

 そこでの噂が、耳に入ってくるのはいつものこと。

 しかし、なんだか奇妙な話が聞こえてくる。

 

「こちらでお待ちください。すぐに殿下がまいります」

 

 応接間に通されて、わたくしとユリッシュはそれぞれソファーと窓際に移動すした。

 メイドが二人入ってきて、お茶の準備を始める。

 まあ、メイドの視線はチラチラとユリッシュの方を向いているけれど。

 間もなくエルキュール殿下が応接間に入ってくる。

 存外早かったわね。

 

「まあ、殿下。お久しぶりですわ」

「お……おお」

「エルキュール殿下、お久しぶりです」

「え? あ……ああ……。え?」

 

 ソファーから立ち上がり、スカートの裾を持って頭を下げる。

 ユリッシュも窓際からわたくしの隣に来て騎士らしく膝をついて挨拶。

 幼馴染のわたくしたちの、あまりにも他人行儀な挨拶にエルキュール殿下の目が泳ぐ。

 わたくしたちが怒っているのは伝わっているようでなによりですわ。

 

「で。今回の件、ご説明いただけますのよね?」

「それは……もちろん」

「さっそく、よろしくお願いしますわ」

「はい」

 

 メイドが下がり、殿下の護衛騎士が三人入ってくる。

 まあ、それなりにいつものメンバー。

 ソファーに腰かけて、エルキュール殿下の話を聞く態勢を取る。

 

「ま、まず……俺、ヒメナと結婚する!」

 

 グッと拳を握ったが、自分でも困った顔のままユリッシュを見てしまう。

 これは――殴った方がいいかしら?

 いや、でも……うーん? 一旦様子を見ますか。

 

「つまり王家ではヒメナ様を聖女として世間に公表するおつもり、ということですか? 実際に聖女の浄化の力を持つのはハレノ様なのですよね?」

「ま、魔法陣はハレノを聖女だと反応を見せたが……しかし、よく考えてほしい! どう見てもヒメナとハレノのどちらが聖女と言ったら、ヒメナだろう!?」

「いえ。わたくしは誰がどう見てもハレノ様が聖女だと思いますわ」

「僕はヒメナ嬢とやらと会ったことがないからわからないなー。でも、ハレノ嬢と話をした限り、慈悲深く純真無垢で、聖女だなと感じたよ。正直、彼女を戦場に連れて行かなければいけないのは、フィアナのためとはいえ心苦しい」

 

 ユリッシュがここまで言うなんて。

 わたくしがそう思ったからか、エルキュール殿下も「うっ」と詰まる。

 

「だからハレノ嬢が遠征に行く時は僕が専属の護衛騎士になる。彼女は絶対に守らなければならない。フィアナのためにも」

「ユリッシュ……」

 

 わたくしがその役目を担うつもりだったのに。

 さすが重度のシスコン。

 最後の単語がなければかなりかっこよかったのに。

 

「……そ、それなら、それでも……いいが……」

「いいが、ではございません。わたくしたちも、魔法陣も聖女様はハレノ様であると示しているのに、王家はヒメナ様を聖女として公表する――ということで合っておりますか?」

「し、しかし、ヒメナはお前が説得してくれたおかげで人が変わり、立派な淑女を目指すようになったのではないのか?」

「それがどういう意味なのかがわからないのです。わたくし、殿下に頼まれた翌日にお会いしたきりヒメナ様にはお会いしておりませんのよ」

「え?」




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