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父と話し合い(2)


 ユシスは実母であるはずのエルローラ様をかなり嫌悪している。

 エルローラ様が平民だからというより、エルローラ様のヒステリックな部分を特に嫌悪しているように見えるのよね。

 そんなエルローラ様を擁護しているお父様も、ユシスにとってはあまりいい影響のある相手ではない。


「家から追い出されるかもしれませんわよ。そうなったら――エルローラ様と二人でわたくしのお母様のように、田舎に引っ越すことになるかもしれませんわね」

「そ……それは……っ」

「王都がお好きなエルローラ様にとっては不快極まりないでしょう。昨日も申しましたが、わたくしとしては別段、本宅にこのままお父様とエルローラ様がお住まいになっていてもよろしいのですよ?」


 昨日、わたくしの希望は伝えてある。

 わたくしを侯爵にして、ユシスを婿に、アリスを嫁に出す。

 わたくしの夫は婿入り。

 それで家を運営しながら、わたくしは教師としてのんびりと暮らす。

 わたくしが教師をしながら教え子を増やせば、侯爵家の地位はかなり盤石なものとなり、またきちんとした教育が行われれば国力も安定する。

 いいこと尽くめだと思うのだけれど。

 まあ、ユシスが絶対侯爵家を継ぎたいというのなら、わたくしはそれでも構わない。

 しかしユシスには自由に未来を選択してほしいとも思っている。

 可能性を一つに絞るようなことはしたくない。

 それはアリスにも言える。

 だから、それを前提に夫となる人を決めめほしい。

 今の家長である、お父様に。


「どう思っていらっしゃるの? お父様は」

「わ、私は――私は、そ、そうだね……まあ、その……あーーー……ロ、ロゼリアがユリッシュと結婚してくれたらと思っていたんだよ」

「ユリッシュと?」

「そ、そう。公爵家との繋がりもできるしね。なので、エルキュール殿下との婚約が破棄されてすぐに、公爵に相談しに行ったんだ」

「ええ!? それは初耳ですわよ」

「まあ……。その、本人たちの意思に任せたいと、断られてね……」


 思わずティーカップを持ち上げて、一口飲む。

 動揺を隠せない。

 父にはわからないだろうけれど。

 ユリッシュと婚約だなんて。

 しかし、お父様もこんなにおどおどとしておきながら、なかなかにしたたか。

 王家との婚約がなくなってすぐに、次に位の高い公爵に目をつけて相談に行っていたとは。

 やはり抜け目がない。

 こういうおどおどとした言動も、ある意味では敵を欺くのにちょうどいいのかもしれないわね。


「だから、まあ……父としても、君をブリジット・ジヴェ卿に嫁がせるのは、いいのではないかと思っている……んだけれど……ユシスも、いるし」

「わたくしにきている婚約の申し込みの中で、ジヴェ様が一番、位が高いということですか?」

「まあ……そうだね。ジェブロック侯爵家からも、まあ、その……婚約の申し込みは来ていたが……」

「ああ、あの方」


 ジェブロック侯爵家は、我がラクルテル侯爵家の政敵。

 そんな家がわざわざわたくしを嫁に、なんてずいぶんとまあ……という感じだ。

 というか、ジェブロック侯爵家の嫡男はすでに結婚済み。

 第四夫人までいる、それなりに大所帯。

 年齢も十歳は年上。

 まあ、それに比べればユリッシュの方が……。

 でも、ユリッシュ、ねえ?

 それに、ジヴェ様。

 気心が知れているという点ではユリッシュだけれど……。


「でも、エルローラは、オッブリッシュ伯爵に嫁がせるのが一番いいと言って、聞かなくてね……」

「ほほほほ」


 思わず笑ってしまった。

 オッブリッシュ伯爵は西部の成金貴族。

 商売は上手いようだが、女好きで有名。

 彼の統治している領地の少女は十三歳になると城のようなオッブリッシュ伯爵家に集められ、行儀見習いと称してメイドとして働かされる。

 そして十六歳になると、処女を伯爵に捧げてから嫁に出されるとか。

 伯爵の言い分は『夫となる男性との初夜で、失敗しないよう指導するのも領主の勤め』らしい。

 領地の統治について、王家はあまり口出しはしないので許されているけれど、だから嫁が来ないといい加減気づいた方がいいわ。

 ただ、本当にお金は持っている。

 なるほど、わたくしを金持ちの色狂いの嫁にしたいという継母の希望に、これほど添った人は他にはいないかもしれないわね。


「でもそんなところにわたくしを嫁に出してよろしいのかしら? わたくし、乗っ取ってしまいますわよ? オッブリッシュ領を」

「あ、ああ……君なら……そうするだろうね」

「ええ。あんなふざけた統治、わたくしが許すとは思っておられないでしょう? むしろ、わたくしにそうしてほしいとおっしゃるのなら、喜んで務めますけれど」

「い、いや。私はそんなことを考えてはいないよ。まあ、その……だから、私が言いたいのは……ジヴェ卿は、どうかな、と」

「ジヴェ様、ですか。まだどのような方なのか、人柄も詳しく存じ上げないので返答に悩みますわ」


 頰に手を当てて、少しだけ首を傾ける。

 実際、ジヴェ様が初めて会った時のような方なのだとしたらあれはあれで扱いが難しい。

 主にヒメナ様への言動。

 不快感を隠しもしないところ。

 貴族らしからぬ直情的な面が不安要素。

 各国を巡って魔法を学んできたという知識量や、実際に聖女様たちを召喚した実力は疑いようもないけれど。


「実は、その……他にも多くの申し込みは来ている。そろそろ三桁に、届きそうだ。同じ家の、長男から四男まで、という家まである」

「まあ」


 数打てば当たるとでも思っているのかしら?

 さすがにそれは呆れる。



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